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「花束みたいな恋をした」2回観たら全然違う映画だった

※ネタバレあり


予告をみて「うわっ...観に行きたい!」と思ったのは「君の名は」ぶりだった。今の雰囲気だとなんかアニメもアクション系も違うし、格差社会的なのも疲れるし。パッと明るめのやつが観たかった。菅田将暉と有村架純っていうのもだけど、一時多かった制服を着た青春ラブコメ映画が退屈だったからなのか、なんか生々しさというか久々に若者の純愛的な映画かなと思った。

で、みた。

めちゃくちゃ良かった。
余命いくばくもないとかじゃないし、実は兄妹だったとかないし、北朝鮮に不時着しないし、別に大きな出来事があるわけではなく、ただただカップルが出会ってから別れるまでの5年間を描いた映画だった。でもそれが8K放送くらい細かに映ってる。サブカルのせいで。天竺鼠とか、きのこ帝国とか、ゼルダのゲームとか、今村夏子の『ピクニック』とか、ゴールデンカムイとか、「俺もその時代、生きてたよ....はぁ...」って思っちゃうサブカルや時事の数々よ。

サブカルはリアルさを出すための装置でしかないんだろうけど、それによって自分もその世界に住んでいるかのような、逆に劇中の2人が現実のどこかで生きているかのような体験ができる。

登場人物もみんなリアル。それぞれの言動の辻褄があう。初対面の女性をワンチャン狙ってるサラリーマンは飲み屋で妙に自信げに喋るし、広告代理店勤務の両親は中身のないそれっぽいことしか言わないし、イベント系のイケメンモテ社長は一見下心なさそうだけどめっちゃ女のことしか考えてない。

イラストレーターを夢見る菅田将暉はイラストの仕事のギャラを叩かれ、終いには「いらすとやでやります」だなんて言われるところなんて、体の全神経で「うわぁ」と反応してしまった。

結果、菅田は、二人の将来のためにイラストとは何も関係のない会社で収入を得つつ、イラストも続けていくという志で就職するが、そんなうまくいくはずがない。会社で働き出してちょっとずつ人が変わってゆく。順調に社会に埋もれてゆく菅田将暉とサブカル女子の有村架純がちょっとずつちょっとずつすれ違う。極め付けは、好きな文芸誌を持つ有村架純とNewsPicksの本を立ち読みする菅田将暉。前田裕二の『人生の勝算』。売れた本ですよ。決してその本を悪として扱ってはない。でも、概ねそのような見方で劇中に出てきてはいる。それはもう今の社会の象徴的姿というか、たとえ少数派であっても自分の好きなモノコトと向き合うのではなく、いつの間にかそんなことを忘れて多数派の社会に従ってる菅田が立ち読みしてるんですよ。

大切にしてたことって、忘れちゃうんだよね。いつのまにか。

そんなこんなで、切なく二人は別れて、なんやかんやで、映画が終わった。激推しの親友カップルが別れるくらいの喪失感があったけど、二人はどうしたら別れずにいられただろうか?とか、あのセリフの意図はなんだろう?とか、あの時の気持ちって・・・とか、想いが巡りまくりで久々に余韻が続く映画だった。


で、問題の2回目よ。

もう一回、二人に会いたい!だなんて少し気持ち悪い感情を持って、花恋、2束目。

全然印象が違った。

1回目の感動から一転、ちょっと呆れてしまった。あぁ、これって恋愛映画に見えるサイコホラーか何かだ。って。裏テーマが「サブカルクソカップルがいかに世にありふれてるかを突きつける」映画なんだと思った。

1回観てるから、2回目は細かなところが気になりだす。わざわざチケットを取った天竺鼠のライブをうっかり行きそびれるわけがない。押井守知らないの?ってマウントを取った態度。「ワンオク聴ます」=「ワンオク(みたいにすでに大衆化した音楽は趣味には合わないんですが一応、)聴けます」という意地の見えるセリフ。夢のイラストレーターを諦めるのも早いし、趣味のラーメンブログが序盤に出てきて以来全くラーメンが出てこないあたり、「ラーメン」が好きなのではなく「女子だけどラーメンブログやってる私」が好きなんだろうなとか、色々浅く見えてきた。

比較的趣味性の高い音楽などのカルチャーを好む僕たちは少数派で特別で他の人とは違うんです。尊いし、僕らの持つ感度はそんじゃそこらの民とは一線を画する高次なものなのです。って言いたいがために、二人はサブカルを好んでる気がしてならない。

そう見せつけながら、最後のファミレスのシーンでは二人の学生時代に似たカップルが出てくる。履いてるスニーカーも同じ。音楽の話題も羊文学、長谷川白紙、崎山蒼志、まだまだ趣味性が高い次世代ミュージシャンの話。文学の話もそう。その男の子に至っては「崎山蒼志(さきやまそうし)聴いてます!」言うくせに「きやまそうし」って言い間違うし。浅さの限りを尽くしている。菅田、有村の鏡写のようなもう一つのサブカルクソカップルが近くにいるという皮肉めいたシーン。

お前らが特別に思っていた、サブカルクソカップル、浅くて痛いし、そこらへんにありふれてますよ〜

って言われた気がする。心当たりのある痛いとこを突かれた気がした。


でも僕はこの映画が大好きだしおそらく今後も定期的に観るんだと思う。若者が社会に出て大事にすべき初心や感性が削がれていく姿は、なんとも言えなかった。どうすることもできない今の世の中が持つ不条理さの中で、若者の恋愛が歩む先の姿がリアルに描かれている。だからサブカルクソカップルなんて深く考えずに、作品を楽しもうと思う。

こんな見方をしちゃう僕って、変わってるんですかねぇ?(圧力)


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