トムカーガイ/クルン・サイアム

午前11時に6年ほど担当してもらっている美容師を指名して髪を切った。「今日もいつもの感じ?」と聞かれて、「うん」と言ったものの、気分を変えたくて「あー。ちょっとオリーブ色っぽく?」と色を指定した。髪色が暗くてネイビーやらオリーブやらの色は自分でも何とか分かる程度にしか入らないのだが、大事なのは気持ちだ。
軽くなった頭で街をルンルン気分で歩いていると、仕事の電話が鳴った。障害だ。時刻は12時半。そのまま家に帰るという選択肢もあった。しかし、私にはどうしても食べたいものがあった。タイの白くて酸っぱいスープ「トムカーガイ」だ。
近所のタイ料理屋のメニューにあることを確かめていた私は、それを飲まずして帰宅することはできなかった。有名なのは「トムヤムクン」だが、「トムカーガイ」は去年知人に教えてもらった。
ココナッツミルクの白いスープにレモン果汁、唐辛子、パクチー、レモングラスなどのスパイス、フクロダケ、そしてたっぷりの鶏肉!白いスープといえば「鶏白湯」のようなまろやかさを想像するのだが、むせそうになる程の酸っぱさと辛さ、尾を引くココナッツの甘い香り。容赦ない(これを書いている今も涎が止まらない)。
行列に並んでいる間「食べたら仕事しに帰らなきゃな」と落ち込んでいたが、トムカーガイを飲んでいる間は忘れられた。いつかの「空気階段の踊り場」で、もぐらさんのお母様の「うまいもん食うために生きてんだ」という発言が紹介された。本当に、心からそう思う。
うまいもん食わなきゃ仕事なんてやってられないし、仕事させんならうまいもん食わしてからにしろ、と思う。私の舌は会社の会議で発言したり、逆に言葉を呑み込んだりするためについてるのではなく、ただ、うまいもん食うためについてる、ということを忘れずに生きたい。

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