岫ワカメ

絵を描くし、本を読むし、ご飯を食べる

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雲の断面をなぞる

曇り空に向かってタンポポがめいいっぱい花びらを広げていた。植物は生きることに懸命だ。報われてほしい。 わかりたいけど、わからない わからないけど、わかりたい 二人の話し声だけがぽつぽつと響く夜。 いつのまにか心地よくなって、抜けられなくなってゆく。 「あなたを選んで、一人で生きていくことにした」 2人でも、3人でも、一緒に生きていけるね。 3人でコロッケ食べながら歩いてたいね。 方法を検索しなくても綺麗に染抜きができるようになったし、元気がないときにスマホを閉じられる

    • 花から吸って

      マスクを外して仕事をした。約4年ぶりのことだった。マスクを外すと新鮮な空気がたくさん吸えるし、自分の声がちゃんと相手に届いている気がした。 夜が明けるころには、花粉を恐れてまたマスクを着けてしまったけれど、窓を開けて走った昨夜の東京の匂いはそう簡単には忘れられないだろう。 気圧の変化に強くないらしい、くもり空を睨んでしまう。 花を育てるのは気持ちがいい。目が覚めてから間もないまだ脳が眠っているような感覚のなかでも、花瓶の水を取り替える。世話を焼くのは嫌いじゃない。 でも少

      • 銭湯、ゆえに湯冷め

        誰のことも傷つけないようにしていても、誰かが傷つく、誰かを傷つけている。 でも、だからといって傷ついてる人がいることに気づかないふりをして、誰かを傷つけることはしたくない。 傷つく人がいることは同じ、でも後者の傷つけ方はしたくない。勝手な話だけど。 こういう中途半端な優しさは、本当の優しさではないらしい。なんだそれ。たとえ中途半端だとしても優しさは優しさでしょうが〜。こっちはこういう優しさしか持ってないんだ、勝手にさせてくれ〜。 できるだけ自分の生きている小さい世界のな

        • 湯につかる日々

          大事にしない理由がないな、 自分の欲望とたたかう 足りないくらいが良い〜 チュッパチャプス! 五十肩になる日を楽しみにさせるなんて 雪を踏みしめながら歩いたスーパーまでの道も、あの日食べたお鍋に香っていた柚子の匂いも、焦げたキャラメルのクッキーの苦さも、ずっと覚えていたいな。 自分の好きなものについて、高揚する気持ちを抑えながら、わかりやすい言葉で説明してくれる人を心から尊敬している。 集中し続けることと、目を合わせて会話することが苦手なので、人と外食に行くと気付い

        雲の断面をなぞる

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        • 2023/1
          4本
        • 2022/12
          31本
        • 2022/11
          23本
        • 2022/10
          18本

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          ふきのとうの気持ちで

          何やってんだろうね〜〜祭り 部屋にソファを置くまでは、 部屋にチューリップを置くまでは、 あっちがこっちのガムだったな あ〜あ、そうなることが目的じゃなかったのに〜 と、後悔することがかなりある。 話すのはやっぱり苦手だな。顔を見て言葉で伝えたいことは沢山あるのに、いつまでも話下手で困る。 「今は意味がない、意味がない。会って話したい君と」 車で何度も渡っている多摩川にかかる橋も、電車から眺めるとまた新鮮でいい。2月の寒空の下、天候は雨にも関わらず、河川敷のグラウン

          ふきのとうの気持ちで

          白い息しか知らない

          浴室にぽつりぽつりと響く、愛しい歌声とアルペジオが湯船を静かに揺らす。鼻まで浸かった湯の温度で思い出す、いつかもらったチェック柄の包装紙。 扉の向こうにある暖色の光に心が解けてゆく。一段高く置かれたシャワー、締めが甘い蛇口から溢れ続ける雫。 真っ白な天使になった二人。紺色のスーパーカーに乗って、窓は全開にして。一人はたまに外を眺めては溜め息をついて、もう一人は暢気に本でも読んでいて。花束なんかよりソフトクリームの方が似合ってしまうね。どこの町に行ってもパン屋に寄っては食べ

          白い息しか知らない

          あれ、年越しちゃってた

          頑張って行かなくちゃいけないご飯会がたっくさん、はぁ、お家でゴロゴロ寝ていたいよ〜 マイヘアで覚める、下北の3時。 3枚ずつ配る、緑色の名刺。 何も言わず鍋を取り分けてほしい、パフェの最後の一口を口に運んでほしい、トーストが焼けたら二度寝から起こしてほしい、週末は仕事帰りにアイスかプリンを買ってきてほしい、貴方が読書している膝の上で日向ぼっこしながら昼寝をしたい。 子供は子供らしく、甘えさせてほしい〜 お会計のスマートさといい、去り際のさっぱりした感じといい、育ちの良

          あれ、年越しちゃってた

          門出も船出もまだいない

          昨年末の私は、珍しく働き詰めの日々を送っていて、身体も心もわかりやすく疲弊していた。本を読む時間があるのなら、その時間を睡眠に充てたかった。 見るだけで体調を崩しそうなスケジュールと睨めっこしながら、年末年始に炬燵でのんびりと本を読んで過ごすことだけを心待ちにして、なんとか仕事を納めた。 翌朝、マスクをしていることをいいことに大欠伸を連発しながら電車に揺られ、朝一番のバスに飛び乗って実家へ帰ってきた。 久しぶりに会うはずの娘に、両親はさほど関心がないようで、「おかえり〜」

          門出も船出もまだいない

          2023.12.24

          クリスマスイヴの早朝、あまりの寒さに目が覚める。弱めに設定しておいた加湿器から、ゆらゆらと申し訳程度の蒸気が噴き出ている。 羽毛布団で温められすぎた体は汗をかき、その汗を師走の容赦ない冷え冷えとした空気が冷やしていく。これこそが、私が冬に風邪をひくメカニズムであることに、この文章を書いていて気がついた。 先日までひいていた風邪による喉の痛みは解消されたものの、その症状は今度は鼻水に移行。次から次へと繰り返される体調不良。なんとなく感じる栄養失調。ダラダラと流れ続ける鼻水で

          橋を渡りきれない人

          「誰のためにもなっていない、そんな仕事をしているような気がするんですよね。」 その人は悲しそうに笑いながら、静かにそう溢した。言葉遣いが丁寧で、物腰が柔らかく、他人の気持ちを聞き出すのが上手な人なんだろう、第一印象はそんな感じだったと記憶している。聞けば職業はライターをしているそうで、その人柄の良さに納得した。 仕事内容としては取材した内容をエッセイや雑誌記事にすることが多いのだそう。しかし自身の文章に満足できていない現状に苦々しい思いを抱いているようだった。 後にその文

          橋を渡りきれない人

          シャリコーラ!

          本当におもしろいくらい、そこらじゅうに私を不幸にしようとする罠が仕掛けてある。もう本当におもしろくて、ワッハッハ〜と思わず口から出てしまうような滑稽な罠がわんさかね、あるんです。別に探してもないのに、目につくところにそういう罠が転がってくるわけですね。 そんなに悪いことをした覚えはないんだけどな。我ながら日頃の行いは悪くないと思う。女子供を殴る蹴るとかしないし。不意打ちで傷つけられることに、心はちっとも慣れてくれない。またか、とは思うけれどしっかりぐっさり新たな傷ができる。

          シャリコーラ!

          ご機嫌でいておくれ

          東京に妹と同い年の友達ができた。今日もその子のご飯を食べに阿佐ヶ谷まで電車に揺られる。 新しく買ったチェックのシャツがかわいい。 ハンガーにかけられて、エアコンの風に揺られているだけでとっても愛おしい。 隣を走る黒いスポーツカーの個人タクシーを見て客が高揚している。声色を変えて興味のあるフリをし続ける。声色チェンジご機嫌チャージ代くらい徴収させてほしい。 yonawoのライブ待機列、全員Aesopの香りがする。 電波がいいライブハウスはZeppだけだろう。 ブックオ

          ご機嫌でいておくれ

          ラジオを聴きながら、500マイル

          腹が減ってウロウロしていると、揚げ物のいい匂いがしてきて、少し歩いた先に惣菜屋を見つけた。てんこ盛りに並べられた惣菜たちはどれも茶色かったが、どれも本当に美味しそうで食欲をそそった。 見るからに優しそうな店主のおばちゃんは、優柔不断でいつまでもどれにするか決められない私のことを気にかけながら、次々と揚がる揚げ物たちを丁寧に並べていた。 私が注文を終える頃には少し行列ができていて、仕事帰りのサラリーマンや子供連れのお母さんらが後ろに並んでいた。 この人たちはこれからそれぞ

          ラジオを聴きながら、500マイル

          まだずっと秋の中にいる

          秋晴れの日に混み合う動物園、木漏れ陽の中を走り抜けていくロードスター、ガードレールに反射する陽の光、墓地へと続く坂道を駆け上っていく小さな男の子。 雲ひとつない空、真っ青のヘリコプターが気持ちよさそうに泳いでいる。むやみに誰かを傷つけたくないし、守れない約束はしたくない。 ある本を読んだ。読んでいるとなんだか心がほっとするような不思議な温もりを感じる文章だった。季節が移り変わっていくことにどこか寂しさを感じるように、日常の景色の中にある繊細な色の変化に気付き、それを丁寧に

          まだずっと秋の中にいる

          夜の話たち

          ① 昨年、やけに早くから映画館に置かれていたフライヤーを手にしてから、心待ちにしていた映画を観た。楽しみにしていてよかった、そう思える映画であった。 大きな窓から見える湖、水面に映る夕陽を眺める。柔らかく差し込む西陽に体温を任せて、リビングに置かれた木の椅子に体を委ねてみたい。 映画の感想を得意げに語り合っている人々を見ると寒気がする。大事に自分の中だけにしまっておきたいこともある。すべてを言葉にしてしまうのは野暮だ。映画館を出てからの数分間、感想の賞味期限は短い。 甘

          夜の話たち

          濃霧に佇む白鳥ボート

          降り頻る雨粒たちを、替えたばかりのワイパーが元気よく弾き飛ばしている。バナナマンのラジオを聴きながら、のんびりと中央道を下った。 連休最終日、朝のサービスエリアは思っていたよりも空いていた。腹が減っていた気がしたが、やけにラーメン屋が並ぶ店内を見渡していると不思議と食欲が消え去った。空腹を気のせいだったことにして自動販売機で温かいミルクティーを買い、すぐに車を出した。下道に降りてからも道は空いており、程なくして河口湖に着いた。偶然にも、ラジオから流れた最後の曲はフジファブリ

          濃霧に佇む白鳥ボート