祖母

先週祖母が実家に来た。関西で一人暮らし。父の母だ。私はもう8年くらい私は会っていない。
本人の希望で関西にいたが、先日大怪我をして入院してから父がいよいよ放っておけなくなり、実家での同居を提案している。
私は母が介護することになるだろうと不安で、でも祖母が一人で暮らしていることも不安で、私にはすでに結婚して家庭があって、賛成も反対も難しかった。
実家に数日泊まって、関東での暮らしをちょっと体験させる"お試し"だったらしい。顔を見に行こうと一泊で私も帰宅した。祖母は耳が遠くなっていて、ただ、偏見かな? 関西の人だからとてもよく喋るし記憶もよくて、ボケている感じはなかったし、耳が遠い以外は私の知っている祖母だった。
耳が遠い人と接するのは私は初めてだった。大きな声を出して喋るけど、それでもなかなか聞こえないようだった。祖母が申し訳なさそうな顔をして、なんて言うてるのかようわからんわと言って、そしてその顔がいまも忘れられない。面白くて笑ったのではない、申し訳ないときに浮かべるあの微妙な笑顔だった。この人はきっと普段、私生活で、買い物で、外出で、電話で、耳が遠くなってからこういう顔をしてごめんねと申し訳なく謝る機会がたくさんあったんだ、それが身に付いてる表情だった。すごく胸が痛かった。今、自分が衰えていくことに向き合いながら、周囲の善意や悪意を受け取りながらこういう風に生活しているのかなと思ったら、目の前にいるのは綺麗事ではなく本物の弱者だった。関西の街中で一人で歩く祖母の姿が目に浮かんで、頼りなくて、それから駅や街中で高齢者を見付けるたびに、この人をいじめないで、嫌な顔をしないで、求められていないのに手助けをしないで、この人を置いていかないでと思うようになった。この人は私のおばあちゃんかもしれないからいじめないで。求められたら冷たくしないで。あんな顔をさせないで。正直街中で困っている高齢者に構っている時間がないほど若者だって困窮してるし忙しい、その気持ちも私にはあって苦しいが、でもあの人たちは私の祖母で、将来の私の父で、私の母なんだと思うともうだめだ。おばあちゃん。お母さん……。

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