クリスマスが葬られますように

彼女はそろそろ行こっかと言った。
「うん」自分はビールを飲み干した。まだ少し、残っていたのだ。
別れを切り出すのは大抵彼女の方だ、それは当たり前だ。自分はいつまでも彼女といたいと思ってしまうのだから、じゃあねと永遠に言い出せない。

二人でレストランの階段を降りていく。彼女のヒールの音が愛おしい。六本木ではイルミネーションの光線が其処彼処を貫いている。空よりも密度の濃い蛍光の青と、雲より明確な白で彩られていた。そして鮮やかな赤の光線。

明日は来なくていい。クリスマスなんて来なければいい。彼女が妻子持ち男性とクリスマスデートをするなんて話、聞きたくなかった。彼女が避難所と呼ぶそうした男女関係を知って掻き回されずに済むほど、自分は寛容ではいられないのだ。
手が触れるほど近くを歩けたのに、彼女は大人びた表情で遠くを彷徨っているのだった。彼女は蜃気楼に似ていた。もっと、触れたくなった。掴めないと知っていても。あるいは、だからこそ。

#フィクション #ノンフィクション #失恋 #エッセイ

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