福島に行った3頭のぼんの話。その9

※東日本大震災のお話です





ある日
出版社から封書が届いた

定期購読もネット注文もしていない
「なんだろう?」

夫は
「注文して忘れたんじゃないの?」
「そんなことないと思うんだけど…」
いぶかしがりながら開けてみた

中には最新号の雑誌とQUOカード
そして
「掲載されました」と書かれた文面
「掲載?……ああ!思い出した!」
投稿してから3ヶ月も経ってすっかり忘れていた

夫に話していなかった雑誌への投稿の件を初めて話し
まっさらな発売前の雑誌をめくった

「………あった!」私が書いた文章は、ほとんど校正されることなく掲載されていた
思ったよりもたくさん紙面を割いていただいて申し訳なかったが
掲載していただいたことは素直にうれしかった
書いた時の気持ちが鮮やかに蘇り
目の奥の方がつーっと痛くなった

読み終わるとすぐに黙って夫に渡した
日頃活字は嫌いだと新聞以外は読まない
本をよく読む私を
「気持ちがわからない」と言い切る夫

珍しく受け取った

黙ってゆっくりと読んでいた
「こんなこと考えてたんだな」

そう
震災は被災していない私たちからもいろんなものを奪っていった

例えば思ったことを話し合う時間
ぼんたちのことが悲しすぎて
夫に全てを話せなくて
結果
なんとなく無口になっていた

夫も心の中の整理がつかず
気持ちがささくれだってしまい口を開くとケンカになるので
なんとなく少しずつ無口になっていた

雑誌に載ったことで
見失いかけていたいろいろなもの
取り戻していける

そんな気がした


嬉しいことはその後も続いた


雑誌に掲載された2ヶ月後
私が投稿した文章にコメントを下さった方がいた

その方は
動物を育てることがどんなに大変なことなのかと考え
理解して下さり

慈しんで育てている酪農家や畜産農家
みんなへのエールと

行方がわからない牛たちが
どうぞ
家畜としての一生をまっとうできますようにと
祈って下さっていた

自分の気持ちに
ただただ正直に書いた文章が
誰かの心に響いた

それだけで書いて良かった
投稿して良かった
掲載してくださった出版社にも
改めて感謝した

でも
すべてがクリアになったわけではない

まだ
私の中では終わっていない

しずぼんとゆきぼんはどうしているの?
やっぱり被災したんだろうか
まだ行方不明だったりするのかな

でもなんだか最近
近くにいるような気がして


悲しくなるだけだからと封印していた

個体識別番号の移動報告検索
久しぶりにしてみることにした

正直
まったく期待していなかった
きっとまた落胆するだけだろうと思って

でも
以前(まえ)と違って
知らない人だけど
私の気持ちを共有して下さる方がいる
ひとりぼっちじゃない
辛いのは私だけじゃないという思いが私の背中を押してくれた


しずぼん

H24.10.28
福島県より転出
同日
東京食肉市場に搬入
H24.10.29
〃 搬出
同日
東京都立芝浦と場搬入
同日
〃 と畜


ゆきぼん

H24.10.21
福島県より転出
H24.10.22
東京食肉市場に搬入
H24.10.23
〃 搬出
同日
東京都立芝浦と場搬入
同日
〃 と畜



家畜として産まれ


慈しみ
育てられ


震災からも
津波からも
原発からも命がけで守られた


大切な3頭のぼんは
家畜としての生涯を
まっとうすることができました

命がけで守って下さった福島の主様には
ただただ感謝しかありません

手を合わせ
安らかに眠れと
また
生まれ変わることがあるならばもう一度うちに生まれておいでと
そうしたら
もっと可愛がってあげるからねと

「ありがとう」
感謝の気持ちを祈りました




我が家の3頭のぼんたちは
無事に
一生を終えることができましたが


福島をはじめとする被災地には
まだまだ
行方不明の動物も
野生化した動物も
飼い主を失った動物もたくさんいます

震災から2年が経過し
報道もなかなかされなくなってきましたが
まだまだ問題は山積みですし
何も解決していない

救いの手をさしのべてもらえず
廃業するしかなかった酪農家や畜産農家の方も
たくさんいますし
中には悲観して人生を自らの手で終えられた
悲しい方々もいらっしゃいます

時間が経つと
何事も風化してしまいます
でも毎日でなくても
たまにで良いから思い出してほしい
私たちの住む日本の中には
まだまだ戦っている人たちがいること



先日
新聞にこんな記事が載っていました

被災地で
飼い主が不明のため引き取り手のない牛を
引き取って餌をやり
面倒を見ている酪農家の話

その方は
「当たり前のことをしているだけだ」とおっしゃっていました
「おなかをすかせているんだから面倒見てやるのは当たり前だ」と
「いつもは牛で生活させてもらってるんだから困ってたら助けてやらないと」って

表面にはなかなか出てこないけどこんなすごい方もいる
みんな辛い思いをしたけど
まだまだ日本も捨てたもんじゃない

頑張っている方を見るたびに
自分も頑張っていこうと思いました



長文を読んでくださってありがとうございます
次が最終回です