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俺の話はつまらない

 日記ではない文章を書いてみる。

 僕の事を「聞き上手」だと言ってくれる人がたまにいる。しかしこれは聞き上手というより、「自分の話のつまらなさを自覚しているから相手の話を聞きたがっている」だけなのである。せっかく会っているのだから、わざわざつまらない話で時間を無駄にする事もあるまい。ただし、SNSやこういった場ではどんどん語る。読む・読まないの選択を相手に任せられるからである。

 僕の話は何故面白くないのか?
1,面白エピソードを喋る時、必要な説明をとばして本編だけ喋ってしまい、何が面白いのか伝わらない。

2,それを反省して説明するように心がけると、説明が長すぎ・細かすぎて本編に入る頃には相手が聞き疲れている。

 他にもあるとは思うが、大きな原因はおそらくこの辺りであろう。要は情報を整理整頓するのが下手くそ、という事である。「短めの適度な説明でぱっと本編に入る」のが理想と思われるので懸命に特訓しているのであるが、なかなか上達しない。文章で書けばまだマシなのだが、喋りでこれをやろうとするとガタガタになる。書くのと喋るのとではかくも違うものか。

 だが「相手の話を聞こうとする」姿勢は案外僕に合っているのかもしれない。僕は何故か「話を聞いてくれそうな人」と判定されがちなのだ。飲み屋やイベントでしょっちゅう話しかけられる。ほとんどが独りの時であるが、酷い時は友人と一緒に居てさえそうである。こちらが友人と喋っているのに話しかけられるのである。更に、カップルで来ていた二人が何故か僕に話しかけてきたこともある。二人で喋っていれば良いだろうに、何故か独りで吞んでいた僕に話しかけてきた。僕がコミュ障でなければ良かったのだが、超ド級のコミュ障である為、いつも非常に困惑する事になる。

 僕に話しかけて来る人は大体二種類にわけられる。一つは、普段会話する相手が身近にいない、高齢者の方。こういう人達の話は面白かったり深かったりするので、こちらも喜んで聞く。夫婦で小さな工場を経営していたのが引退して今は子供と孫が遊びに来るのを楽しみに老後を過ごしているという高齢女性や、閉鎖的な地域に引っ越してしまって二十年以上経った今でもよそ者扱いで未だに地域の人間関係に苦しめられているという高齢男性の話など、今でも心に残っている話は多い。
 もう一つは、俺様自慢をしたい人。こちらは年齢はあまり関係ない。おそらく自慢話をし過ぎて、もう誰も相手にしてくれなくなったのであろう。そして、えてしてこの種類の人達は話が面白くない。当然だ、話が面白ければ自慢話でも誰かは聞いてくれる。わざわざ飲み屋で隣り合っただけの僕に喋る必要もなかろう。そういう人達の話は心に残らないので、覚えていない。

 しかし、相手が喋っているということは「自分は喋らなくても良い」ということでもあるので、気が楽ではある。自分の話はつまらないと分かっているのに喋らなければならない、というのはキツい。僕の話はつまらないので大抵の場合すぐに話題を変えられる。特に男性は僕の話がつまらないらしく僕の話を長く聞く人はほぼ居ない。女性は心の広い人が多いのか、結構会話を続けてくれる。小さな子供のとりとめもない話を聞いている母親みたいなものだろうか。

 が、男性にも勿論例外はある。プロである。人の話を聞くプロフェッショナルな人である。バーテンにして怪談師のインディ氏は、その希少な例外の一人だ。僕のつまらない、まとまりもない話をうんうんと聞いていてくれるのだ。まさにプロである。他にはこんな風に僕の話を聞いてくれる人など滅多にいないものだから、テンションが上がっていつも彼の店では喋りすぎてしまう。あのね、あのね、こんな事があってね、こんな本を読んでね、こんなイベントに行ってね、それでね、それでね……。
 だが、別にお喋りが上手くなった訳ではないので、単純にインディ氏につまらない話を長々と聞かせただけ、という結果に終わる。そして店を出てから反省するのだが、呑みに行くとまた同じことを繰り返してしまう。最初は反省して大人しくしているのだが、段々テンションが上がってべらべらと喋り出してしまうのである。そして帰路についてからはたと気が付いてまた落ち込む。それでも毎回にこにこと迎え入れてくれるのだからプロとは大したものだと思う。いつも大して飲まない(飲めない)にも関わらず、である。
 インディ氏はバーテン兼怪談師だと先に書いたが、まずは「怪談師」という職業について説明した方が良いだろう。怪談師というのは「恐怖体験(怪談)を人から聞き集めてライブ等で喋る人」である。つまり、人から話を聞き出さないといけない。バーテンも勿論、酔っ払いの脈絡のないお喋りを聞いてやらなければならない。両方とも「聞き上手」であることが要求される職業なのだ。それらを兼業しているのだから、やはりインディ氏は「聞く」才能の塊だと思う。
 更に、ライブで喋るということは、聞いた話を「人に聞かせられる」ように再構築しなければならない。情報の整理整頓をしないといけないのである。だから彼の話は常に整理整頓されている。僕のようなバカにもすっと理解できて面白い。インディさんみたいになりたいなあ、といつも思う。

 何が言いたいかと言えば、「俺の話はつまらないから無理に喋らせようとしないでくれ」という事と、「インディさんに『つまらない』と言われた奴はインディさんに攻撃された訳ではなく本当に話がつまらないだけなので怒る必要はない」という事である。何しろ僕の話を聞いても「つまらない」とは言わない人が「つまらない」と言うのである。相当だと思った方が良い。バーテンであるにも関わらず、客に面と向かって「つまらない」と告げてしまうインディ氏も癖が強すぎるが、言われる方も相当だという事だ。

まあ、事程左様に「お喋り」は難しい。世の中の人が全員インディ氏であれば、こんなに悩みはしないのだが。

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