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【読書5】魂よ熱くなれ!/横山秀夫著「クライマーズ・ハイ」

いまさら感MAXだが横山秀夫氏の代表作「クライマーズ・ハイ」を読み終えた。
今から約20年前に発表され、映画化もドラマ化もされた名作だ。

あらすじはこちら

昭和60年8月12日、御巣鷹山で未曾有の航空機事故が発生した。その日、衝立岩への登攀を予定していた地元紙・北関東新聞の遊軍記者、悠木和雅は全権デスクに指名される。はたして墜落地点は群馬か、長野か。山に向かった記者からの第一報は朝刊に間に合うのか。ギリギリの状況の中で次々と判断を迫られる悠木。一方で、共に衝立岩に登る予定だった同僚の安西耿一郎はその頃、倒れて病院に搬送されていた。新聞社という組織の相克、同僚の謎めいた言葉、さらに親子の葛藤、そして報道とは何なのか、新聞は命の意味を問えるのかという自問自答――。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、著者渾身の傑作長編。

Amazon「本の概要」より

著者の横山氏はかつて上毛新聞社の記者として日本航空123便墜落事故に遭遇している。その経験が本作のしびれるようなリアリティと圧倒的な熱量に繋がっている。

もちろん物語の中心には日本航空123便墜落事故があるが、それ以外にも親と子の関係、男同士の友情、報道のあり方、地方新聞の役割、新聞社内での派閥闘争などなど重厚なテーマがこれでもか!というほど盛り込まれている。

そしてとにかく登場する男達が皆熱い!
魂の燃やし方を忘れかけている自分にはやや眩しすぎるというか、途中若干胸焼けしそうになったが、結局ページを捲る手を止めることはできず一気に読み切った。

本作は事故が発生してから事故原因が特定されるまでの7日間を描いたパートと事故から17年の月日が流れ主人公が今は亡き親友の息子と衝立岩に登るパートを交互に描く構成となっている。それぞれのパートが巧みに絡み合い物語の熱量はやがてピークに達する。
ラストは涙が止まらず日本橋の公園で号泣してしまった…(怖い人)

物語全体を通して女性の扱いがやや雑なところや、男達が皆「24時間戦えますか」状態なところはどうしても時代錯誤感が拭えないが、良くも悪くも昭和という時代の空気感をとてもリアルに描いているのではないだろうか。(令和の若者達の目ににどう映るのかは分からないが…)

ページを捲る手が止められないという意味において非常に"面白い"小説だった。
しかし、本作で扱われる事故は架空の話ではなく現実に520名の命が失われている。ノンフィクションであればともかく、フィクションの題材とするにはあまりにも重い出来事だ。
そう考えると横山氏は相当の覚悟を持ってこの作品を執筆されたに違いない。

時代を越えて読み継がれる小説を紡ぐ、そして多くの読者の魂を震わせる、それは神様に才能を与えられた優れた書き手にしかできない鎮魂のひとつの形なのかもしれない。

暑くなるこれからの季節にぜひおすすめしたい一冊。

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