040 嫌いなものを3つ挙げろと言われても

これまた難しいテーマを掲げましたが、そんなことを訊かれたことはありませんか?

でも、好きなものを挙げるより、確かに、その人となりがわかりやすいかもしれませんね。スラスラっと答えられた人は尊敬します。だって、いつも自分が嫌いなものは何かと、意識しているってこと。つまり、苦かったり酸っぱかったりすることに、つねに向き合える人ってことでしょう。

ボクは、、、難しいかなぁ。というのも、酸っぱいものが苦手。ということはさておき、一番の問題は、書き出したら止まらないかもってこと。たった3つを挙げるとしても、なぜ嫌いなのか説明するのは、案外骨が折れる作業に思えるからです。なんで、そんなものが嫌いなんだ、という問いに納得してもらえる答えを書かないといけませんから。

あえて挙げるとすれば、ボクの場合、1つ目は「虫」でしょうか。ボクは虫という虫が、みんな大嫌い。世界中から、すべての虫という虫がいなくなればいいのに、と思うことがあるくらいです。

これって、あえて挙げれば、って感じではないですね。まるで、親の仇みたい。

それに、虫の知らせはどうかって? うーん。

でも、畑を無農薬でやっていると、本当に虫は天敵です。てんとう虫みたいな益虫もいるじゃん、という人がいますが、あれだって害虫がいなければ単なる虫、用無しでしょう?

生物多様性という観点に矛盾してるじゃん、という声が聞こえてきそうですが、ボクは人の多様性には諸手を挙げて賛成しますが、生物すべてとなると、うーん。

たとえば、二十八(ニジュウヤ)ホシテントウ虫って知ってますか? ジャガイモの芽が出て葉っぱが何枚も繁り始めた頃、どこからともなく現れて、葉っぱを食い尽くしてしまいます。

5月になると、ボクの日課は二十八ホシテントウ虫を捕まえては潰すこと。毎朝、百匹くらいは潰しています。それが1ヶ月くらいは続くんですよ。げえーっ、でしょ。

少なくなったなと思って葉っぱの裏を見ると、メスの背中に乗っかったオスがツガイで。。。朝っぱらからそんな姿を目にするのも不幸極まりない悲劇ですが、虫の恋路の邪魔をして潰すのですからねぇ。それこそ、めでたくご昇天あそばせ。。。

この二十八ホシテントウ虫、ナス科の植物の葉を好むようで、ジャガイモの次には成長著しくなったトマトの葉、さらにナスの葉っぱへと移り、そのまま生かしておくと、7月くらいまで我が物顔に畑を荒し続ける可能性が高い害虫です。だから毎朝、せっせと百匹くらいは潰し続けないといけない。

こんな殺生がついて回るなんて知らなかったよー。

無農薬農業にトライしはじめた頃、この辛い作業をなんとか避けられないかと対策を求めてググりましたが、「テデトール」がいいと書いてありました。よし、それだ。というわけで農作業グッズを売っている店に行くと、そんなものはどこにも置いていません。店員に訊くと、、、

「あははは。それは、手でとる、ってことでしょう」だって。

翌日から、ボクの指の圧力は2倍に。思い知ったか、二十八ホシテントウ虫め。ちょっと、憎む相手が違う気がしますが、主原因は彼らですから。テデトールなんてふざけたことを書いた相手は、どこの誰かわからないSNSのはるか向こうにいる人だし。

ふう、長かった〜。嫌いなものをたった一つ挙げるだけでも、この長さ。恨みって、根が深ーい。

なぜ二十ハホシテントウ虫という名前がついたかというと、背中に背負った斑点が28くらいあるからだと言われています。数える気にもなれませんが、確かに2個でも7個でもなく、赤い背中いっぱいに黒い斑点を背負っています。

店の常連で生物多様性に熱心な友人がいますが、二十ハホシテントウ虫が葉っぱを食い荒らしている写真を見せたら、納得してくれました。

九条Tokyoのイベントでまだ実施していないものに、「店主の畑に行って野良作業を手伝ったあとBBQしよう」というのがあるのですが、春は無理ですね。二十ハホシテントウ虫を何匹も自分の手で潰したあと、バーベキューなんて気分にはなれないでしょ? もしかして、それが理由で無農薬野菜が嫌いになったら本末転倒というものです。

やるとしたら、もう一つの天敵、蚊がいなくなった晩秋ですね。里芋や菊芋を収穫した後、サツマイモで石焼き芋でもしましょう。もっとも、こう異常気象、記録にない××という天候が続くと、有機栽培と言うのは弱いですね。いや、ボクがものぐさなだけかもしれませんが。

というわけで、生物多様性というテーマは、ボクには重すぎます。せめて、ヒト多様性くらいに範囲をとどめておいてもらえないかなぁ。それだって、相当広い心で向かわないといけないのですから。

2つめは「待つ」こと。これは絶対できません。100%苦手です。

この間、九条Tokyoの山のぼり&山ごはん部の初歩きに出かけて、お昼を大豆など地場野菜の料理を出すブッフェレストランにしたのですが、4連休ということもあって大混雑。30分以上も待って、ようやくランチにありつけました。

超美味しかったのですが、どんなに美味しいレストランやラーメンだって、ボクには並んで食べる人の気持ちがわかりません。だから、ディズニーランドは鬼門です。えっ、あそこは食べ物屋ではないだろうって? うーん、待つって行動の象徴的存在かと。

何が一番こたえるって、誰も店に来ない時間。ただ、ひたすら待っている時間のむなしさ。ボクの残り少ない人生、時間の浪費以外の何物でもありません。コロナ騒動って、ほんと困りものですね。でも、前以上に待つことが多くなりました。

それに「待つ」ってことは、そこから動かないってこと。つまり、停滞です。変化を嫌う文明は滅びます。保守派っていうのは絶対いけない。東アフリカの樹上という楽園を捨てて、危険いっぱいの平地に降りた生物の末裔である人類にとって、新しい出会いを求める勇気と好奇心こそが空気であり、水だとボクは思うんです。馬でいえば、鼻先にぶら下がった人参? ちょっと違うか。。。

九条Tokyoでは、幸いにも(不幸にも?)、これまでお客様を並んで待たせたことはありません。いや一度、カウンター席がいっぱいで、入ってこられたお客様(こういう時だけ「様」扱いしますが)に、座敷でもよろしいですかと尋ねたことがあります。

「座敷で一人飲みなんて嫌よ」と帰って行かれ、もう二度と来てはくれないだろうと思っていたら、別の日に、再び一人で来てくださいました(どこまで「へりくだる」の?)。

「あー、あの時の」

「覚えていてくれたの?」

かろうじてでしたが、覚えていました。そりゃそうですね。自分が一番嫌なことを押し付けようとしたわけですから。断るとか、並べっていうのって自己矛盾ですよね。自分が一番嫌なことを強要するなんて。

彼女は北海道で、バーを切り盛りしていたそうです。訳あって、今は東京にいますが、近いうちに戻るとか。こうやって知り合った途端、別れの予感。どうしてこういうパターンが多いのか。でも、そのおかげで、奇跡を紡ぐこの連載が細々と続いているのですが。

それに、冷や汗ものですね。こちらは、にわかマスターですから。彼女から見れば、ホヤホヤの湯気が出ているかも。

その大先輩である彼女に言われました。

「結構、サマになってるわよ。味がある」

うーん。。。雰囲気ではなく、味? うまいこと、言いますね。以来、彼女はたまに来てくれます。ボクが最も緊張するお客様の一人です。

3つ目は、何にしましょう。あと1つだけ? うーん。

そうだ、「飛行機」だ。

えっ、ついさっき、変化や移動こそが人類を人類たらしめているものだと公言しておきながら。。。

でも、やっぱ、あんな大きなものが空を飛ぶのは…って非科学的なことではなく、降りたいとき、止まりたいとき、自由にできないってのが嫌なんです。

バスや電車だってそうだろうが、って反論はよく聞きますが、乗っている、自由を奪われている時間が違います。一度飛行機に乗ると、1時間以上、遠い海外だともっともっと、数えられないくらい長い時間、閉鎖的な空間に押し込められます。

しかも、乗る前に、どんだけ早く来いっていうの? 拘束時間が長すぎだよー。

そうか、ボクの飛行機嫌いは、拘束されること、つまり自由でないことが許せないってことだったんだ。だから、人権を無視する中国とかロシアが、あのトランプより嫌いだったんだ。

まだ海外からの往来があった頃、中国からの旅行客が友人を伴ってランチに来てくれました。聞けば、昔、留学していたと言います。

「その頃と、ずいぶん変わりましたか?」

「銀座とか築地の場外市場、浅草に行くと様変わりしているようですが、僕が留学していたこのへんは、あまり変わっていなくて嬉しいです」

流暢な日本語で答えた後、彼は日本語が通じない友人二人に通訳してくれました。

「中国人旅行客が増えて、迷惑していますか?」

「いや、そんなことはありません。それに、このあたりは、まだ中国人旅行客はあまり見かけませんよ」

「それはよかった。自分も中国人ですから変なことを言うようですが、ちょっと恥ずかしいです。でも、人口が日本の10倍以上いますから、大きな声で話さないと誰も聞いてくれないんです」

「そうか。。。前に、中国の旅行代理店の人と話した時、今はまだ中国人の20分の1くらいしか日本に旅行できないけど、それで年間1000万人近く。このまま平均所得が上がっていったら、あと十倍は日本に旅行に来ますが、この国は受け入れてくれるでしょうか、と訊かれたことがあります」

「それまでに、旅先のマナーを学ぶようになっていればいいのですが」

「いや、日本だって、つい30数年前は、フランスの美術館を駆け足で見て回るとか、NYのティファニーで大声を出して宝石を買い漁るとか言われていました」

「本当ですか?」

彼の他者を見て自分を見つめなおす気持ち、それって「共感力」ともいえます。同じ人間なのに多様性を認めず、人権を無視して抑圧する国を非難する前に、この国にもそういう気運が膨れ上がって来ていないか、我が同輩を恥じ入る中国人旅行客の姿に、ちょっと心配になりました。

そうか、今わかったよー。ここにこうして暇なとき書いているおかげで、ボクは不自由が嫌いだったんだと気づけたよ。note って、自分を見つめられる、いい機会じゃん、って、なんのこっちゃ。

というわけで、ボクの大嫌いなもの3つは、範囲を広げすぎているように思える生物多様性と、変化を嫌う保守性、自由を拘束するもの、でした。

えっ、虫と、待つことと、飛行機じゃないのって? 読みが甘い。もう1回、このシリーズを初めから読んでみることをおすすめします。

ええっ、そんなの大嫌いだって? ボクも4つ目に加えます。






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