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ヒッチャー その不条理について

ルトガー・ハウアーをご存じだろうか?

 1982年の革命的SF映画「ブレードランナー」に、レプリカント(人造人間)のリーダーとして、強烈な印象を残した男優だ。
 その彼が、アメリカ中西部の路上にぽつんと立っている。薄汚れたコートに身を包み、指を立てて拾ってくれる車を待っているのだ。拾った若者が親しみを込めて話しかけるものの、ヒッチャーには表情がない。整った顔立ちと青い瞳の奥の殺意を乗せて、ドライブがはじまるーー。

 逃げても逃げても、音もなく現れる不気味なヒッチャー。逃げ込む人家が全くない大平原を殺人鬼の影におびえつつ逃げまどい、恐怖は暴走していくのだ。

どうして彼なのか。目的は何なのか。

 えげつない映画だった。ハッと息をのみ鳥肌たつシーンが三度もあった。
 さらに、ガスステーション、地元警察の無線機、ダイナー奥の公衆電話...35年前の小道具が郷愁をそそる。一方、すべて人力で撮影されたはずの大掛かりなカーチェイスが現在も色褪せておらず、素晴らしかった。20代の若者は「アウトサイダー」出演のC・トーマス・ハウエル。ルトガーの怪演は終始凍りつかせるものだが、無垢な若者が復讐鬼に変貌していくさまは筆舌に語りつくせない。思い出すだけでも怖すぎる。

ヒッチャー ニューマスター版  The Hicher
1986年 アメリカ
監督:Robert Hamon
脚本:Eric Red
撮影:John Seale
出演:Rutger Hauer, C. Thomas Howell

 不条理の解—— ヒッチャーは悪魔的サディストであると同時に最凶マゾヒストでもあり、生きている限り人を傷つけ殺めてしまう性の自分を、止めてくれる、殺してくれる男を探し、ついに見つけだしのだ。最期には安らかな笑みを一瞬浮かべ、逝ったのだから。

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⚫︎写真は大阪のシネマート心斎橋さん展示

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