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① 2011年夏 (公園)

 太陽が照りつけアスファルトが黒光りしていた。そのアスファルトの端っこに少しだけある日陰を探しながら、青年は下を向いて歩いていた。
 真っ白な半袖シャツと制服のズボン姿。暗い表情で額には汗が滲んでいる。手に鞄と弁当袋を持っていたが、その道の先は学校ではなく公園だった。
 青年は閑静な住宅街の中にある公園に入っていった。公園の入口から少し離れたところにあるブランコには一組の親子が遊んでいた。
 「ママ!おちて!もっと!」
という小さな男の子の高い声に急かされ、大きな黒い帽子を被った母親がその子の背中を優しく押していた。
 青年はそんな親子の後ろ姿を見ながら、公園の奥にある東屋の方へ歩いていった。手に持っていた鞄と弁当袋を東屋のベンチに置き、イヤホンを耳につけて足を地面に付けたまま寝転がって目を瞑る。
 東屋は眩しい日差しを遮る大きな屋根があり、心地よい風が吹き抜けていた。

 無理やり家から出されたけど、学校なんか行きたくない。もう高校を卒業出来なくてもいいや。
 尾崎豊が歌ってたよな。
 『卒業して いったい何 わかるというのか?』

 青年が家を出るときに、母親が弁当を渡しながら強い口調で言った。
「とにかく、次の漢検!申し込んだから絶対に受けてよ!」青年は黙って家を出た。
「いってらっしゃい!気をつけてね!」
 母親は心配そうな表情で青年の後ろ姿を見送った。

 中学も高校も休んでばかりだったのに、今更何か資格をとれ。勉強しろ。って言われても。資格?そんなもの何の役に立つ?もうほっといて欲しい。

 青年は起き上がって、鞄からペットボトルを出すと一口飲んだ。
 ブランコで遊んでいた親子が手を繋いで公園から出ていくところだった。

 もう昼なのか?
 青年は弁当袋を見て表情を曇らせた。
 食べなかったら、きっとうるさいなぁ。
 青年は弁当を袋から出して立ち上がり、公園のトイレへ歩いて行って弁当の中身を捨てた。