田原坂【怪談】
私が学生時代に間接的にだが体験した、友人の心霊体験をふと思い出したので書いておきたい。
学生時代私は、クラスメイトが福岡から鹿児島、鹿児島から福岡への自転車旅行を夏休みに敢行したのに感化され、実家のある熊本への自転車帰省を思い付いた。
当時、博多駅付近に住んでいたので、実家までは単純計算で片道120kmの道のりがあった。
結論と言うかオチと言うか、先にお伝えしておくが、根性が無かった為に復路は思いっきり車を使用して博多まで帰っている。情けない事この上ないが、あんな起伏のある山道をまた行くのかと、大変尻込みしてしまったのである。
さて話は戻り、博多から熊本への旅がスタートしたのだが、諸々の計算違いが既にその時点で発生していた。手荷物の量、所持金、出発した時間が夕方等などが相まって、まぁ休める場所も金も無かったのだ。
大変あほである。
そんなこんなでなんとか玉名駅に到着した。
ここまでで100km程。夜の2時。最早足が棒、藁。お尻も痛ければ腕も痛い。それに半袖半ズボンで居るのもあるがとても寒い。
そして更に私はヘタレな事に、残りの20kmを諦め、友人を召喚する事に決めたのだ。
友人は車を持っていないので原付で来ると言っていたのだが、これは本当に申し訳ない。こんな夜更けにそんな遠いところまで。駄目だと分かってはいるが、牽引してもらう気満々で、友人の到着を待った。
ちょくちょく友人から連絡が来つつも、思ったより時間が掛かるなと思いながら待った深夜4時。
友人が到着した。
「おー、遅くなったな」
「いやいや、全然。来てくれて助かったわほんと」
等など会話し、さぁいざ行きましょうかとなった時、友人がぼそりと呟いた。
「……まぁ帰りは大丈夫だろ」
私がその言葉を聞き逃さず、出発する前にその真意を聞き出した。
友人がここに到着した時に「遅くなった」と言ったのは、確かに常套句ではあったのだろうが、それ以上のものがあった。
友人は玉名駅に向かう為にグーグルマップを使用していた。私は勿論使用した事があるし、皆さんも使用した事はあるだろう。だが、このマップ、時折変な道を通らせる事があった。一通の所を逆走させようとしたり、遠回りさせたり。今どれくらいの精度があるのか知らないので何とも言えないが、私の当時の感覚としてはそんな感じだった。
友人も私と同じ感覚だったそうだ。
熊本市内から玉名までは多少の右左折はあるものの、3号線から208号線に入っていけばほぼ真っ直ぐだ。
しかし、グーグルマップは左へ、左へと誘導し始めたらしい。真っ直ぐに行ける道でも左折を促される。
もしかしたら最短ルートを教えてくれているのかもと、誘導に従いながら進んでいった。
信号で停車し、ふと顔を上げて標識を見ると
【←田原坂】
となっていた。
グーグルマップも左へ行けと指し示していた。
これはきっとそういうやつか、と左折せずに直進したのだが、そのすぐ先の小道へと誘導されるし、更に先では右折を2回させられそうになったというのだ。
これでは駅まで着かないかもしれないと、案内を止めて、地図だけでなんとか来てくれたらしい。
そんな話を聞いて私は
「行ってみる?」
と冗談を言ってみたのだが、1人で行ってくれと断られた。勿論私にそんな勇気は無いので大人しく熊本市内へと帰ったのだった。
途中で田原坂へと案内されるかと内心期待していたのだが、そんな事はなく、空が白んでくる頃には市内に到着した。
それからファーストチェーン店で軽い朝食を取り、実家へ帰った。
もし案内に従っていたら何が起こったのかは知る由もないが、昼間でも心霊現象が起きる田原坂に、夜に行くのはあまりよろしくはないだろう。