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【同人感想】『春荒らし』

僕ラブ37で頒布された、織日ちひろ先生の新刊『春荒らし』。
ゆうしずシリーズの第4作目ですね。

もう表紙が美術品なんよ

穏やかな春を煩く荒らす雨嵐。
不服なお家デートの中、純情な少女の体もまた、新たに芽生え気づかされた淫らな感情と仕打ちに荒らされていく……。そんなお話です。

織日先生といえば、私の新作小説『余命の方程式』の表紙を手がけてくださった方でもあります。

美術館に持ち込みたい

飴細工のように繊細で、思わず扱いに慎重になってしまいそうな絵柄の織日先生。
そんなある種の儚さを纏ってしずくちゃんが描かれるからこそ、今作中で侑ちゃんの手によって与えられる愛の躾の背徳さが際立っていました。

さて、冒頭で侑ちゃんが読んでいた台本は三島由紀夫『サド侯爵夫人』ですね。
戯曲なのですが、作中には女性しか登場しません。実際には出演しないサド侯爵を中心として複雑に絡み刺激し合う女性たちの感情に焦点を当てた作品。
言うなれば、『桐島、部活やめるってよ』みたいな感じです。
織日先生は前のゆうしずシリーズでもしずくちゃんの台本として、実在する作品が度々登場しますので、その作品についても知ると、臨場感がよりアップします。
しずくちゃんが好きな舞台や小説作品について深く掘り下げた同人って意外と少ないので、こうした細かな作り込みには頭が上がりません。

そろそろ中身の感想に移ります。
相変わらず濃密で激しい絡みが楽しめるのは言わずもがな、今回も織日先生のこだわり(だと勝手に思っている)〝揺れ〟の描写が秀逸でした。

性行為の際、ベッドであったり壁であったりが、二人の動きに共鳴して揺れるものですよね。それによって生じる軋む音や小物のぶつかり合う音は、なんともそそられるものです。
織日先生の漫画からは、そんな音が聞こえてくるんです。

前作『月海の果て』では、旅館の掛け軸が揺れるという一コマを挿入して、壁に手をつきながら突かれるしずくちゃんの揺れと音を演出していました。

今作ではそれがどのコマに当たるか、わかりますか?
もしお手元に本があれば、探してみてください。

答えは19Pのアロマキャンドルのコマですね。ベッドランプやアロマスティックも振動しています。

この一コマ、この一コマが肝心なんですよ。

二人の顔はおろか、肌の一片すら映っていないこの一コマにこそ、織日先生の匠の技が光っているのです。
ほうれん草のおひたしに、時々ゴマがふりかかってかかっているじゃないですか。
この一コマは、まさにそのゴマなんです。
主役は言わずもがなほうれん草ですが、そのゴマがないとどこか物足りない。ほとんどの場合、ありがたみとかを感じずにほうれん草と一緒に口に運んでしまうけれど、よく味わってみれば、そのゴマにどれほどの味が凝縮され、そしてほうれん草に必要不可欠化がわかる……そういう立ち位置の一コマなんです。

似たようなコマで、部屋の上部の一角だけにカメラを向けて、喘ぎや軋む音、粘着音のみを描写しているのも好きです。これがあるかどうかで、えっち度というものには雲泥の差が生まれると思っています。

最後のしずくちゃん、まさに私が見たかったしずくちゃんで心が躍りました。
全てを包み隠さなくなった恋人という関係。そこに発展したかと思いきや、やはりどこか掴みどころのない部分も垣間見える、そんな狡さに虜になってしまうんですよね、私たちは。
結局、我々はしずくちゃんの手の平という最上級の舞台で踊らされるオタクであるしかないのでしょう。

ゆうしず好き必見の一冊です。
ぜひお手に取ってみてください。

『春荒らし』委託リンク
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=1904715&adult_view=1

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