溶ける、固まる

 久しぶりの小説執筆だった。空間と音楽と時間と道具が揃っていたから、感覚を思い出すのは早かった。作り上げたスタイル。ここには確かに反復の妙がある。自我は失せ、現れるのは「大きなもの」と言うべきものだ。自然と言葉は紡がれる。新しい物語になっていく。想像もしていない方向に。

 繰り返すほどに自他の境界はなめらかに薄まってゆく。対象と溶け合ってゆくのだろう。気持ちいい。これが日々繰り返されれば嬉しい。自分が広がっていく日々。自分ではない場所に届く時間の連なり。朝は他者とのダンスを舞える。贈り物のような時間。

 欠かせないのは自然。太陽、樹々、鳥。膜を溶かしてくれる力を持つものたち。私は私でないものから私になる。産まれるときだってそうだ。人の形でないところから始まるんだ。ぼんやりした光みたいなところから。水の中で。外に出ても繰り返すんだ。人を解いて、広がったものから仮の自分へと。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?