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真鍋真 『深読み!絵本『せいめいのれきし』』 岩波書店(岩波科学ライブラリー 260)

『せいめいのれきし』とは、1962年にバージニア・リー・バートン(Virginia Lee Burton)が発表した絵本 "Life Story" のことである。日本語版は石井桃子の訳で1964年に発行。バートンといえば、自分の中ではこの本よりも『ちいさいおうち』なのだが、最近、生物の進化のことが気になっているので、勉強するつもりで購入した。"Life Story"はバートンの最後の著書だ。1968年10月15日、肺癌のため逝去。享年59歳。なんだか自分の今の年齢で亡くなった人の仕事が妙に気になるのである。

本書はその解説書。絵本というと子供の読むものと思いがちだが、そんなことはない。自分の娘が小さい頃は毎週末、夜寝る前に絵本の読み聞かせをしていた。毎回違う絵本を読むとなると年間100冊ほど買うか借りるかしないといけないことになるといけない勘定だが、お気に入りで何度も読まされる本が数十冊はできてくるので、言葉を覚え始めた2歳くらいから小学校に上がる前後くらいまでの間でそれくらいの冊数かもしれない。数えたことがないのでわからないが。その中にこの手の科学系はほとんどなかった。

バートンは絵本作家であって、生物学者でもなければ考古学者でもない。"Life Story"は彼女の最後の作品だが、最後と決めて書いたわけではないだろう。それまでの作品と同じように熱心に下調べをし、毎日のようにアメリカ自然史博物館に通ってスケッチをして、読者に正しい話を伝えようと真摯に取り組んだであろうことは、出来上がった仕事が雄弁に語っている。

そうやって描かれた生命の歴史は地球が誕生した約46億年前から原生代の終わりである約5億4100万年前までをプロローグとしている。「原生代」というくらいなので、既に生命体が現れていたことはわかっている。そして、その直近5億4100万年の間に5回の大量絶滅があったことが知られている。

絶滅の原因は火山の爆発だったり巨大隕石の衝突だったりする。つまり、突然の変化だ。理屈としては、噴火や隕石衝突で地中にあった二酸化炭素やメタンガスが大量に噴出、また、噴火や衝突の衝撃で大気中に大量の粉塵が舞いそれらが核となって大気中の水蒸気が凝固して地球は雲に覆われる。雲には当然に地中からの噴出物も含んで、大量の酸性雨を降らせることになる。雲に覆われた地表では光合成ができなくなる。また、太陽光が遮断されることで寒冷化する。大気の組成急変と寒冷化でほぼ全ての生物が絶滅する。

過去5回あった大量絶滅の最大のものは古生代末、というか古生代を終わらせたものだ。これが2億5200万年前、火山の大噴火によるものだ。生命の歴史はここで一旦仕切り直しになる。この時、もう一つ重要な変化が生じた。大量絶滅を引き起こすほどの火山の噴火ということは地殻変動も派手に起こったわけで、世界の大陸が陸続きになった。超大陸バンゲアの誕生だ。

雨が降れば雲は減る。雲が減れば太陽光が地上を照らす。太陽光が降り注げば地表に多少残っていた藻とか苔とか、生命の原初的なものが息を吹き返す。そこから生命の歴史が巻き直される。そして今度は恐竜が登場する。

スピルバーグ監督作品で『ジュラシック・パーク(原題:Jurassic Park)』というのがある。私は映画館で観た。怖かった。断っておくが、私は怖がりだ。原作はマイケル・クライトン(Michael Crichton)の同名の小説。映画は1993年公開の作品なので、登場する恐竜たちの彩色は地味目だ。恐竜の姿を想像させるものは化石くらいしかない。化石からは色がわからない。わからないのなら、何でもあり、でよいと市井の者は思うかもしれないが、ガクモンの方はわからないものを勝手に決め打ちとはいかない。それで博物館などにある恐竜の姿は地味目の彩色となり、それを眺めている市井の者が恐竜に抱くイメージもそれに準じたものになる。

ガクモンの決め事は理屈が立つようになっているが、なるほどなと思わせることが起こる。2010年に新たな知見を得るのである。鳥類との関連が言われる始祖鳥のような翼を持った恐竜もいた。翼には羽毛がある。

2010年、羽毛の化石の表面に粒状の組織が残っていて、これがメラニン色素に関連した物質で、その形や大きさ、密度を、現代の鳥類と比べることによって、羽毛の色を復元できることがわかりました。(46頁)
(Paterson, J.R. et al., 2011. Nature, 480(7376): 237-240)

恐竜が色彩豊かであろうとなかろうとどうでもよいのだが、ガクモンのおかげで人の知見は増え続けているということが言いたかっただけだ。

恐竜は6600万年前に絶滅する。しかし、完全に絶滅したのではなく、一部は鳥類として進化を続けているらしい。言われてみれば、ハシビロコウなんかは恐竜っぽい。

今から約6600万年前のある日、現在のメキシコのユカタン半島のあたりにあった浅い海に、直径10kmと推定される隕石が衝突し、隕石と衝突地点の岩石が粉々に壊れ、水蒸気とともに空中にまき上げられ、それが地球全体をおおうように、大気圏に層を作ったと考えられています。太陽光線の地表への到達量が激減し、地表の寒冷化や、植物の光合成の停止などが全地球的に起こり、そのような状態が長期間にわたって続いたとされています。(62頁)

過去5回あった大量絶滅のうち、この約6600万年前のものが5回目である。現在、地球は第6回目の大量絶滅期に既に入っているそうだ。実際に絶滅種の数が急速に増えているという。また、地球の天体としての運動サイクルから、時代は氷期に向かっているというのである。

現代は間氷期です。間氷期とは氷期と氷期の間の時代で、第四紀の後半の約60万年間は、氷期と間氷期を繰り返しています。なぜ氷期と間氷期を繰り返すのかは、自転軸に傾きがありコマが首振り運動をするような動きをすること、地球が太陽を周回する軌道が正円ではないことなどによって生じる、北半球の夏の日射量の周期的な変化によるというミランコビッチ仮説が知られています。しかし、この周期性はミランコビッチ仮説だけでは説明できない部分もあります。地球温暖化を実感する現代ですが、氷期と間氷期のこれまでのサイクルを見ていると、また氷期が来ることが想定されます。(88-89頁)

本書あるいは生命の歴史で注目すべきは絶滅と繁栄を繰り返しながら変化を続けるこの地球上の生命のダイナミズムだ。地球の自転軸が、などと言われれば永遠だの普遍だのという概念が無意味に見えてしまう。それならそれで、互いに多少は我を抑えて譲るところは譲り合い友好を宗に生きていこう、となっても良さそうなものだと思うのである。そのことは以前にも書いた。現実は真逆なのである。それは何故だろう。


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