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「#旅のようなお出かけ」企画に参加してくれた砂男さんの「グリーンシート」を読んだ感想。

 おかげさまで、連日この企画に参加して下さる方がいらっしゃるので、本当にありがたい限り。とはいえ作品の感想を書くためには、その作品を何度も読みこなさないといけません。従いまして早くても2日に1度のペースになりそうです。お待ちいただくかもしれませんがご了承ください。

 第3弾は、砂男さんの「グリーンシート」です。ちなみにこちらのエピソードの続編。ということですので、先に読んでからの方がより楽しめるようになっています。

1、アップグレードで通勤コースが「トリップ」に

 このタイトルのグリーンシートとは「グリーン車」のこと。これはアップグレードされた上等客車と言える存在で、新幹線や特急列車に着いていることが多いですが、都内では一部の普通・快速列車にも連結されています。今回登場する総武線(横須賀線直通快速)には、2階建てのグリーン車が付いています。 
 主人公の男性は、普段とは違うこのグリーン車で千葉から東京を目指します。いつもなら通勤客でごった返すような普通車両と違い、グリーン車はガラガラという、その室内に入っただけで全くの異空間。単なる快速列車なのに特急列車で遠くに向かうかのようなリッチな気分に浸れます。写真付で紹介されていて、これを見ているだけで乗りたくなりますね。
 この物語はある程度の年齢を重ねている男性ですが、「1階席だとミニスカートの」といったくだりが、主人公の人物像をうまく浮き上がらせてくれています。

2、都内のファーストタイムといえる地に来れば

 このグリーン車には主人公の隣に若い女性「麻衣」が乗っています。これはこの作品の前のエピソードに詳しく乗っていますが、麻衣は専門学校を出て志そうとした業界の体質(ブラック?)について行けず、現在は全く別の仕事についているという。その状況を勿体ないと主人公の男性は考え、今回のデートを計画したといいます。このふたりの関係は、恋人というよりも人生の先輩と後悔の関係。どこで知り合ったのかはわからないものの、麻衣という女性は、この主人公と飲み歩くことに異を唱えることなく、この日も特別に用意したデートに同行しています。
 しかし東京駅でグリーン車から離れると、現実に戻されてしまいます。現実の都内の喧騒に巻き込まれながら地下鉄を乗り継いで到着したのが中目黒。ふたりとも初めてこの地に降り立ったファーストタイムの地とあって、再びトリップ気分に火が付きました。目黒川が桜の名所とかの説明もさりげなくあり、どんなところか読みながら興味がそそられます。

3、大人のデートは実在する寿司店とバー

 ふたりがやってきたのは寿司店。実在する店で『芽ネギうずら』という珍しいメニューが写真付で紹介されています。このキーワードで検索したら、一発で中目黒の実在するお店が出て来ます。そして空腹だったために、寿司を次々と注文して回転すし店のような利用方法で、済ませてしまいます。
 でも、酒をチビチビ飲んで大人の会話が少しは弾んだようで、気持ちよく軽い冗談を交わしながら2軒目のバーに。そしてバーでも、実在するお店を紹介しています。
 こちらの清水貴一氏がマスターを務めるバーというということで、非常に幅広い経験をされたマスターを麻衣に会わせる主人公。詳しい記述はないので、読者の想像力が試されるわけですが、恐らくは若い娘の苦労話を楽しくお酒を飲ませながら、心地よく聞いてあげたうえで、マスターが自らの経験を熱く語ったのではと想像できます。それにしても実在する店が2軒も登場。このあたりは、まるでお店の紹介をしながら、ストーリーが展開していくミニドラマを見ているかのようです。

4、帰路のちょっとしたお楽しみ 

 楽しいお食事デートもいよいよお開き。帰りもグリーン車を考えている主人公に、麻衣が意外な提案をします。それは別ルートで帰るという。東京駅経由より武蔵小杉経由で帰る方が早いと言います。しかし武蔵小杉がどういうところかを知っている主人公は、一瞬渋りつつも、麻衣が初めてということで承諾。そのまま県境を越えて神奈川県の武蔵小杉にやってきました。
 武蔵小杉はふたりが乗ってきたと思われる東急とJRのターミナル。しかし元々は南武線しかなかったのに、新幹線と並行して走行している横須賀線(湘南新宿ライン)の駅ができて便利になりました。しかし実はそこまでの距離が非常に遠いという。この乗換は大変ですが、逆に今回のようなパターンでの乗換手段も可能になったわけです。

さあ、着いたぞ。ここからだ。覚悟してついてこい

主人公が麻衣に発した次のひとこと。ここぞとばかりに男らしさを感じる言葉は、おいしい酒で酔ったからこその力が働いたか。そして普通なら文句のひとつも出る武蔵小杉の乗り換えも、気分が最高潮のふたりは半ば楽しみつつ、そして歌いながら、無事に快速電車が停車するホームに到着。
 こうして行きと同じリッチな静けさがふたりを包み込み、無事に帰路へ。車中では最後に悩んでいた麻衣が、一度挫折していた美容関係の仕事に戻ると決意します。こうして千葉に戻ってふたりは別れますが、主人公はひとり心地よい夜空の月を眺めるのでした。

5、もし私がこの小説書いたら?

 大人の雰囲気とデートが、グリーン車と中目黒というふたつの「トリップ」と合い混じった物語。もし私が書くならどうなるのか? 例えばお店の様子をもう少し加えるかもしれません。寿司をガンガン頼もうとする麻衣に主人公は制止。ここは大人の男を見せながら「今日は何が入っていますか」と旬の魚を寿司職人に伝えると、職人は喜んで紹介し、食べ方まで提案してくれますから、粋な面が出せるのかなとか。あとは総武線は横須賀線となって武蔵小杉から横浜、鎌倉、横須賀方面に行きます。ならば「これに乗ってもっと先に行きたい。横浜とか鎌倉」みたいなのを麻衣に言わせる。別れ際に軽くつぶやくとか。そこで主人公の男が、「武蔵小杉の先かあ。俺とじゃなくて別の友達だろうなあ」と月を見ながら、自分自身に言い聞かせて帰るとかやってしまういそうです。

 

まとめ

 砂男さんは、心灯杯で優勝した実力者ということもあり、読みごたえがあっても存分に楽しめました。グリーン車を使ってトリップ気分を楽しめる大人のデート。デートそのものは「お出かけ」かもしれませんが、近場でもちょっと工夫しただけでこんな楽しい思い出になるというのを強く感じました。グリーン車に乗ろうとするとそれなりに料金が発生するのでプチ贅沢。
 でもデートをする際にこの方法を用いるだけで、相手の印象が途端に良くなること間違いない。そんなことを考えながら読ませていただきました。


※事前エントリ不要! 飛び入りも歓迎します。
10月10日までまだまだ募集しております。(優劣決めませんので、小説を書いたことが無い人もぜひ)

#旅のようなお出かけ #感想 #砂男さん #グリーンシート

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