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2020のゆくえ

こちらのストーリーと共にお楽しみください。

前編 中編 後編

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タイトル:2020のゆくえ 
作者:呂宋家 真仁羅(代筆:アセアンそよかぜ)
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 それでは、ちょっとした小噺をはじめさせていただきます。2020年も気が付けば残り4カ月余り。あっという間に1年が過ぎ去ろうとしています。
 さて今年はコロナ騒動でここまで来てしまいましたが、どうやらこの騒動が続いたまま今年一年を終りそうな勢い。
 それだけじゃあ。あまりにも暗くてつまらないと、2020のゆくえをテーマに楽しいことを考えようと考えた瀬部(セブ)。彼は隣にいた打葉男(ダバオ)に話しかけます。

瀬部:「打葉男さん、ねえ聞いてくれよ」

打葉男:「瀬部さんなんだよ。こっちは今忙しいんだ」

瀬部:「忙しいって何してんの?」

打葉男:「クロスワードパズルだよ。ここが埋まらないんだよ」

瀬部:「ああ、簡単じゃないの。これ『ラクゴカ』ほら縦横一致した」

打葉男:「あ、ありがとう。さすが瀬部さんだ」

瀬部:「どういたしまして、え、じゃなくて打葉男さん。そうじゃなくて気が付いたらよう、もうあと少しで来年だよ」

打葉男:「おう今年は例の件で散々だったからな。かといって来年になってそいつが本当に解決するかはしらねぇけどよ」

瀬部:「まったく暗いねえ。早くも来年のことなんか言ったら鬼が笑うよ」

打葉男:「鬼? そんな奴来たら成敗してやろう」

瀬部:「本当に鬼が現れたら逃げだしそうだけどな」

打葉男:「逃げやしねえよ。ただ『ごめんなさい』って謝るかも」

瀬部:「なんじゃそりゃ。というより、今年はまだ少しあるじゃないか。せっかくだからもっと楽しいこと考えないか」

打葉男:「楽しいこと?暑いし、今はそんな気分じゃねえな」

瀬部:「そこを考える。たとえば。うーん、そうだ!今年のゆくえを占う、漢字を考えて見るのはどうだい」

打葉男:「今年の行方を占う漢字。俺、占い師じゃねえよ」

瀬部:「そんなの適当でいいよ・例えばく12月になったらやってるだろう『今年の漢字』とか言って、寺の住職がやっている奴」

打葉男:「ああ、知ってる。あんな大それたパフォーマンスをしたいのか」

瀬部:「あんなのはいらないけど。ちょっと今年の漢字を考えてみてよ」

打葉男:「今年の漢字?ということは中国語だな。わかった。例えば『病毒』って意味わかるか」

瀬部:「病毒?なんだから梅毒に似てるな。でなんだそりゃ」

打葉男:「中国語ではウイルスと読むらしい」

瀬部:「おいおい、その話題は暗くなるからもういいよ。他の話題で何かないか?」

打葉男:「あとは、うーん、そうだ4文字熟語で社会距離かな」

瀬部:「お、カッコいいね。4字熟語なんて、おいら焼肉定食しか思いつかねぇや」

打葉男:「ちなみにソーシャルディスタンスを漢字にするとそうなる」

瀬部:「アチャ!まただ。わかった。あんたといるとその話題ばっかだ」

打葉男:「他にも考えようか、えっとマスクは確か」

瀬部:「もうやめろって! あ、そうだ、おいらちょっと欲しいものが出来た。だからわりいけど。ちょっと出かけてくる」


 といって、でかけた瀬部が向かったのは、近くにある書道道具の販売店。訳も分からず、直感で探しまわった瀬部。彼は書道に必要な道具をいろいろ集めて購入しました。
 戻ってきた瀬部は、打葉男の前に筆、硯(すずり)、文鎮、そして和紙を目の前に並べて見ます。

打葉男:「瀬部さん、書道の道具買って来たの?」

瀬部:「そう。今から筆でことしのゆくえを占う漢字を書くよ」

打葉男:「そのためにわざわざ、出かけて買って来るって、どういう気合だ」

瀬部:「ん? あ・あれ?」

打葉男:「瀬部さんどうした」

瀬部:「わすれちゃった」

打葉男:「書きたい漢字の部首とかか?」

瀬部:「じゃない、もっと根本的なもの」

打葉男:「何を」

瀬部:「墨汁」

打葉男:「墨汁ってそれなきゃ。書けねえじゃねえか」

瀬部:「打葉男さん、わりぃ。もう一回行って墨汁買ってくる。ちょっと待ってて」

 そういって、瀬部は再び先ほどの販売店に走って向かい。今度は迷わず、墨汁を手にすると、そのまま会計を済ませて戻ってきました。
 ところが打葉男がすでに和紙に筆で何かを書いています。

打葉男:「よし、できたぞ」

瀬部:「あれ、打葉男さん。何しているの?」

打葉男:「ああ、瀬部さん、帰って来るの意外に早かったね。待ってられねえから、先書いちゃった」

瀬部:「え?打葉男さん、墨汁あったの?そしたら言ってよ!」

打葉男:「違うよ。これ墨汁じゃない」

瀬部:「何使ったの?」

打葉男:「トンカツソース。粘り気があってどうも変な感じだった」

瀬部:「な、何考えているんだ。うわ、なんか豚くさいよこれ!」

打葉男:「あ、ちがった、これお好み焼きソースだ」

瀬部:「もう、どっちもいっしょだよ! ソースで書を書く人なんて初めてだよ。ソースも勿体ないし、硯も筆もぐちゃぐちゃだよ全く」

打葉男:「というか、作品見てくれよ」

瀬部:「え?ん、『のゆくえ』なんだこれ?全部ひらがなじゃねえか」

打葉男:「いや、ちょっとソースだと、トロミがあって難しいんだ。だから漢字書けねえんだよ」

瀬部:「まあそれはいい。でも『のゆくえ』って何だよ」

打葉男:「いや、え、あ・い・いやああ」

瀬部:「何ごまかしてる?はっきり言ってくれ!すごく気になるじゃねえか」

打葉男:「いや、瀬部さんの行方が気になって書いたんだよ」

瀬部:「おまえ、何言ってんだ? 言ったよな。近くに墨汁を買いにいっただけだって。おいらが行方知れずになるわけねぇよ」

打葉男:「で、瀬部さんの名前だけは漢字にしようと思ったけど、忘れたから戻ってから瀬部さんに漢字聞いて、別の紙に改めて書こうかなってね」

瀬部:「なにそれ。わかったもういい。今からおいらが書く。ちょっと硯と筆洗ってくるよ」

 そういって瀬部は、ソースまみれになった筆と硯を洗いに行きます。しっかり洗った硯に買って来たばかりの墨汁のキャップを開けると、「ドボドボドボ」っと硯のくぼんだところにふんだんに入れました。
 それから筆をゆっくりと墨汁のプールに黒く染み込ませましたらば、ここで気合を「えい、や!」と入れる瀬部。そして精神統一か、目を数秒間つぶると、勢いよく筆を硯のプールから引き上げる上げる。
 そのあと横にある和紙に対して筆を「ズドーン」と一気に落として、そこから「くるくるくる」と、力強く筆を滑らせていきました。


瀬部:「できた!、やっぱソースと違うから綺麗だろ」

打葉男:「ありゃー。うん、確かにトンカツじゃなかった、お好み焼きソースとは違うわ。だよな。俺も墨汁で書きゃよかった」

瀬部:「だから、ちょっと待ってりゃ。良かったのに」

打葉男:「でもあれ? 瀬部さん、何、これ漢字じゃないよ」

瀬部:「ああ、打葉男さんがひらがな書いただろ。だから途中で気が変わって、漢字じゃなくてアラビアにしたんだ」

打葉男:「アラビア?それって数字のこと」

瀬部:「2020だよ。打葉男さんのと合わせて。『2020のゆくえ』ってことで!」


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呂宋家 真仁羅(るそんやまにら):プロフィール
本名:小田切康夫 職業:バーの経営者・マスター
家族:妻・マリエル(フィリピン人) 子・無し
名前の由来:妻の故郷フィリピンのルソン島マニラより
落語暦:バーを始める前に少し落語を知った程度で本格的に弟子入りしたり習ったりした経験なし。バーの常連客の要望で落語を見よう見まねで始める。

なお、この話の登場人物の瀬部は、フィリピンのセブ島から。打葉男は、同じくフィリピンミンダナオ島の町ダバオから取りました。

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※こちらの企画に参加してみました
(企画の関係上、台本・シナリオ部分のみを抜粋)

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#心灯杯 #2020のゆくえ #落語台本 #創作落語 #呂宋家真仁羅


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