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夏。エアコンの効いた部屋の中で。

まだ産まれて間もない赤ちゃん。大人になったあなたは、なにも覚えていないでしょう。

じわじわと暑い夏の日、エアコンの効いた部屋の中。お母さんと、お父さんと、あなたの3人で、いまが何時か咄嗟にわからなくなるまで、とろとろとした夢のような日々を過ごしたこと。朝も夜も関係なくえーんえーんと泣くあなたに、お母さんとお父さんは「おなかすいたかな?」「おしっこかな?」「うんちかな?」と何度もあなたの心を想像しました。細切れ睡眠でぼんやりした頭でも、あなたは本当にかわいくて、かわいくて、あなたのお顔を見ながらお母さんは何度も涙が出ました。

ごくごくと一生懸命に母乳を飲むあなたの頭を、お母さんの手のひらがするりするりと撫でていたこと。小さなおててに指を添えると、見た目に反して力強くぎゅうと握ってくれたこと。おむつ替えのときにシャーとおしっこをして、お父さんのパジャマをびちゃびちゃにしたこと。おめめがパッチリの夜はお父さんの膝の上であやされて、やがて眠りに落ちたこと。

今年の夏も変わらずの猛暑で、外はうだるような暑さです。部屋の中は涼しいでしょう? 外と中はまるで違う世界のようで、現実なのは外か、中か、お母さんはたまにわからなくなります。窓を隔てただけなのに、この部屋は外とは別世界のよう。時間の流れさえどこかゆったりと遅れている気がして、お母さんはとても不思議な気持ちになります。

この部屋で過ごした日々を、大人になったあなたはなにも覚えていないでしょう。それでいいです、覚えていなくて。かわりにお母さんが、世界から切り離されたようなこの部屋の空気感ごと、しっかり覚えておきたいと思います。

マットレスとベビーベッドを詰め込んだ、決して広いとは言えないこの部屋。あなたが大きくなるにつれて、この部屋で過ごした時間が、きっと目がうるむほどに懐かしくなる。恋しくなる。

いつまで一緒にいられるでしょうか。一緒にいられるうちは、たくさんたくさん、かわいいかわいいだいすきだいすきと、あなたに言わせてほしいです。


書いた日:2022年6月

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