福島に行った3頭のぼんの話。その6

※東日本大震災の話を記載しております





毎日見続けていたテレビのニュースも
だんだんと辛いものばかりになってきた


最初のうちはがれきの中から生存者が見つかったりと
絶望の中にも希望が持てるニュースもあったが

行方不明になってから
生存している確率は
人も 動物も、時間(とき)が経つにつれ
望みが薄くなってくる現実を突きつけられるようになってきた…


そんなとき

避難させられたままずうっと帰れなくなっている
ある酪農家の話を聞いた


彼らは家族同然の家畜を立入禁止区域に
涙をのんで置いてきたという

その場を離れるときは
すぐに帰れると思い
家畜舎に繋いできてしまったと言っていた

繋がれていなければ、もしかしたら生きていられるかもしれないが
繋がれたままでは多分もう無理だろうと…
どうして繋いだまま出てきてしまったのかと

その方は自分を責めて責めて責めて…
泣いていらした


そのあと何日か経って
牛舎から逃げて野生化している牛をテレビで見た

人がひとりもいない
まさにゴーストタウンを
牛が群れをなして行動していた

牛舎からうまく脱走できれば
餌にありつけるかもしれない

だけどその餌も草も
放射能にやられている確率が高い

あの今は生き延びている牛たち…
頑張って生きていても
未来はあるの?

ゆきぼんももしかして
あのなかにいるのかも知れない
でも 逃げられたのならまだましかも…

繋がれたまま息絶えた牛たちも
たくさんいたらしい

骨になって自分のうちの牛舎に横たわっていても
駆け寄ってやることもできないなんて
どこかおかしいんじゃないか?

自分のうちに帰れないなんて
どこかおかしいんじゃないか?

生き物の命を見捨てなきゃならないなんて
そんなのどこかおかしいんじゃないか?

毎日が悔しい哀しい
やりきれない気持ちでいっぱい…

でも

大変な思いをしているのは
ゆきぼんだけじゃなかった


国産牛に義務付けられている
個体識別番号
両耳に付いている黄色い札の番号のことだ
産まれたらすぐピアスみたいに耳に着ける

一頭一頭に違う番号がついており
この番号で
出生地
生年月日
種別
性別などがわかるようになっている

スーパーなどで販売されている牛肉にも表示が義務付けられているので
見たことがある方もいるだろう
番号さえわかれば
家畜改良センターのホームページで検索可能だ

移動報告も義務付けられていて
出生
死亡
導入
そして出荷の時も報告する

つまり
どこで産まれ育ち
どこの市場に出場し
最後にどこで
いつ、と蓄されたかがわかるのだ
住民票みたいなもの


ある日
ゆきぼんの個体識別番号で検索した
もしかしたら福島から避難して
どこか違う地域の牧場に行ってるのではと思ったから

ゆきぼんは福島にいた
やっぱり紛れもない事実
現実から顔を背けたい気持ちでいっぱいだったが
仕方ない、無事を祈るしかないのか

ふと
もんぼんの検索をしてみた
あいつは元気でいるかな

あれ…福島?
ゆきぼんと間違えちゃったか
手が勝手にゆきぼんの番号を押したんだ…

でもちょっと待って
出荷した日もんぼんで間違いない
どういうこと?

念のためしずぼんも調べた
福島?どういうこと?


何ヶ月も知らなかった
いつもなら出荷したら、次の主様の場所に導入したという報告がされるまで
毎日ホームページで検索していたのに

ゆきぼんの出荷がすぐだったのとその後のゴタゴタで、ゆきぼんの心配ばかりして
もんぼんとしずぼんのことをすっかり忘れていた

もんぼんとしずぼんは道内の主様に落札されたが、この方は全国に牧場をお持ちだった
偶然、福島の牧場に2頭を移動していたのだ


なんということ
3頭とも
福島にいるというの…!