マトリョーシカ

「ねえかあちゃん、星が光っているよ」
キツネのぼうやは言いました。

「そうだなあ。ぼうは、一番星を見つけるのが得意だね」

その調子でウサギをとっ捕まえるのも早いといいんだけどね、と母ギツネは皮肉を言うのも忘れませんでした。

群青色の空に、ぼうっと一番星が浮かんでいました。

だんだんと、他の星々も見えてきました。
半透明の糸で、星々が神や動物の姿を映し出します。

「ほらねっ。あれでしょ、ウサギ座だよ」
キツネのぼうやは手を伸ばそうとしました。

そのとき、黄色と赤色の星々が、揺れました。金魚が水槽をたゆたうように、ゆっくりと。でも確実に。

「ハイ、今日のプラネタリウムはおしまい」

ニンゲンの子どもが、ライトのスイッチを切りました。その途端、空も星もウサギ座も、すべて消えてしまいました。

いるのは、天井を見上げるキツネの親子だけです。

「そろそろ電池が切れちゃいそうだな。
それにしても今回の実験は、光の強さをコントロールできるようにがんばったな。まるで本当の星空みたいだい」

子どもは天井に設置したプラネタリウムを、自慢げに見上げました。

「キツネちゃん、おやすみなさい。また明日のお楽しみにね」

ニンゲンの子どもは、外へ出かけていきました。自分はホンモノの星を観察しようと思って、張り切っているからです。

#小説 #寓話 #プラネタリウム #哲学

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