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ヘアドネーションとそれにまつわるビッグサンダーマウンテンのお話

がん患者の家族になってしたことの1つにヘアドネーションがあります。

ヘアドネーションとは、先天性の脱毛症やがん、事故などで髪の毛を失った子ども達のために髪の毛の寄付を募り、寄付された髪の毛を使ってウィッグを作成し、子ども達に無償で提供する活動のことです。


私はこの活動を知った時に、ちょうど良いタイミングで髪の毛を伸ばしかけている最中でした。
伸ばしている理由としては、夫は長髪が好みであるということと、病気が治るように願掛けをしていたこともあったのですが、ヘアドネーションのことを知ることによって「このまま伸ばし続けてみよう」と自然と取り組んでみようという気持ちになったのです。


髪の毛を30cm以上伸ばすのは、意外と大変です。

特に髪の毛を乾かす作業に関しては、終わりの見えない何かと戦っているような気持ちになりました。

また、長い髪の毛は、女性の高齢者の方には意外と評判が良く、回想法的にご自分の髪が長い頃の話をして下さる方もいらっしゃいました。


まあそんな訳でヘアドネーションしたのですが


ここから思い出話です。


私は作業療法士の資格を持っていますが、実習施設が県のがんセンターでした。
2ヶ月の実習中は、慣れないがんという病気や治療のことを毎日勉強しながら、とても忙しく慌ただしく過ごしていました。

その中でも特に思い出すのが、患者さんたちの顔です。

特にある高校生の女の子のことは忘れることができません。


がんセンターでは、入院している小児の患者さんたち向けに1年に1回の大イベントがありました。
それは家族と一緒に行く東京ディズニーランドツアーです。
これは医者や看護師などが付き添い、バスを貸し切りして行われます。車椅子などを利用していても、東京ディズニーランドはバリアフリーなので、アトラクションに参加することができます。万が一、体調が悪くなってしまっても医者や看護師が近くにいるので、ご家族も安心して参加されていました。
そのイベントに私たち学生も参加することになっていました。
私は高校生の女の子とそのご両親、センターの若い看護師さんと1チームになって園内を移動する予定でした。

イベント当日、女の子はとても嬉しそうな様子で、乗りたいアトラクションをご両親と一緒に考えていました。私と看護師さんはなるべく女の子が乗りたいものに乗れるように、ルートを一緒に考えたり、疲れすぎて体調を崩さないように休憩を入れたりして一緒に楽しんでいました。

女の子は年の近い私に対して、とても親しげに接してくれました。
入院治療が長く、学校に通えていないことに不安を感じながら「それでも、なりたい職業があるから頑張らないといけない」と前向きな気持ちを懸命に話してくれたのを覚えています。
私は「高校が卒業できなくとも、様々な選択肢はあるし、私自身が体が弱くて高校を中退したけど、大検をとって今専門学校に通っていること」についてお話しさせていただきました。その話を聞くとご両親が「そういう話を聞いて目の前で頑張っている学生さんがいると励みになる」とおっしゃって下さいました。そして女の子も「じゃあ、私もやっぱり頑張るね」と、とても素敵な笑顔を見せてくれたのです。

その日、女の子が一番乗りたかったのは人気アトラクションのビッグサンダーマウンテンでした。

ビッグサンダーマウンテンはゲストアシスタントカードを見せると、裏口から階段を登って乗り場まですぐ到達できる仕組みになっています。

女の子は足の力が弱く、装具をつけていたので、手すりを伝って介助しながら一緒に階段を登りました。

そしていざ乗り込み、発車する時になって後ろに乗っている私にお願いをしてきたのです。

「髪の毛を後ろから押さえてもらっていいですか?」

私は一瞬、何を言われているのかわからなかったのですが、その子は抗がん剤治療による脱毛があったため医療用ウィッグをかぶっていたのでした。

「しっかり押さえるから楽しんでね」と話し、乗っている最中にウィッグが飛んでいかないように、私は必死でその子の頭を押さえていました。

その時の女の子の楽しそうな顔と、一生懸命押さえていたウィッグの感触は今でも忘れることができません。


今回、ヘアドネーションのことを知った時に真っ先にその子の顔が思い浮かびました。

あの日、あの子がかぶっていたものと同じように、今も医療用ウィッグを欲している子供たちがいるなら、協力できることはしてきたいと強く感じたのです。


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