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ひとりひとりのものがたり

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仕事での出会い、出会ってしまった人たちの物語の断片を書き綴ったもの。高齢者のナラティブ。
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#人との関わり

彼女だけが見えていた風景

その瞳に何がうつっていたのか。 どんな景色が見えていたのか。 思い出しても、いまだに想像することができないものがある。 *** 昼下がりの午後 廊下にあたたかい陽ざしが差し込んでいた。 私はAさんと歩行練習をしていた。 Aさんは小柄で眼鏡をかけている。80代の女性だ。 転倒して骨折してしまい、手術をしたものの足の力が衰えてしまったので、施設の中は車椅子を使って移動している。 やさしい方であまり主張はしないが、読書をよくされていて、いろいろな事を教えて下さった。

【自己紹介】あたたかさに触れること

いつものデイケアで、行われるやりとり。 私は介護老人保健施設に勤めているしがない作業療法士だ。 長く勤めていると、当たり前だが担当している方が少しずつ老いていく。 と同時に私も老いていることに気づく。 「お互い年取りましたね」なんて、言ったりする。 そして、認知症が少しずつすすみ、私のことも少しずつ認識できなくなってくる。これは私自身がさみしさを感じることではあるが、変わらず同じ温度で接しながら、その人のもうあまり出てこない昔の諸々を含みつつ、一緒につつみこめたらい