福島に行った3頭のぼんの話。その5


間違いであるはずはないのに
間違いであってほしいと思い
ゆきぼんの売買契約書を震える手で探し、引っ張り出した

購入者の欄…
住所にはやっぱり福島県って書いてある…


なんてことだろう

ゆきぼん
きっと怖い思いをしている…

そうこうしているうちにも、余震が何度も何度も続き
津波警報でテレビ画面が真っ赤に点滅している

地震情報が次々と映し出される恐ろしいテレビ画面をただただ見つめていた
だんだん目の前が霞んでなにも見えなくなり
ただただ泣きじゃくった
泣くしかできなかった


…無事なんだろうか
こんな状況で

人間だってパニックになっているだろうに
牛は逃げることなんてできたのだろうか…

牛舎で津波になんて遭っていたら逃げる間もないだろう
柵があったり、繋がれているかもしれない

自力で逃げるのはまず無理だ…絶望しかなかった

購買者様の牧場をネットで検索し、おおよその場所の検討はつけたが
その場所がどれだけ被害を受けたかなんてわかるはずもない
そのくらい日本中が混乱していた


ゆきぼん…
どうしてる…?


牛の個体識別番号(耳に着けているその牛だけの番号。人間の戸籍謄本のように 親の名前 生年月日 住所などがわかる)を頼りに検索をしてみた

やはり、間違いなくゆきぼんは
福島県にいた…

福島県に到着してたった一週間
まだ新しい場所にも慣れていなかっただろう…

今はもし
無事に生きていたとしても
このあとはどうなる…?

原子力発電所がとんでもないことになり
近隣の人々には避難命令がでたという

現地では、牛や 馬や 鶏や 豚や 犬や猫や みんなみんな
涙をのんで 置いてきたという…


当たり前のことだが
動物は、餌がなかったら死んでしまうのだ


世話をしてくれる人がいないと
生きてゆけない


被災地の
置き去りにされた動物たちに


未来は…………?

車で乗り込んで
助けに行こうかと思った
ゆきぼんくらい車に積んできてやる


絶対見つけてやる!と、本気で考えたが
夫に止められた


もう
うちの牛ではないのだ


それに
立入禁止区域に部外者なんて入れるわけがないと…


祈ることしかできないのか
自分の非力さを本当に恨んだ


だけど 実際にできることは、自分にはなに一つない

「お願いだから無事でいて…」
頭が割れそうに痛くなるほど
毎日毎日毎日毎日…祈ることしかできなかった