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【実録・完黙独房奮闘記】 #02 THE DOORS |連載小説

【ブルマで飛行機】

黒く冷たい手錠をかけられ、世間様に見えない様になのか、昭和の女子小学生が履いていたブルマの様なもので手の先をすっぽりと隠された。

実は意外な事に手錠をかけられたのは生まれて初めての経験だった。手の自由を奪われるだけで、ここまで不安で不快になるとは思ってもいなかった。

そのままタクシーで羽田空港へと向かった。

羽田空港は旅行や出張の多くの人で混雑しており、ドレッドヘアに伸びきった髭という風貌の男が、体格の良い男達に囲まれ、手の先にはブルマを巻いている姿に、多くの人が目を向けて来た。

“勘弁してくれよ、、”

他人にどう見られるかなどと考えてる場合でないのに、自分の気の小さな性格のせいなのか、それとも脳が現実逃避をしているのだろうか、、

なによりも気になってしまったのは、国土交通省で働く兄が羽田空港に居るはずなので、どこかに居るのではないか?と気になって仕方なかった。

気が小さいくせに楽観的な考えをする私は、頭のどこかでは何だかんだで20日で帰れるんじゃ無いかな?なんて思ってもいた。

当然、そんな考えは甘かったし、そのような甘い考えが自分を苦しめていくのだった。

九州の田舎行きの飛行機は小さな飛行機で、まず一般客が乗る前に乗せられた。

1番後ろの窓側の席、周りは全て刑事に囲まれる穴熊囲いよのうな布陣。

飛行機が安定高度に達した頃、CAさんが飲み物を配り出した。

私がブルマのくっついた手を伸ばすと、少し驚いた顔をしていた。

いつもニコニコのCAさんの、あのような顔を見たのも初めてだった。

着陸態勢に入ると、春の嵐の中を揺れに揺れて高度を下げていき、ドンっとバウンドをするように着陸をし、私はホッと胸を撫で下ろした。全くホッとしてる場合では無いのだが、まだまだ死にたくないんだなぁと感じた。

※余談だが、私は二十代半ばから人知れずパニック障害に罹患しており、(病院に行ってないから自己診断だが)特攻野郎Aチームのコング並みに飛行機を嫌っていたのだが、この時の手錠をしながらの飛行機という体験を通してからは余裕で乗れるようになった。今となってはこの経験には凄く感謝している。私はパニック障害の治療には荒療治が1番効くと思っている。

つづく

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