Vol.19 高島和希|なんでもやれる博士
1.現在の研究内容
これまでの研究は、”構造用の金属材料の力学特性”(強さ、破壊、疲労)に関する研究を行ってきました。ここ20年の金属材料の力学特性は、材料を構成しているミクロンサイズの微視組織要素(結晶粒、析出物等)の機械的性質に基づいて決まります。したがって、強度、靭性、信頼性に優れる構造材料を開発するためには、材料を構成しているそれぞれの微視組織要素の機械的性質を調べ、材料組織の最適な設計を行うことが重要となります。そこで私は、材料の構成組織から切り出したミクロンサイズの微小試験片に対して、力学特性が評価できる試験機を世界で初めて開発しました。それにより、微視組織レベルでの力学特性評価法を提案するとともに、試験法の国際標準化を進め、マクロとミクロの機械的性質をつなぐマルチスケール的な材料強化設計の基盤構築へと繋げています。本研究で得られる成果は、従来の材料開発の手法を大きく変えるものとして期待されています!詳細は以下の図及び動画をご覧ください。
2.新しいアイディアは異分野融合から生まれる
私は熊本大学工学部金属工学科を卒業後、東京工業大学(2024年10月から東京科学大学に名称変更)の大学院に進学しました。当時、学位研究のテーマは自分で考えるのが一般的で、私も学部時代から温めていたテーマを指導教員に提案しました。そのテーマは、私の専攻である金属工学をベースにしながらも、電気・電子工学、機械工学、物理、数学など、異なる分野との融合を目指したものでした。
このテーマを実現できたのは、私が精密工学研究所(現:未来産業技術研究所)の研究室に所属していたからです。この研究所には、電気、機械、制御、材料といった多様な分野が集結しており、この環境のもとで指導教員や他大学の研究者とも連携しながら、「異分野融合研究」を進めることができました。この経験により、私は異なる分野の知識や視点を取り入れることで、物事を多面的に捉え、新たなアイデアを次々に生み出すことができるという重要な気づきを得ました。
また、この経験は私のキャリアにも大きな影響を与えました。大学院修了後、長岡技術科学大学の機械工学科で最初の教職に就いた際、金属工学の分野では行われていない制御やプログラミング関連の学生実験や設計製図の指導を行いました。この指導をスムーズに進めることができたのも、異分野融合研究の経験があったからこそです。さらに、その後の熊本大学、東京工業大学、バーミンガム大学やカリフォルニア大学バークレー校 (UC Berkeley) での経験を通じて、異分野の研究者との積極的な交流が、私の研究に一層の深みを与えてくれました。異分野融合は、まさに新たな発見や創造性の源泉です。異分野の知識を取り入れることで、研究がより立体的に展開し、これまで見えなかった新しい側面が次々と明らかになります。
上記は理系の中での異分野融合ですが、文理融合の重要性にも触れておきたいと思います。各自の研究力を高めるためには専門分野の深化が重要なのは言うまでもありません。しかし、将来を見通す力や人間性、社会理解、さらには大きなビジョンを生み出すためには、社会文化系の理解が不可欠です。私が大学院時代に在籍していたときの東工大では、理系の学生にも社会文化系科目の履修が奨励されており、私も当時東工大に在職されていた江藤淳先生の講義を受講しました。この講義では他分野の学生との交流を通じて異なる価値観を学ぶとともに、視野を広げる貴重な機会となりました。この経験は、私の現在の研究活動や考え方にも大きな影響を与えています。
現在、私は次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRINGプログラム)の事業統括を務めており、このプログラムでも「異分野融合・異分野横断」を重要テーマとして掲げています。私が大学院時代に体験した異分野融合の力を、今の博士課程の学生たちにも実感してもらいたいからです。また、Kumadai-Hubも同様に異分野融合研究を目指しています。異分野融合は新しいアイデアの宝庫であり、研究の幅を広げ、本学の融合研究を牽引する力になると確信しています。
ところで、上記の「自分を表すような博士名」のところに「なんでもできる博士」と書きましたが、これは当時の指導教員から博士の『博』は博学、博識の『博』であり、博士人材は専門に固執せず、広く学び、どの分野でも活躍できるようになることが求められる」と教わったからです。異分野の知識を積極的に取り入れる姿勢は、次世代の研究者にもぜひ引き継いでほしいと強く願っています。
3.研究における「失敗」は失敗ではない
かつて、ドラマ「ドクターX」で「私、失敗しないので」という有名なセリフがありましたが、私も実験において「失敗」はしたことがありません。しかし、それはトーマス・エジソンの言葉を借りれば、「私は失敗したことがない。うまくいかない1万通りの方法を発見しただけだ」という意味です。つまり、研究においての失敗は、単なる「結果」の一つに過ぎないのです。もしうまくいかないことがあっても、それを恐れたり、心配したりする必要はありません。オードリー・ヘップバーンも「Nothing is impossible, the word itself says, ‘I’m possible!’」と言っています。何事も前向きに捉え、研究生活を歩んでいきましょう!
4.若い研究者の皆様へ一言
私自身はすでに一度定年退職を迎え、人生の終盤に差し掛かっております。そこで感じるのは、研究者としての時間は、皆様が想像するよりも、はるかに限られているということです。本田宗一郎氏の言葉に、次のようなものがあります。
金銭や幸運に恵まれた人でも、1日に30時間が与えられるわけではありません。まさに時間こそが、人類にもっとも平等に与えられる唯一の資源です。研究者としても、この限られた時間をいかに有効に活用するかが鍵となります。「少年易老学難成 一寸光陰不可軽」という言葉もまさにそのことを指しています。
▼所属研究室▼
▼紹介記事1▼
特集Ⅰ
世界に「ひらく」IRCMS AND IROAST 最先端を切り開く2つの国際研究機構
(編集担当:織畠知香、石本太我、前田龍成、赤池麻実)
***What is KUMADAI-HUB ?***
▶第4回KUMADAI-HUB巡回ポスター展2024の演題登録が開始!
***ポスター展について***
日時:12/1(日) 12:30~18:00
場所:熊本大学工学部百周年記念館
ポスター演題登録:~11/1(金)
事前参加登録:~11/30(土)
参加費:無料 *懇親会は別途必要
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Kumadai-Hub事務局 :kumadaihub@gmail.com
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