クソジジイ

前にも言ったことがあるが、僕は介護系のバイトをしている。介護系とはいうものの僕はこれといった業務内容が決まっているわけではなく、毎日約30名程度の利用者さんがいる中で、急に立ち上がって動き出してしまう人に着いて行ったり、移動する際に転ばないように手を繋いで連れて行ったり、飲み物を用意して提供したりといったことが主な仕事である。

楽そうな仕事だが、身体的というよりメンタル的に疲れることが多い。

まず顔と名前がなかなか覚えられない。髪型も風貌も似ている人が多くて正直みんな同じに見えて仕方ない。よくおじさんがAKBとか乃木坂とかみんな同じに見えるというのを聞いて、流石にわかるだろと思っていたがまさにそういう感覚と同じかもしれない。興味のない人たちのことはなかなか覚えることが難しい。あとはボケている人が多くて何回も同じ質問をされたりなかなか言うことを聞いてくれなかったり勝手に帰ろうとする人がいたり息子が幼いから息子のところに行かないと心配だと言う人がいたり、そういうことが多くてなんだかメンタル的に疲れてしまう。まあ聞き流せばいいだけなんだけど中にはヒステリックになる人がいたりお前みたいな若造には話が通じないと言われたりで地味にストレスが溜まる。肉体労働の疲れとはまた違う疲れ方をする。頭がバカになりそうになる。

そんなバイトをして疲れているにも関わらず、実の祖父もだんだんと老化が進んでいて休日にもその対応に追われてなんだかここ最近は疲れてしまった。
祖父は腰が曲がり普通に歩くのもままならない状態でありながらまだ運転をしようとするからそれは危ないという話になり先週親戚で集まって免許を返納するように説得した。自動車整備会社で働いていたというプライドがあり、なかなかすぐには納得してくれなかったが最終的には納得して運転しないということを約束してくれた。
ところが先日祖母から勝手に運転してしまったという連絡が入り急遽また説得しに行く事になった。この間約束したのに何故運転してしまったか問いただすと、前は大勢で俺に意地悪をして運転を無理やり止めてきたから納得がいかないなどとほざく。意味がわからない。まだ自分は普通に運転ができるのに止められる意味がわからないらしい。当たり前の生活を当たり前に送っていてそう言うのならば納得はできるが、この人はまともに歩けない、1人で服が着れない、たまにトイレにすら間に合わない。それを全て威張って祖母に手伝わせているのだから納得いかない。全てきちんと自分でやることをやっているならいいがそういったことを威張って人にやらせているのにも関わらず一丁前に運転をするなんて事は認められない。人を轢いてしまう前に運転をやめさせるのは家族の役目である。犯罪者一家になるわけにはいかない。人の命がかかっているから運転をやめろと言っているのになかなかやめようとしない頭の固さに腹が立つ。そんなに危険だというなら俺の運転で助手席に乗ってみろ、乗ってから危険だと判断しろなどと抜かす。それで人を轢いてしまっては元も子もない。轢いた後にやっぱり危険な運転でしたでは遅い。そんな事さえわからないというのが悲しくなる。これに関してはそもそもの性格が間違っているため衰えて判断能力が鈍っているとかの話ではない。

家族の制止も聞かずに車に乗り込んでしまったので僕は車の前に立ち、発車出来ないようにしていたらそれを無視して発車してきた。考えられない。孫が前にいるのにも関わらず車を発車させる祖父がいるか？こんなもんクソジジイだろう。僕は人生で初めて軽自動車と相撲をした。横に逃げたら一人で危険運転に出発してしまうため逃げる事は出来なかった。しっかりと取り組みあった。実の祖父に「バカかお前！」と怒鳴りつけてしまった。近所中に僕の声が響き、働きもしない親不孝祖父母不孝の人間だと思われてしまったかもしれない。結果的に側で一緒に説得していた父が運転席を開けて止めてくれて事なきを得た。家に戻り引き続き説得をしていると祖父が半ば諦め不貞腐れた態度で、「もういい、運転はやめる。もう生きる意味がないから自殺する」とか言うのでまたそれに腹が立つ。メンヘラジジイが一番めんどくさい。簡単に死を仄めかしてくるのが本当に腹が立つ。この人は割とこれが常套句でこう言えばその先責められづらくなるというのを知っていて言っているだけで本当に死ぬ度胸などない。

結局最終的に納得して免許を返納する流れになったのだが、この一件があったせいでそれからの介護の仕事でボケて我儘を言う利用者の方と会話をする際にこの事が頭をよぎり今まで抱いてこなかった苛立ちが生まれるようになってしまった。大変迷惑である。

二日ほど経ち今日祖父と会った時、この間はごめんなと謝られた。全然いいよと答えたが、よく考えると孫を轢こうとした分際でこの間はごめんなで済む話か？