見出し画像

部活動の地域移行元年 ~クラブチーム運営の難しさから考える地域移行への課題~

皆さんこんにちは。
今回はまたまた部活話です。
 
4月を迎え、ついに令和5年度となりました。今年は「部活動の地域移行元年」です。
 
というのも、スポーツ庁では令和5年度から令和7年度にかけて、現存する学校部活動を徐々に地域のスポーツクラブや指導者、競技団体に移行していく「部活動の地域移行」を進めていくとしており、今年がまさにその初めの年なのです。
このあたりは昨年私が連投した記事の中で書いていますし、学校現場や教育委員会などの行政機関の方、さらには先進的な取り組みがある市町村の競技団体の方には周知の事項であるかと思います。
 
知らない方のために一応「学校部活動の地域移行」について改めて説明すると、これはそもそも「教員の働き方改革」に端を発します。長らくこの国では、学校の先生がタダ働き同然の待遇で部活を指導していましたが、近年になり、それが長時間労働に繋がっているとの指摘がなされるようになりました。
また、競技経験のない教員がやったこともない部活の顧問をしなければならないなど、そういった面での負担も多く、ワークライフバランスが云々と言う現代において、問題提起がなされたのが事の始まりです。
それから、教員の負担になっている学校部活動をどうにかしなければなるまい!と、始まったのが学校部活動の地域移行であり、今までの形の部活動は大きな変化の時を迎えようとしています。

これに関する時代背景の変化などには、ここでは触れませんが、私が中学生だった頃(2010年頃)とは、考え方も時代も大きく変わったなと感じている今日この頃です。
 
さて、ここまでの前置きが長くなりましたが、今回の本題はここからです。
本日扱うテーマは「部活動の地域移行が進んだ時、受け皿となりうる団体が本当に運営していけるか否か」ということです。
学校部活動の地域移行は、種々の問題はあるものの、私が今一番気になっているのはこれについてです。気になっているというよりも、ある種の危機感を感じています。

今回は、競技団体の一員であり、学校部活動の地域移行の渦中に飛び込むことになるかもしれないという私の指導者としての立場から記事を書いていこうと思います。
 
なお本稿はあくまでも個人の視点であり、特定の団体の主張を代表するものではないことであるという前提を踏まえてご覧ください。

私の立場・那須塩原ジュニアの置かれた状況


話を始める前に、まず私の立場について改めてはっきりさせておきます。
私は那須塩原市陸上競技協会に所属し、当協会が運営する「那須塩原ジュニア陸上クラブ」のコーチです。対象は主に小学生であり、基本的に週1回、土曜の午後に子供たちの陸上指導を行っています。
 
那須塩原市内で陸上競技を扱っているクラブチームは、(多分)我々那須塩原ジュニア(以下「那須塩原ジュニア」)だけであり、実際に中学校の陸上部を廃止して全て地域移行していくとなった場合は、間違いなく那須塩原市での陸上競技をやりたい中学生の受け皿は、我々となるだろうと、私だけではないコーチ陣も思っているところです。いわば、我々那須塩原ジュニアのコーチ陣は、地域移行の波に呑まれる直前の場所にいると言えるかもしれません。
 
※ちなみに那須塩原市内の小学校で陸上部常設校は無いので、あくまでも中学校の部活が地域移行されることを前提に話を進めます。
 

運営して感じていること


さて、私が那須塩原ジュニアでコーチングを始めてから1年半ほど経ちました。
その中で感じていることですが、まず一番感じることは「ギリギリの運営体制である」ことです。
 
どういうことか。これは決してクラブに対して文句を言っているわけではなく、実際の運営体制に厳しい面があることを言っています。
 
我々のクラブのコーチは全員会社や組織に所属する、いわゆる「サラリーマン」です。土日休みになる人が多いですが、私の仕事のように、土日に平気で仕事があったりすると、まずクラブの指導に行けないこともあるのが現状です。
また、家庭を持っているコーチもいますので、家庭の事情などで練習に来られないといったこともあります。
更に、コーチ陣の中には陸上競技の公認審判資格者もいるので、県内で大会があり、審判委嘱があればそちらに行くこともあり、必ず土曜の午後に練習に行けるわけではないというのが現状です。
加えて、コーチの数が十分とは言えず、現に那須塩原ジュニアでは投擲種目を教えることができる人がいません。
 
このような状況の中、今の小学生を見ているだけでも精いっぱいなのに、ここにプラスして中学生も見られるかというと、少し怪しい感じがします。怪しいというか、かなり厳しいと思います。
 

地域移行した際の問題点


上記のような状況の中、起こりうる問題点を整理していこうと思います。

(1)小学生と中学生を同じ日の同じ時間に見る


この場合、指導しなければならない人数が増えるので、それだけコーチの数を増やさないと対応できなくなります。また、中学生と小学生では発達段階の違いや練習強度の違いがあるので、同じメニューを行うことが不可能です。

(2)小学生と中学生を異なる日・時間帯に見る


この場合、コーチ陣の数は上記(1)ほど多くなくて済みます。しかし、コーチ陣に仕事があったり家庭があることを考えると、やっていく中でいつかは「誰も来られない」という瞬間がやってきます。実際に過去には我が那須塩原ジュニアでもそのようなことがありましたので、いつかはそのような状況がやってきます。
また仮に土曜午前に中学生、土曜午後に小学生を指導するとなると、1日中朝から晩まで指導に付きっきりにならなければなりません。
日を分けて土曜に小学生、日曜に中学生を指導するとなると、2日間の休みのどちらの半日も潰れることになり、自分のための自由な時間が持てなくなります。
 
指導するコーチにもそれぞれ仕事や事情や家庭があり、自分の時間を犠牲にしてまで陸上に関われるかというと、そんなことはありません。よほどの陸上バカで、人生を捨ててでも陸上に関わることを良しとしている人なら別ですが、少なくとも私には無理です。それは「競技に人生をかけた覚悟」とは別物であって、到底良いことだとは思えません。

(3)保険の問題


上記の2つの問題は、主に指導者不足という観点からの問題ですが、この保険の問題というのも大きな問題となります。
 
というのも、学校の部活動中のケガなどは日本スポーツ振興センターの保険が使えますが、一度学校管理下を離れた場合、そこで起きた事故などは自己責任となるので、日本スポーツ振興センターの保険が使えません。
そうなると個人で保険に入ったり、主導する団体で保険に入ることになりますが、そうなると生徒の保護者への経済的負担が多くなることが予想されます。
また、そもそも保険は誰が主体となって入るのか?という問題も出てきます。地域移行を進める以上、行政や教育委員会頼りにはできないし、競技団体や指導者に丸投げできない。だからと言って個人責任にしてしまうと、保険未加入の生徒が保険事故に遭った場合、補償がないということにもなります。
経済的に余裕のある家庭ばかりではないので、保険をめぐる問題から新たに経済格差により部活ができないという問題もセットで浮き彫りになってきます。

(4)金銭負担の問題


上記(3)のように保険の問題もありますが、根本的な金銭負担の問題もあるでしょう。
 
今までは部活を学校で先生が教えてくれたので、もしかしたらそれほどお金がかかるといったことはなかったかもしれません。
しかし、地域移行を考えた時、クラブや競技団体を運営していくには従来の部活動以上にお金がかかる可能性もあります。そしてそのお金は、受益者である生徒(正確には生徒の保護者)が負担することより他に方法がない気がします。
そうすると、経済格差によってスポーツができるかできないかという格差が生まれてしまい、子供たちの「やりたい」という想いに応えられない可能性があります。
これは、子供たちの可能性の芽を摘み取ってしまう事にもなりかねません。

(5)謝礼や経費の問題


今現在、我々那須塩原ジュニアのコーチ陣はほぼボランティアの状態で、何の手当や交通費の支給などもない状態でクラブの運営をしています。我々の場合、陸上が好きな人たちが「好きだ」という想いだけで支えられている部分があり、まあそれはそれで良いことだとは思いますし、私もそれでいいと思っています。
 
しかし、本格的に地域移行をしようとなった場合、ある程度の責任を伴うことになるでしょうし、そうなってくるとボランティア精神にだけ支えられた運営方法が持続可能なものであるとは思えません。お金のためにスポーツの指導をするわけではありませんが、やはり練習会場に行くまでの交通費を出したり、ある程度の謝礼のようなものを出すなど、何かしら働きに対する対価は払って然るべきであると感じます。
なぜなら、その人たちが指導をやらなくなってしまえば、その地域におけるスポーツ指導の受け皿が無くなってしまうことになるので。
 

(6)活動場所の問題


今までは、学校のグラウンドや、生徒が自転車で移動できる範囲での活動を主としていたため、「場所はどこでやるのか」とか「どうやって移動するのか」といった問題は起きにくかったでしょう。
しかし、部活動を地域移行した場合、それまでの学校の枠を取り払い、より広いエリアでの活動となるため、生徒の自力での移動能力を超えた場所での活動が予想されます。
 
那須塩原市を見てみると、栃木県内で2番目に広い土地に20ほどの小学校と10ほどの中学校があり、また黒磯地区と西那須野地区と塩原地区という3つの市街地があり、そのそれぞれの地区に体育施設が点在するという状況です。各市街地は車で30分ほどの距離です。
拠点が離れれば離れるほど保護者の送迎が必須となり、保護者の送迎ができなければスポーツに参加できないというような状況も十分に起こり得ます。
 
現に、私が「那須塩原ジュニアに入りたい」と相談を受けた方の中で、家から活動場所までの距離が遠すぎる故に送迎が困難で、結局参加できない方がおり、その方は親子して残念そうな表情で帰っていきました。申し訳ないというか残念というか、私も無念で仕方なかったのですが、部活の地域移行とはこういう事なのかと身をもって感じた瞬間でした。
 
以上、色々と列挙してみましたが、これはあくまでも私が感じた問題点の一部です。実際に、先進的な取り組みを行っている現場では、これ以上に細かい問題も出てきているでしょうし、今後本格始動していくともっと細かい問題や重大な問題が出てくることが予想されます。
 

それではどうすればいいのか?


今列挙したように様々な問題があるものの、スポーツ庁では「令和5年度からやるぞ」と言っているので、部活動の地域移行が進んでいくのは待ったなしの状況です。
 
そこで、私が考える問題解決策の一部を書いていこうと思います。
ただし、極端な思想というか、到底実現不可能なものもあるので、参考までに見ていただければと思います。あくまでもこれを読んだ読者の方が、これをきっかけに何かを考え、議論を深める材料となればいいなと考えています。
 

(1)指導者不足に関して


今後、部活動の地域移行が進んでいくと、平日も地域で部活を見なければならない瞬間が必ずやってきます。実際にスポーツ庁ではそのようなことを言ってますので、今すぐではなくとも、理想の完成形は平日も地域でやることなのでしょう。
別にそれ自体は良いと思いますが、私のように平日仕事をしている人はまず指導できません。有給を取っていくしか、今のところは方法がありません。
 
そこで、部活動指導に関わる人をライセンス登録などをして、そのライセンスを持っている人が平日に部活の指導をしに行くときは、有給を使わず、給与カットもなく、ただ「部活の指導をする」時間を仕事をしているものとみなして対応する制度、みたいなものの構築が必要なのではないかと思います。
例えば、1日8時間労働のところを、部活動指導がある日は5時間労働にして、それでいて給与の削減はしないなどの対応です。こうでもしないとサラリーマンが部活の指導をできませんし、都合よく部活の指導をできる自営業者がいるわけでもありませんので。
そして、そういった人を抱える企業や団体には、何らかの補助金を出すなどの対策もセットで必要になるかと思います。ちょうど、予備自衛官が勤める会社に対して防衛省から手当が出るのと同じようなシステムが良いのかなという気がします。
 
極端な話ですが、私は部活動の地域移行は社会の労働システムの変革を伴うレベルのスケールの大きな話であり、局所的に制度を変えただけでは、学校の先生の負担が民間の人に移っただけで、負担を被る人が挿げ替わっただけの話にしかなりません。
 

(2)金銭面の問題に関して


正直、お金の話に関してはなかなか困難な状況だと思います。地域移行の受け皿となる団体に地元企業のスポンサーをつけようとしても、どっかの誰かのせいで全く経済が衰退したこの国では、簡単にそういったことにお金を出せる企業は少ないでしょうし、仮にあったとしても、十分に活動できるほどのお金が巡ることは少ない気がします。
ただ、保護者の負担もそこそこに、しかし保険や指導者への謝礼や手当を充実させると考えた場合は、こういった方法しかないのかなという気がします。
 
 
ここまで長々と書いてきて、また最後のほうは解決策とは程遠い妄想という代物となりましたが、ここまで踏み込んでやっていかないと本当の意味での改革は不可能です。
 

皆さんはどのように考えますか?


この記事をきっかけに、全国で同じような課題に直面する競技団体の方や現在進行形で指導をしてらっしゃる方など、様々な立場の方がこういった議論を活発に行っていく中で、どのような方法で問題を解決していくのがいいのかを考える契機になれば幸いだと考えています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?