見出し画像

それでも私は生きていく エモい物語

 レア・セドゥ新作!しかも普通の30代女性役。

フランス映画界、いや欧州映画界でもっともオファーが集まってる女優さん。『アデル、ブルーは熱い色』で、あのブルー髪にやられちゃって以来、ウェス・アンダーソン作品、や007でボンドことダニエル・クレイブと共演、『美女と野獣(フランス版)』等など数本観たが、こんなにフツーの地味な女性役は初めて、さらに彼女の演技の幅が広がりやっぱうまい女優さんだわと再認識した。
あまり参考にはならないが、へんちくりんな視点から
感想レビューを記します。

※以下、ネタバレを含みますので未見の方は注意ください。


父と本


冒頭、父のアパートを訪れるサンドラ(レア)、扉をあけるまでの数分間で、父の病気がただならぬものと伝わってくる。
室内は本本本だらけ、壁二面を覆う書庫。
父の職業は作家⁈それとも... と想像をふくらます。そのあと介護ワーカーや離別した母と、今後の父の暮らしをどうするか、現実を突きつけられる。
施設入居には本は持っていけない、と。

本は、選んだひとの人間性が表れる...
本が集まり、その輪郭が肖像画となる。
書棚は父そのもの、だが病院の父は抜け殻でしかない。
身体と魂、のように。

娘と恋

たぶん、サンドラは芯の強い女性なんだろう。
父の病状にも愚痴をこぼさず、夫が死別しシングルマザーで娘を育て、頭を使う仕事もこなす。つらいことがあっても、怒りや泣き叫ぶことはなく、こころの奥に静かにたたんでしまっている。
だから、恋に激しく身を焦がしたのだろう。
別に、そんないい男でもないのに(←個人趣味) 
のめりこんじゃうのが痛い。

老いと記憶

私には三人の大切なひとがいる。
(恋人の)レイラ。それから私、自分自身。
「3番目は?」
ううむ、それが... 誰か
思い出せないんだ。


父の病状はますます悪化し、名前や過去が消えてしまう。
父の専門は哲学、思考だったのに、かなしすぎる。
父を見舞ったあと、ひとり静かに涙を流すサンドラのやるせなさ。

じんわりと、人生の終盤をどう迎えるべきなのか、考えさせられる作品だった。

それでも私は生きていく フランス 2022年
監督:ミア・ハンセン=ラブ
出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー
陽光や緑のみずみずしさが柔らかで美しかった、35mmフィルムだったのか


映画:すべてうまくいきますように では 頭はしっかりしているが身体が不自由な老人を、今作では身体は半自立だが頭が不自由な老人を描き、対照的だった。
前作では、作家が自身の経験を本におこし、今作では映画監督が自身の経験を映像にした。

身体の不自由 vs 頭の不自由。
どっちのほうが幸せか、どっちのほうがより不幸か、
という究極の問いを83歳の母としたことがあった。

”そら、頭が不自由な方がシアワセやわ。周りは大変やろうけど、自分はふわふわしてたらええんやもん” と母。
半年で三度も転院し、変な同室患者にも耐え、それでも母は最後まで頭はしっかりしていた。「忙しいのにごめんな」と私に言ったのが最後の言葉だった。
贈る相手のいない母の日を前に、老いゆく人生と家族の在り方について、しみじみ想いおこす時間をもてた。
映画「それでも私は生きていく」に感謝したい。

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?