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青のクリスマス
事故を見た。
朝方、スクーリングに向かおうと校舎に向かって歩いていたら、道路で倒れている人がいた。
頭から血を流している。
すでに警察の方は多く到着していて、交通整備をしたり、状況を確認している。
隣に立っていた女性が救急車を電話で要請している。どうやら彼女がはじめに倒れている人を発見したようだ。
警察の人が倒れている人に話しかけており、意識はあるようで手を動かしたり話したりしている。
私は今何ができる?
頭部の止血をしなければ.....
脈拍を取ったり、意識レベルを確認することはできる。
意識が低下してきて反応が少なくなれば、胸骨圧迫などもできる。
何より警察の方は、彼に事故はどのような状況だったかを聞いているだけで、あまり励ましたり救急車が来ることなどを伝えたりしている様子は見受けられない。彼を励ますことや安心してもらうような声かけはできるかも.....。
止血するものはあるか?
私がここでしゃしゃりでて、かえって現場を混乱させないか?
悩んでいるうちに、すぐ救急車が来た。
私は救急隊に全てをまかせようと思い、そのままスーツケースをひいて校舎に駆け足でむかった。
ああ、スーツケースに入っている前日着ていた青色のスカートは厚めの生地だったから、圧迫して止血ができたかもしれない。
やっぱり
何かできたことがあったかもしれない。
...........。
私の脈が上がっている。
おそらく私は今顔色が悪い。
顔面蒼白とはいかないまでも青白くなっているだろう。
鼓動が聞こえる.....。
気持ちを落ち着かせるために昨日のことを思い出す。
前日から私は美大のスクーリングに訪れている。
家族とクリスマスを離れて過ごすのは案外はじめてかもしれない。
息子は小学校高学年なので、もうサンタクロースも信じていないものだと思っていた。
ところが彼は夫にこう言ったのである。
「プレミアム価格がついているゴジラのフィギュアが欲しい。」
と。
夫は
「さすがに市場に流通してなくてプレミアム価格がついているやつはサンタさんも用意できないと思う。」
と返した。
息子は
「お父さんはそう思うかもしれないけど、サンタさんはなんだって用意できると思う。だから僕はそれが欲しい。」
と強い意志を示した。
え?
まだ
信じてる?この人?
ここでくま夫婦会議が取り行われる。
議題は「息子はまだサンタを信じているのか否か?」
結論としては、もしかしてうちの息子のことだから、いくら友達がまわりで真実を話そうがなんだろうが、彼なりに信念をもって信じ込んでいるのかもしれない......ということになった。
幼少の頃から、私たちは小芝居を打って、息子は毎年サンタに手紙を書く。
そして手紙の隣に息子は、息子が一番大好きなじゃがりこを添えてくれる。
これはみんなのために奮闘しているサンタさんにじゃがりこを渡してねぎらいたいという、彼なりの気持ちの表れである。
ところが.....この話は娘の一言によって
がらりと状況が変わってしまったのである。
「え?〇〇(息子の名前)は
サンタさんはもう信じてないよ」
彼女が言うには
私の実家で娘と息子と私の母親で過ごしている時に
「サンタさんがいないことくらい知ってるよ」
と息子が話していたのを聞いていたと言うのだ。
えええええぇぇぇええええ??!!!
マジか!!
じゃあ、何あれ?
今までのは全部演技?
演技?
嘘ついてた?私たちに?
あんなにピュアなきらきらした目で欲しいって訴えてたじゃん!
娘は息子をこう評した。
「あざとかわいいってやつだよね。」
今まで私たちが小芝居を打っていたと見せかけて
実は彼の方がアカデミー賞レベルの演技をしていたという事実に、私たちの頭はついていけなかった。
ああ
大人になったんだなぁ。
親に嘘をつけるのは9歳くらいからだって言うしね。
そりゃそうだ。当たり前だが彼は成長しているのである。
でも、ここで私たちは「そうなんだよ。サンタさんは親でしたー。あははもう知ってるのね〜。」みたいなことは言わないことにした。
彼がそう合わせるならこちらもそれに合わせたい。
ここで、私は一つの例え話を思い出した。
夫はよくプロレスで例え話をすることが多いのだが
(私はプロレスのことがよくわからないので、いつも話半分で真剣に聞いていないのだが)
一つだけ感心した話があり、
「プロレスは攻撃している側が目立っているが、本当に大事なのは技を仕掛けられている側。つまり攻撃を受けている側の力量が大事である。」
というものだ。
私はこれをコミュニケーション的にもそう捉えられる.....つまり会話は、話している側よりも聞いている側が本当は主導権を握っている.....という話と通づるものだなと感じた。
息子はプロレスのように上手い受け身をしてくれている
と考えると、それに準じて、こちらも野暮なことは言わずにサンタを演じ続けるのも悪くないのかなと思った。
と、いうわけで、今年も彼は例年通りサンタさんに手紙を書いて、じゃがりこを机に置いていたそうだ。
今朝方、夫からのLINEで、彼の書いた手紙の写真が送られてきた。
彼は青のペンで自分の欲しいものを書き「じゃがりこあります。食べて下さい。」という一文で手紙の最後はしめられていた。
その青ペンの
お世辞にも上手いとは言えない
彼独特の字を思い出す。
私の鼓動は徐々に遅くなり
気持ちも落ち着いてきた。
そして私は
カバンに入っている
小さなハンドクリームを
思い出し
取り出して眺めた。
前日の朝、大学に向かおうと用意していた私に夫が渡してくれたもの。
「これ、君にクリスマスプレゼントだから。」
いつも彼はプレゼントを渡す時は照れているのかなんだかぶっきらぼうな感じになる。
久しぶりにもらったプレゼント。
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私は「じゃあ、これ持って行くね」と1番左下にあるクリスマスカラーが強めのやつを選んでカバンに入れた。
私はその赤色のハンドクリームをぎゅっと握りしめる。
そして、前日息子が私に言ってくれた
「お母さんにもサンタさんくればいいのにね」
ということばを思い出して
私は
さっき事故にあわれた人が
無事に
治療を受けて
回復しますように
とサンタさんに念じながら
大学の門をくぐりぬけ
青から赤の世界へと
ゆっくりと足を踏み入れていった。
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