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去年の今頃

「短歌入門」第2回課題は昨年11月の終わり頃に提出。

正月の帰省切符を予約するついに始まる2020年

恒例のワインの会で開ける瓶年々減るのは高齢化の所為

通勤でいつも見かけたあの人がいつのまにやら消える年末

「今時分」より少し前のことである。盆と正月は妻の実家を訪ねる。2020年の正月は帰省したが、盆は帰らなかった。例の感染症で、自分たちが訪れがために何か厄介なことが起こるというようなことを回避したのである。

昔、オーストラリアを夜行バスで旅したことがある。シドニーに着いて、キャンベラは列車で往復したが、後は夜行バスでブリスベーン、アリススプリングス、アデレード、メルボルンとまわった。ブリスベーンからアリススプリングスまでは、マウント・アイサとスリーウェーズというところでバスを乗り継ぐのだが、殆どの区間が砂漠の一本道だった。何もないところをただ移動するというのは妙な気分であることを初めて知った。

単調なことがただ続くと、たぶん精神や身体に変調をきたす、と思う。時間にはっきりとした目処をつけるように行事を入れるのは、意識するとしないとにかかわらず、心身の平和を守る防衛本能のようなものかもしれない。

一首目の歌は添削後こうなった。

正月の帰省切符を予約する2020年妻の実家へ

11月はボジョレー・ヌーボーが解禁になる。妻の友人夫婦でワイン好きがいて、毎年その家でホームパーティーが開かれる。私が今の妻と世帯を持ったのはそんなに昔ではないので、この会に参加するのは昨年が7回目だった。その間、高齢や健康上の理由で参加できなくなった人もいる。そういう人たちだけでなく、参加を続けているほうも同じように時間が流れて年齢を重ねている。当然、開けるボトルは少なくなる。毎年集まることが楽しいような、哀しいような。今年はパーティーは開かれなかった。

二首目は添削後こうなった。

恒例のワインの会で開ける瓶その数年々減ってきている
別案:恒例のワインの会で開ける瓶年齢とともにその数減りて

短歌は説明的になってはいけない、とのこと。

今の勤め先は12月決算だ。エライ人たちは夏頃にあれこれ考えて次の年の事業計画を練るらしい。それで11月中旬に次年度の予算や事業が決まり、人員の整理も行われる。2019年は厳しい年で2020年も厳しい見通しだったので、私の所属部署では人員が約3割削減された。「削減」というのは異動ではなく解雇のことである。個々の社員は人間ではなく、機能として認識されているので、椅子や机やパソコンなどと同じように扱われる。私はこれまでに8回転職したが、うち2回は解雇によるものだ。世間では転職が一大イベントのように捉えられているように感じるのだが、私にとっては転勤も転職も同じようなものだ。不思議なもので、自分が解雇されるよりも、ついさっきまで談笑していた相手が突然いなくなるほうが嫌なものである。今年は世界的な感染症蔓延で資金需要が活発だったこともあり、勤務先の業績は絶好調で先頃は臨時の配当が実施された。そんなわけで今年は人員整理は少なくとも日本では実施されなかった。尤も、先日、東京国立博物館でばったり遭った前の勤務先の同僚によると、そっちでは夏前に人斬りがあったのだそうだ。同じ業種でも明暗分かれているらしい。

三首目は添削による修正はなかったが、別案の提示があった。

通勤でいつも見かけたあの人がこの頃見えぬ異動だろうか

この回の講師は紺野万里先生。

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