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月例落選 俳句編 2022年11月号

投函したのは7月29日。暦では立秋目前だが、暑い盛りだ。気温という点では今年は厳しい夏ということになっているが、私的には例年になく過ごしやすかった。毎日のように風が強かったので、暑くて眠れないという日がなかった。夏は風さえ吹けばなんとか凌げる。

題詠のお題は「幹」。「幹」という文字を見て真っ先に思い浮かぶのは新幹線だが、新幹線で俳句を詠むというのはなかなか容易ではない。仕方がないので道路のほうで詠んだ。あとは木の幹で一句。

夕立で幹線道路が川になり

散松葉ちりまつば重ねて幹は太くなる

近頃は空の底が抜けたような雨が降る。天気予報では「線状降水帯」という言葉を頻繁に耳にするようになった。雨が人の想定を超えて激しく降るから、人の暮らしに災いをもたらすということなのだろうが、その「想定」が人の都合に合わせたものになっていることも少なくない気がする。山には森があって、気象の多少の振れはそこで受け止めて、低地での暮らしの緩衝になり、低地の方でも広く溜まった大河や湖沼や海が気象を和らげるとともに、命の水を大地の営みに供給する。そもそも地球はそういうふうにできていたのではないだろうか。その大きな交渉の中に在って、節度を持って暮らしていれば、そうそう困ったことにはならないものを、つまらない欲を出して目先の都合に合わせて無闇に壊してしまったから、暮らしが「想定外」だらけになってしまったのではないだろうか。夕立という自然の営みが幹線道路という特定種の過剰な営みをわずかな時間でひっくり返すのは、我々人間にとっては災いであるには違いない。だからといって、さらに頑強な構造物を作るのは本当に問題の解決になるものなのだろうか。

大きな松の根元には茶色くなった松葉が堆積している。立派な幹を持つ木の根元には厚い落ち葉の堆積がある。どちらもあるのが当然で、幹だけを求めるわけにはいかない。世間では幹だけを欲しがることが多い気がする。

雑詠は以下の3句。

シベリアに咲いているかも百日紅

鰯雲見つけて嬉し節電日

熱帯夜手に汗握る怪談会かいだんえ

シベリアというところには行ったことがないのだが、勝手な想像では寒冷な大地が果てしなく広がっている。近頃は温暖化で、そんな寒冷だった大地に百日紅が花をつけているのだろうか。そのシベリアの向こうで戦争をしているので、その関係の映像を目にすることが多くなった。破壊された住宅の外壁にエアコンの室外機があるのを見て、私は少し動揺する。やっぱりエアコンを買った方がいいのだろうか。

今月に入って急に気温が下がった気がするが、今月1日から4日にかけて奈良に遊びに出かけた時は、結構暑かった。当然、これらの句を詠んだ7月の終わり頃はもっと暑かった。それでも、立秋が近づくにつれて空に鰯雲を見ることが多くなった。地上では果てしなく暑さが続く気がするものだが、空はちゃんと季節の移ろいを示している。それを見て、なんだかほっとした。

怪談を聴いて背筋が凍ったりする、ということになっている。たぶん、そういう怪談が怪談としては良い出来なのだろう。「えーっ、それからどうなるの」と手に汗握るような展開の怪談は話としては上手く出来ているのかもしれないが、怪談としてはどうなのだろう、と思った。

見出しの写真は題詠の「幹」にちなみ、新幹線0系の台車。

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