ギリシア語で『ソクラテスの弁明』を読む (第一一章)

この記事ではプラトン『ソクラテスの弁明』を古典ギリシア語で読むための手助けとして、初歩的な復習も含めて一文ごと、一語一句すべての単語に細かく文法の説明をしていきます (不変化詞の繰りかえしは除いて)。今回は第一一章 (ステファヌス版の 24b–24c) を扱います。

使用した本文や参考文献については第一章の記事の冒頭に掲げてあるのでそちらをご覧ください。

第一一章 (24b–24c)

Περὶ μὲν οὖν ὧν οἱ πρῶτοί μου κατήγοροι κατηγόρουν αὕτη ἔστω ἱκανὴ ἀπολογία πρὸς ὑμᾶς· πρὸς δὲ Μέλητον τὸν ἀγαθὸν καὶ φιλόπολιν, ὥς φησι, καὶ τοὺς ὑστέρους μετὰ ταῦτα πειράσομαι ἀπολογήσασθαι. αὖθις γὰρ δή, ὥσπερ ἑτέρων τούτων ὄντων κατηγόρων, λάβωμεν αὖ τὴν τούτων ἀντωμοσίαν. ἔχει δέ πως ὧδε· Σωκράτη φησὶν ἀδικεῖν τούς τε νέους διαφθείροντα καὶ θεοὺς οὓς ἡ πόλις | νομίζει οὐ νομίζοντα, ἕτερα δὲ δαιμόνια καινά. τὸ μὲν δὴ ἔγκλημα τοιοῦτόν ἐστιν· τούτου δὲ τοῦ ἐγκλήματος ἓν ἕκαστον ἐξετάσωμεν.

Φησὶ γὰρ δὴ τοὺς νέους ἀδικεῖν με διαφθείροντα. ἐγὼ δέ γε, ὦ ἄνδρες Ἀθηναῖοι, ἀδικεῖν φημι Μέλητον, ὅτι σπουδῇ χαριεντίζεται, ῥᾳδίως εἰς ἀγῶνα καθιστὰς ἀνθρώπους, περὶ πραγμάτων προσποιούμενος σπουδάζειν καὶ κήδεσθαι ὧν οὐδὲν τούτῳ πώποτε ἐμέλησεν· ὡς δὲ τοῦτο οὕτως ἔχει, πειράσομαι καὶ ὑμῖν ἐπιδεῖξαι.

(1.1) Περὶ μὲν οὖν ὧν οἱ πρῶτοί μου κατήγοροι κατηγόρουν αὕτη ἔστω ἱκανὴ ἀπολογία πρὸς ὑμᾶς·

(直訳) さてここで、私の最初の告発者たちが私を訴えたところの事柄については、以上のようなことが諸君に対して十分な弁明であるとしよう。

περὶ … ὧν: 中複属。格の牽引:関係節の外側では περί に従い属格 ← 内側では κατηγόρουν の目的語の対格。
οἱ πρῶτοί … κατήγοροι: 男複主。
μου: 1 単属。κατήγοροι にかかる目的語的属格、あるいは κατηγόρουν の属格目的語を兼ねており、いずれにせよ訴える相手の人を表す属格。
κατηγόρουν: 未完能直 3 複 < κατ-ηγορέω「対格のことで属格の人を訴える」。
αὕτη: 女単主。ἱκανὴ ἀπολογία に一致。前章 (7) で見たように「これまで言ってきたような」の意の指示代名詞。
ἔστω: 現能命 3 単 < εἰμί。
ἱκανὴ ἀπολογία: 女単主 < ἱκανός「十分な」、ἀπολογία「弁明」。無冠詞なので主語ではないし、αὕτη によって限定されるのでもない (その場合は αὕτη ἡ ἀπολογία だから)。そこで αὕτη のほうを主語にとる。
πρὸς ὑμᾶς: 2 複対。

(1.2) πρὸς δὲ Μέλητον τὸν ἀγαθὸν καὶ φιλόπολιν, ὥς φησι, καὶ τοὺς ὑστέρους μετὰ ταῦτα πειράσομαι ἀπολογήσασθαι.

(直訳) そして優れたる愛国者——と彼は言って (=自称して) いるとおり——メレトスと、後者の (告発者) たちに対しては、このあとで弁明を試みるであろう。

πρὸς … Μέλητον τὸν ἀγαθὸν καὶ φιλόπολιν: 男単対。冠詞がついているので後ろの形容詞は Μέλητον を修飾するとわかる。φιλόπολις「ポリスを愛する、愛国的な」。
φησι: 現能直 3 単 < φημί「言う」。この動詞は εἰμί と同様に、現在の 2 単以外が後倚辞であってアクセントを失う。主語はメレトスなので、自称していることになる。
τοὺς ὑστέρους: 男複対 < ὕστερος「あとの、最後の」。ソクラテスは告訴人を 2 種類のグループに分けていたことを思い出そう (第二章)。
μετὰ ταῦτα: 中複対。
πειράσομαι: 未中直 1 単 < πειράω「試みる、努める」。念のため、母音融合動詞 (αω 型) の未来なのでこの ᾱ́ は長い (田中松平 §267; 水谷 §31)。
ἀπολογήσασθαι: アオ中不 < ἀπολογέομαι「弁明する」。

(2) αὖθις γὰρ δή, ὥσπερ ἑτέρων τούτων ὄντων κατηγόρων, λάβωμεν αὖ τὴν τούτων ἀντωμοσίαν.

(直訳) さてここでふたたび、彼らがべつの (一群の) 告発者たちであるとして、彼らの宣誓供述書をまた取りあげてみよう。

γὰρ: いわゆる説明の γάρ で、訳すとすれば「すなわち、ここで、たとえば」などと訳せる (Smyth §2808)。
δή: 強調の対象は αὖθις か γάρ か。Steadman は前者、田中と M&P は後者という。どちらも可能だが、αὖθις はすでに後続の αὖ との冗語法で十分強調されていてうるさいので、後者にとっておこうか。
ἑτέρων … κατηγόρων: 男複属。主語・動詞を挟んで分離しているが、この組で ὄντων の述語である。
τούτων: 男複属。独立属格句の主語。
ὄντων: 現能分・男複属。独立属格句の分詞。
λάβωμεν: アオ能接 1 複 < λαμβάνω。勧奨の接続法。
αὖ: 副「ふたたび」。文頭の αὖθις と意味が重複している冗語法であるが、dS&S によればほかにも αὖθις … πάλιν や πάλιν … αὖ などの形でプラトンにはきわめて頻出という。
τὴν … ἀντωμοσίαν: 女単対 < ἀντωμοσία「宣誓供述書」。
τούτων: 男複属。所有の属格。

(3) ἔχει δέ πως ὧδε· Σωκράτη φησὶν ἀδικεῖν τούς τε νέους διαφθείροντα καὶ θεοὺς οὓς ἡ πόλις νομίζει οὐ νομίζοντα, ἕτερα δὲ δαιμόνια καινά.

(直訳) それはいかにやら次のようなものである:それは言っている、ソクラテスは若者たちを堕落させ、ポリスが認めている神々を認めず、べつの新奇な神霊を (認めている) ので罪がある、と。

ἔχει: 現能直 3 単。例の be 動詞で訳せる ἔχω+副詞。
πως: 副「いかにか、どうやら」。アクセントがないので疑問副詞ではなく不定の意味である。ソクラテスは訴状から逐語的に正確な引用をしているわけではないことを示している。
ὧδε: 副「このように、次のように」。
Σωκράτη: 男単対。間接話法の対格不定法の主語。
φησὶν: 現能直 3 単 < φημί。ここでは主語は宣誓供述書ととったが、メレトスと考えるほうが自然かもしれない。後掲 (5) の同じ動詞にも同様のことが言える。このあたり各種の訳もまちまちで、「それ」と言ったり「彼」と言ったり、ひとつの訳本のなかでも一貫しないものもある。
ἀδικεῖν: 現能不 < ἀδικέω「不正をする、罪を犯す」。
τούς … νέους: 男複対。διαφθείροντα の目的語。
διαφθείροντα: 現能分・男単対 < διαφθείρω「台無しにする、腐敗させる」。
θεοὺς: 男複対。νομίζοντα の目的語。
οὓς: 男複対。先行詞は θεούς。νομίζει の目的語。
ἡ πόλις: 女単主。
νομίζει: 現能直 3 単 < νομίζω「みなす、考える、認める」。
οὐ νομίζοντα: 現能分・男単対 < νομίζω。
ἕτερα … δαιμόνια καινά: 中複対 < δαιμόνιον「神霊、神的存在」。νομίζοντα のもうひとつの目的語。

(4) τὸ μὲν δὴ ἔγκλημα τοιοῦτόν ἐστιν· τούτου δὲ τοῦ ἐγκλήματος ἓν ἕκαστον ἐξετάσωμεν.

(直訳) 訴状はといえばそんなようなものであるが、この訴状の 1 点 1 点を詳しく検討してみようではないか。

τὸ … ἔγκλημα: 中単主「訴え、訴追」。
τοιοῦτόν: 中単主。ἐστιν の述語。
ἐστιν: 現能直 3 単。
τούτου … τοῦ ἐγκλήματος: 中単属 < ἔγκλημα。
ἓν ἕκαστον: 中単対 < εἷς「1 つの」、ἕκαστος「それぞれの」。「各個それぞれを」の意。
ἐξετάσωμεν: アオ能接 1 複 < ἐξετάζω「詳しく吟味する」。勧奨の接続法。

(5) Φησὶ γὰρ δὴ τοὺς νέους ἀδικεῖν με διαφθείροντα.

(直訳) すなわちそれは、私が若者たちを堕落させているから罪がある、と言っている。

φησὶ: 現能直 3 単 < φημί。
τοὺς νέους: 男複対。διαφθείροντα の目的語。
ἀδικεῖν: 現能不。対格不定法の動詞。
με: 1 単対。対格不定法の主語。
διαφθείροντα: 現能分・男単対 < διαφθείρω。主語 με に一致。

(6.1) ἐγὼ δέ γε, ὦ ἄνδρες Ἀθηναῖοι, ἀδικεῖν φημι Μέλητον, ὅτι σπουδῇ χαριεντίζεται, ῥᾳδίως εἰς ἀγῶνα καθιστὰς ἀνθρώπους, περὶ πραγμάτων προσποιούμενος σπουδάζειν καὶ κήδεσθαι ὧν οὐδὲν τούτῳ πώποτε ἐμέλησεν·

(直訳) だが私のほうはといえば、アテナイ人諸君、メレトスこそ罪があるのだと私は言う。というのも彼はまじめにふざけているからだ、簡単に人々を訴訟に巻きこんでいながら、彼にとってこれまでまったく気がかりになったことのない事柄について真剣に懸念しているふりをしているのだから。

ἐγὼ: 1 単主。
ὦ ἄνδρες Ἀθηναῖοι: 男複呼。
ἀδικεῖν: 現能不。対格不定法の動詞。
φημι: 現能直 1 単。
Μέλητον: 男単対。対格不定法の主語。
σπουδῇ: 女単与 < σπουδή「性急さ;熱心さ」。ここでは仕方の与格で、副詞的に「急いで;真剣に、懸命に」と訳せる (チエシュコ 9§4.2.6)。
χαριεντίζεται: 現中直 3 単 < χαριεντίζομαι「ふざける」。
ῥᾳδίως: 副「容易に」。形容詞 ῥᾴδιος「容易な」の複数属格形の語末 ν を ς にすることで規則的に作られる副詞形 (田中松平 §523; 水谷 §71)。
εἰς ἀγῶνα: 男単対 < ἀγών「競技会;訴訟」。
καθιστὰς: 現能分・男単主 < καθ-ίστημι「置く、据える;〜の状態に置く、巻きこむ」。
ἀνθρώπους: 男複対。
περὶ πραγμάτων: 中複属 < πρᾶγμα。
προσποιούμενος: 現中分・男単主 < προσ-ποιέομαι「〜するふりをする」。
σπουδάζειν: 現能不 < σπουδάζω「急ぐ;熱心・真剣である」。
κήδεσθαι: 現中不 < κήδομαι「気にかける、心配する」。
ὧν: 中複属。先行詞 τούτων 省略。関係節内では ἐμέλησεν の属格目的語だが、外側では κήδεσθαι の属格目的語。
οὐδὲν: 中単対。副詞用法。内的対格と呼んでもよい。
τούτῳ: 男単与。指示対象はメレトス。
πώποτε: 副「いまだかつて、これまでに」。
ἐμέλησεν: アオ能直 3 単 (非人称) < μέλει「属格のことが与格の人にとって気がかりである」。

(6.2) ὡς δὲ τοῦτο οὕτως ἔχει, πειράσομαι καὶ ὑμῖν ἐπιδεῖξαι.

(直訳) それがそのようである (=いま言ったとおりである) ということを、私は諸君にも証明することを試みよう。

τοῦτο: 中単主。
οὕτως ἔχει: 副+現能直 3 単。例のもの。
πειράσομαι: 未中直 1 単 < πειράω。
ὑμῖν: 2 複与。
ἐπιδεῖξαι: アオ能不 < ἐπιδείκνυμι「見せる、指摘する」。


〔以上で第一一章は終わりです。〕

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