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ヒップホップという、パラダイムシフト。

サンプリングの話をしよう。ここで言うサンプリングというのは、何かしらの音をサンプルとして抽出することだ。ファンクのレコードの中にあるスネアの音だったり、ジャズのトランペットの音だったり、ピアノのフレーズだったり、楽器ごとじゃなくても曲そのものの一部分を切り取ったりもする。レコードだけじゃない。川の水の音や、鍵がジャラジャラ鳴る音。とにかくサンプリングはあくまで手法の話なので、抽出する音は目的によって様々だ。ヒップホップのトラック制作において、サンプリングは多く用いられる。サンプラーと呼ばれる機材を使ってサンプルを抽出し、音を組み上げてトラックを作っていく。ヒップホップがサンプリングの対象とするのはレコードだ。全部がそうだとは言い切れないにしても、ヒップホップの発展を語る上で、レコードからのサンプリングが重要なファクターなのは確かだし、90年代なんかはレコードからのサンプリングによるトラック制作がヒップホップというゲームにおける主流であり、今でも名盤とされているクラシックが数多く生まれている。

ヒップホップは70年代、ニューヨークのブロンクス地区に住むジャマイカ系アメリカ人を中心とした貧困層たちによるブロック・パーティーがルーツだ。ざっくり言っちゃうと「金もない、やることもない、音楽でもかけて踊るしかねえべや!」ってのが始まりだ。そこでクール・ハークって人が、ファンクの曲のブレイクと呼ばれる間奏のめっちゃ盛り上がる部分を「ここだけ延々つないだら、一生盛り上がるんじゃね?」と考え、ターンテーブルを2台使って同じレコードのブレイク部分を延々つないだのが、のちにブレイクビーツとよばれる手法の発見であり、ヒップホップ誕生の瞬間だ。(1973年8月11日ウエストブロンクス、モーリスハイツ地区セジウィック通り1520番。これが正式なヒップホップの誕生日だとされている。)

だから、ヒップホップとレコードは切っても切り離せない。ヒップホップは誕生の瞬間からサンプリング的な発想を出発点としている。後の偉人たちがサンプラーを使ってトラックを制作していくのも至極当然な話だ。

僕は高校生の時にヒップホップを通じてサンプリングという概念と手法を知った。それまでJ-POPの延長線上で「なんかかっこいいな」くらいのノリでヒップホップを聴いていたが、僕はサンプリングという手法の存在を知ることでヒップホップというものが、それまで知っていた音楽とは全く異なる原理と概念を持っている文化であり、精神であり、態度であるということに気がついた。僕にとってはパラダイムシフトだった。なにか別の次元を発見したような感覚。僕はそこに圧倒的な風通しの良さと自由を感じた。中高一貫校の6年間変わることのない退屈な風景、勉強はできない、スポーツもできない、お金もない、もちろんモテない・・・「音楽でもかけて踊るしかねえべや!」の精神は鬱屈した高校生男子だった僕の魂を解放してくれた。

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