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私のピーターパーカーからかえってきたもの

4月で前の職場を退職した。

とはいっても、4月は有休が残っていたので、実質出勤したのは3日くらいだった。そして、新しい職場で4月から働いていたので、私の気持ちの中では3月で終わっていたのだ。

4月はおまけみたいな出勤。もう担当も引き継いだし、書類を書くこともないし、やることは新卒で入職してきた職員さんとちょっとお話したりするくらいだ。彼は若い割にはなかなか思慮深い子で、今後の成長を間近で見られないことを少しばかりさみしく思った。


私の中で終わっていた3月の末に、みなさまへのお礼の品物とお手紙を私はすでに渡していた。

先行くおだんごさんが他事業所への移動の時にお手紙を書いたという記事を書かれていた。彼女はさよなら検定不合格だとご自身の事を綴られていた。別れを切なく鮮やかに・・かつ、いつもの元気印も混じった彼女らしい記事だと思う。

「私もきっと不合格だ」と思った。

手紙を書いたのがいいな、と思った。

何でもいいと思ったものはすぐ真似する。

私は自分が担当していた利用者さんと、リハ職の同僚たち全員に手紙を書いた。そして3月の最後の出勤日に渡した。

そのままさよなら〜ができていたら、何だかかっこいいなと思った。
立つ鳥跡を濁さず、だ。


けれども私は4月も顔を合わすのだ。ちょっと気まずい。なんだか気恥ずかしい・・。でも、同僚たちは以前と変わらず接してくれた。それどころか、前より一緒にいる時間を愛おしんでくれている印象も受けた。

そんな4月の最終出勤日の夕方、お花を各部署から頂いた。(以前つぶやき機能で写真を載せたと思う。)

私はお礼のあいさつをした。泣かずにすんでホッとした。動画で撮られていて、撮影している職員は「本日休んでいる職員にLINEで送る」と言った。何だか気恥ずかしいなとまた思った。

帰りに自分の荷物を車に積んでいると、一人の後輩がそんな私に気づいて、荷物を一緒に運んでくれた。

そして、終わったあとに「あの・・これ」と大きい袋と小さい手紙を渡してきた。

私はびっくりした。

ここで手紙がくるなんて・・不意打ちだ。

後輩は深くおじぎをした。そして
「本当にお世話になりました。ありがとうございました。自分ができる限りあとを継いでがんばります。」と顔を上げて私を見つめた。私はじっと彼の顔を見つめ返して感謝を伝えた。


帰宅して袋を開けた。

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中には水色のガラスの器が入っていた。

この器は、私が以前彼に話した器だった。

好きなガラス屋さんとカフェが併設している海の近くのお店。
カフェは隣のガラス工房で作製したガラスが使われていた。私は帰りに器を購入しようと考えていたが、夫を待たせるのが申し訳なくその場では購入に至らなかった。

そんなちょっと前に話した事を覚えていてくれて、わざわざ地元から離れたお店まで買いに行ってくれた事が嬉しかった。

気持ちがほわほわしたまま、彼の手紙を読んだ。内容は以下の通りだ。

うちの施設に面接を受けに来た時に、私たちが採用を後押ししたことが、とても救われた思いであったこと。
学生の時の実習で「お前みたいなのとは仕事したくない」と言われて不合格になってしまったこと。
入職し、知識がない中で、スライドなどを交えてわかりやすく教えてもらったこと。
無駄話の多い自分に付き合ってくれたこと。
親のように感じていること。

小さい手紙に小さい文字でやや不器用な文章と想いがぎゅっとつめこまれている手紙を読んだ。

彼は確かに成績優秀なタイプではなかったかもしれない。
しかし、こちらが教えたことは素直に学ぶし、(今思えば迷惑だったと思うが)すすめた本は全部読んできてくれた。研修も参加してきてくれた。

「一緒に仕事をしたくない」と言う人の気持ちは計り知れないが、彼は人への気遣いや思いやりは天下一品であると思う。女性陣が多い職場で、体調不良者を見つけるのも上手いし、落ち込んでいる人にも声をかけるし、さりげないフォローを私が気づかない所でもしてくれていた。

無駄話が多いというのは、正直私もそう思った。
就職したての頃に、利用者さんへ自分の話をしすぎていることを彼に注意した事もある。
しかし、彼は緊張すると話しすぎてしまう傾向があり、会話が多くなる事は緊張の表れであった。一緒に緊張しないようにと私も彼と一緒に悩んだ。

そして・・何年か経つと、彼のお話はたくさんの人を繋いでいった。

たくさんの難しい関係性の人たちを彼の親しみやすいトークで繋いでいくことができた。
職場や臨床の場が一段と和やかで良い雰囲気になっていった。

彼はアベンジャーズが好きで、友人と映画を観たり、グッズ売り場へよく足を運んでいた。私や夫は、彼の事がトム・ホランドが演じるアベンジャーズの「スパイダーマン」に似ているとよく話していた。
スパイダーマンはどんなに切迫したシーンでもおしゃべりをやめずに、大好きなスタークさんに話しかけていく。

私のピーターパーカー。

彼はいつだって「あのですねー」と悩み事を相談してきたり、「これにはまってるんです」と飽きることなく雑談をしかけてきた。


私は手紙を渡した。そして彼からは手紙がかえってきた。

かえってきたのは手紙だけじゃなかった。


私が少しずつ彼の中の海へ泳がした「メッセージ・イン・ア・ボトル」

私はそれが、かえってきても、こなくても、どちらでも良かった。


でもまわりまわって、泳ぎ続けて、一緒に働いた3年間。

とうとう、私へ戻ってきた。

それもとびきりの想いをかかえて。

私が泳がしたもの以上の物をたくさん抱えて、今、このタイミングで私に辿り着いた。

私はこのメッセージをきちんと受け取りたい。

そして「自分ができる限りあとを継いでがんばります。」と言ったとおり、今度は彼がまた、新人へ「メッセージ・イン・ア・ボトル」を送っていくのだろう。

私も彼から受け取ったメッセージをエネルギーにして、新たにボトルを流していきたい。

ピーターパーカーが無駄話をしているだろう毎日に、私の愛したあの職場に、ほんの少しの想いを馳せながら。





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