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鎌倉海の家Project第1章

海を感じる生活を実現したいと思って、どのくらい時間が経っただろう。

子供の頃、なんとか歩いて海まで行ける距離に住んでいた。しかしその海岸は工業地帯だった。父の実家からは海水浴場が近かった。自然の海岸線を見ると心が安らぐ自分が形成されたのはこの頃だったのか。

時代は変わって、海水浴を楽しむ人は減ってきているという。子供が海でけがをするといけないとか、日焼けは身体に良くないとか。ヒトも自然の中で生きていくしかないのに。

それでも海への憧れはひと時も頭から離れなかった。

ヨットをやった事もある。海から歩いて30秒のところに土地を買った事もある。どれもどうもしっくりこなかった。ヨット は自由に気ままに遊べなかった。海そばの土地は車が入れなかった。

それでも海に親しみたい気持ちは変わらなかった。

再挑戦である。無理なく気ままに楽しめる海辺の生活、我が海街ダイアリーの始まりである。

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それはひょんな事から始まった。

友人の出演する歌舞伎を見ようと東京に出た。そのあと仲間で美味しいフカヒレスープを堪能し、go toキャンペーンで家内とビジネスホテルに泊まった。翌日そのまま帰るのは勿体ないと思い、鎌倉を犬と散歩、出来たら物件見物でもしようと思い立った。

しかし今日は火曜日。どうせ不動産屋は休みだろうと思いながら、駅前を歩いていたら、なんと営業中。何となく、ショーウィンドウに表示してある物件の話でも聞いてみようかと入ってみた。


不動産屋はとにかく楽に取引成立させようと振り向けるから嫌いである。偏見かもしれないが、間違いない。今まで何度売買しただろう。その度にそう思った。だから今回もそうに間違いない。そう思っておけば落胆しない。

「すみません、表に貼ってある物件の話を聞きたいのですが」

受付兼営業アシスタントのような女性に声をかけた。

「少々お待ち下さい」

案の定、出てきたのは、業界こんなもんと割り切ったオヤジだった。名刺は営業本部長。もしかするとここの営業マンは全員本部長かな。

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ネットで見た物件が多かったが、ひとつ面白そうなモノに目が留まる。

借地権付建物。

これだ。

投資用物件候補で見た。旧法であれば借手の権限強く問題ない。ローンが使えないし流動性は大きく落ちるだろう。しかしその分価格は大幅に安い。

それにしても安い。借地50坪、築38年建物27坪で、2千万円前半。きっとクルマが入れないか、崖下か。

と思いきや、駅から歩いて4分、道幅は5.2m。

これは良さそうだ。早速実査へ出発。

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ふむ、だいたい分かった。

地形は旗竿だが、間口3m以上ある。2台停めて歩ける。裏が小学校だが、校庭には面していない。

周りも同じお寺さんの借地。古すぎず新過ぎずの静かな趣ある住宅地。

標高20mあるから津波も安心。崖を背負ったりもしていない。

建物は注文住宅らしく造りはしっかり。傾きは感じない。ただ床板が所々傷みあり。鎌倉の谷地は湿気が多いというが、この家からはあまり感じられない。

これはいけそうだ。

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「あなたには土地の神様がついている」と妻は言う。確かに今まで物件で大きく外したことはない。勘がいい方だとは思う。

その勘が今信号を発している。ピッ、ピッ、ピッ。

しかし、ここからが難題多く、モンスターハンターよろしく戦いが始まった。

まず建て替えプラン。計算上、建ぺい率一杯に立てれば延床40坪の家が建つ。これに車庫2台分なら十分な広さ。徹底的にこだわったものも出来るかな。

ところが、国の史跡に指定されていることが発覚。これでは既存建物よりも大きいものは建てられないらしい。これでは建て替える意味ない。文化庁の許可事項らしいが大丈夫か。昔は大家さんであるお寺さんの境内だったようで掘ればいろいろ出てきそうである。やや不安が走る。

それから、この借地が旧法上の扱いでないと将来厄介な事になりかねないが、今回は既存の契約を引き継ぐのではなく、改めて大家さんと土地貸借契約を締結するらしい。一体それでも旧法上の扱いと言えるのか。平成4年に法律が変わっているが、そもそも今の賃貸借契約も旧法上のものとして認識出来るのか。うーん、分からん。

この広大な敷地は過去に何度か分筆されているようだが、該当物件の筆にいくつかの借地権が存在している。これは混同しないのかな。借地権自体に対抗力は無いが、どうやって自分の借地権の範囲を特定できるのか。建築上は不利にならないか。

過去の分筆の結果、今の建物の所在と地番が違ってしまっている。これまた不安。

そもそもいくらで買うべきなのか。

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不安の種は尽きないが、これがまた楽しみでもある。

ネットで調べるといろいろ出てくるがどれも一般論でよく分からない。

知り合いの建築家に聞いてみたが要を得ない。ネットで地元の建築家を探し出しメールしたところ、親切に対応してくれた。市役所担当者に確認してくれ、文化庁の許可が下りなかった前例はないとの事がわかった。セカンドオピニオンとして有益。これには感謝。

不動産屋さんが、史跡での建て替え実績ある設計士を探し紹介してくれた。不動産屋が働かないというのは偏見だったかね。

そのU設計士が市役所に確認してくれた。やはり国の史跡なので文化庁の許可マターだが、建築場所を広げなければ、総二階にして床面積を拡げるのは構わないとのコメント。ならば今の場所、面積で33坪の家が建つ。これなら良い。

念のため後日小生も市役所の担当に連れて行ってもらい、再度確認した。しつこいが、今しかない。

さて旧法賃借権問題。登記簿や契約書はもらったが、肝心のオピニオンは一切出さないのが不動産屋。やはり働かない。宅建士として説明するならば自信あるだろう、と思うが全く使えない。止む無く知り合いの弁護士と不動産屋にメールで相談した。思いの外、すぐに返信あり。持つべきものは友である。

建物の地番と土地の地番違いは、所在変更登記すれば良い。これはよくあること。

複数の賃借権が一筆に存在するのは、弁護士的には分筆してほしいとの事だが、不動産業の実際としては、契約に付表として測量図があればいいのでは、との事。借地用に境界を打つのは聞いたことがないとの事。U設計士曰く、一筆に複数の家が建っていても明確に区分けされていれば、建築上はそれぞれの土地と見てくれるとの事。一安心。

旧法であることの証明は、いずれも明記したらいいのでは、との事。しかし、契約内容を変えるのは地主も嫌がるだろう。ネットのコメントでは、そもそも法律変更前に建物が建っていることを証明できる事が大事とのことで、それが建物の登記簿。これは明確に昭和57年◯月◯日となっている。これだ、これでいける。

借地の実際も分かった。法律は時勢に合わせて変わっていく中で、800年の歴史あるお寺さんを信じる方が得策かな。

懸案事項、一応全て解決済み。

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さて、物件は決まった。決めた、よな。心の中のもう1人の自分に確認する。

50坪、大型含め車2台可。静かな住宅地。小学校はご愛嬌。海まで650m、10分以内。駅まで3分半。病院まで1時間半。

この値段でこの条件の物件は鎌倉逗子エリアでは立派である。借地の分、十分安い。大家さんは信頼出来そうなお寺さん。

掘り出し物の不動産なんて無い、と人は言うが、この物件は、自分にとっては明らかに掘り出し物である。

前に進もう。

契約日時も決まった。

さあ、建築。これからもっと楽しくなる。きっと一生で最後の家づくりだ。徹底的に拘りたい。前回は引越し時限が迫って忙しなかったが、今回は十分時間を掛けよう。

先ずは、リノベしたらどうなるか、コストはどうか、U設計士に見積もってもらう。ところでリフォームとリノベ、改築の違いはどこで線引きされるのか。

構造の半分以上が残っている、屋根とかの構造が変わらない、ならばリフォームとして建築確認申請は不要らしい。リノベーションとリフォームは明確な線引き無く、中を全部やり直すならばリノベ、キッチンだけとか、一部のやり直しはリフォームというらしい。

情報源は主にネット。Pinterestを駆使して自分のイメージを整理する。海外の映像が役に立つ。国内のは業者のHPや楽天市場など、どうも小綺麗にこじんまりとまとまってしまいがち。カリフォルニア、ロンハーマンと言ったコンセプトが近いかな。サーファーズハウスというとなんとなく違う。ラスティックやビンテージといったイメージも使いたい。山小屋ならぬ海小屋のイメージ。間取りやインテリアも面白い。ネットで提案してくれるもの、初回相談無料のものなど、使ってみたい。

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思い通りの家を書き出してみる。オープンコンセプト、遮音の間仕切り、バーンドア、床はタイルか木材か。壁は漆喰中心に、木やタイルでアクセント。せんめ、トイレ、風呂は一体化した造り。からり床のタイル。掃除しやすさ、洗濯物干しやすさ。ベッドルームは最低2つ。WIC欲しい。ひと部屋はSPAルームとして使えるように。玄関土間は広めに。収納も欲しい。マリングッズ、釣りギア。

そう、釣りがしたい。当然釣ってきた魚を捌けるよう、外シンクとシャワー。陰干しできるような工夫も必要かな。玄関周りを効率的に設計しなければ。

あー、これではキリがない。無限に広がる。

よし、まずは今の建物のリノベから考えてみよう。これなら制約多く、なんとか出口まで行き着くかな。

オープンコンセプト。取れる壁は全て取る。床も壁も全取っ替え。キッチン、水回りは少し移動させたいかな。階段を緩やかに直線にしたい。そうすると玄関が狭くなるから少しだけ外に拡げるのはどうか。リビングからそのまま続くサンルーム増設。ここだけでもサッシを綺麗に変えるか。

2階ふた部屋、いずれもウッディな洋間かな。天井や床の間は綺麗なので利用できないかな。いや、小屋組を見せるのもありかとU設計士が囁く。そうだな。衣装収納と本棚は今の造作のものを利用出来そう。ふむ、ふむ。

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U設計士の実績にあったのだが、モルテックスという新建材は良さそうだ。応用範囲が相当広い。木材との相性も悪くないか。モルタルほど冷たい感じがしない。コストはどうなのだろう。

愛犬のいる我が家にとってメンテナンスも大事だ。床材はタイルでなくとも、例えば塩ビでも良さげなデザインがありそう。安っぽくならないように。

合板の床材、パインのアメリカ製のものは幅が広くて良さげ。オイル有無を選べる。経年劣化も楽しめそう。裸足で歩きたくなる。

キッチンは妻の出番。限られたスペースをどう活用するか。ダイニングテーブルは置かずにキッチンカウンター風に食事を取るか。I字かL字か。テレビはどうするか。

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