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いつだってあやふやでつなわたりで

こんな時間に起きている。
たまにはこういうこともある。

夜というのは人の思考をおかしくさせると思う。

夜中に書いたラブレターは朝にちゃんと見直せというのはそういう事だと思う。

10代後半。
フリーターだった頃に、よく夜中に一人起きていた。

しんと静まり返った空気。
結露したひやっとした窓ガラス。
祖母の家の一階の
10畳以上あるお座敷の部屋の片隅の
テレビ画面のカラーバーの光が反射する
安いパイプベッドの上で
小さくうずくまっていたあの時間は
たぶん私の中の何かをつくり上げていたのだと思う。

その思考は
根がはるように私の中にひっそりと侵襲していて
いまだにこのネガティブな感情が
全身的にどこかで循環して
行き渡っている。

「私なんかいないほうがいい」

悪いけど、私はいつだってそう思っている。

あの時からずっと

自分がこの場所にいることが
ゆるされていないような…
そんな気持ちが
根っこのようにはっきりと見えないまでも
生えているのを感じる。

そして
私はそんな気持ちと
長い棒を持ってバランスを取りながら
サーカスのピエロのように
綱渡りをずっとやっているような気もする。

こんなことを書くと
心配されたり
そんなことないですよということばを
かけて下さる
やさしい方がいるのかもしれないが

きわめてこれは
私の中にかなり「普通」にあることで
別に何も心配されるようなことでもなんでもない。

そして、正直言うと
誰にどんなやさしいことばをかけられても
この私の気持ちを払拭することは
可能性としては0に等しいだろう。

気持ちは平静だ。

ただ言わないだけ。

そう言わなきゃいいのにこんなこと

でも、今日は書いてみる。


燃え殻さんという作家さんが好きだ。

最近私の大好きなnoterさんで
今書いている小説の挿絵を
描いて頂いている
ぷんさんが
燃え殻さんが好きであるということを
綴られていた。

燃え殻さんの「すべて忘れてしまうから
という本を、明日、お花見でお会いする微熱さんに渡そうと思っている。

この本の中で、燃え殻さんと燃え殻さんの祖父のあるエピソードについてふれる。

「偉そうにするなよ。疲れるから」というタイトルの話は、飲み屋でえらそうにしている承認欲求の塊みたいな男性の話から、燃え殻さんの祖父の話の邂逅に切り替わる。

おじいさまはスーパーマーケットを営んでいた。怒りをあらわにするお客様に対していつも彼は頭を深く下げていたという記憶が燃え殻さんには残っていた。おじいさまが晩年入院した時も、看護師さんに以前とかわらず深々と頭を下げていたのを見て

「おじいちゃん、看護師さんはあれが仕事だからそんなに頭を下げないでいいんだよ」

と燃え殻さんが言うと

「そっちの方がおじいちゃんが気持ちいいんだよ」

と返ってきたという。

「この体勢のほうが楽なんだよ」

「いいか、えらそうにするなよ。疲れるから」

と交わしたのが、おじいさまとのさいごのことばになったという結論で、この話はしめられている。


そうなんだ。

私はこの生き方で
ある意味自分をどこかで守りながら生きてきた。

自分はダメだ、いない方がいいという気持ちが軸にあると
何事にも期待しなくていいのだ。

物事がうまくいかなかった時
人に受け入れられなかった時に
それほどがっかりしなくて済む。

「まぁそういうもんだろう」と。

私はまた気持ちを切り替えて次に進んでいける。

そして逆にうまくいった時や
人に受け入れられた瞬間は

どうしようもなく驚くし

喜びが倍になって

この瞬間を胸に刻み付けよう

たまたまこうなったことを
忘れないにしようと

シャッターを切るように。

その思い出を礎にして

なんとか踏みとどまりながら

そんな生き方をしてしまっている。

それが自分にとっては非常に楽で

燃え殻さんのおじいさまの言っていたことと

どこか重なる自分がいる。


しかし一方で
どこか変えていかねばならないと
思っている自分もいる。

なぜなら私のまわりのやさしい人たちも

そんな私の悪しき根っこに気づいているからだ。

この本の「あの夜『ナイトクルージング』を一緒に聴いた」という話が、私は最初に読んでからずっと忘れられない。

3.11のあの夜。

大きな地震が起きて
燃え殻さんは心も体もぼろぼろだった。
ソファに横になっても眠れない夜に
Twitterにフィッシュマンズの『ナイトクルージング』のPVを張りつけた。
「今夜眠れない人へ」
そこへたくさんのあたたかいリプライが飛んできた。
「知らない曲だけどいいね」「疲れましたね」

知らない人たち。
でも同じように眠れないどこかの誰かと一緒に。

燃え殻さんは「ナイトクルージング」を寝落ちするまで聴いていた。


私も今夜はナイトクルージングを聴こうと思う。


眠れない誰かと


ままならない日々を過ごす人たちと


いつか来る、夜明けを待ちたいと願っている。







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