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【読書メモ】博士(心理学)が通俗心理学本を読む アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』

 配信からなんと2か月以上も経ってしまった。とはいえ、放置もよくないので記憶を頼りに読書メモを作ることとする。

 本書は新潮新書から出ているもので、相当売れたらしく続編となる書籍や、同じ著者による書籍が次々に出版されている。そんな「スマホ脳」ブームの嚆矢となった本書だが、結論から言えば、いつもの新潮新書のクオリティである。要するに、内容はなんとなく妥当っぽいし著者もいい加減な人物ではなさそうだが、様々な理由で全体的に質は低いと評価せざるを得ない、というものだ。

 なお、本シリーズの目次は『博士(心理学)が通俗心理学本を読む リクエスト募集と記事まとめ』から。ツッコミを入れてほしい通俗心理学本のリクエストも募集している。


書誌情報

 アンデシュ・ハンセン (2020). スマホ脳 新潮社

今回の通俗心理学本あるある

①専門分野が心理学じゃないがち

 著者のハンセンはスウェーデン出身の精神科医であり、ストックホルム商科大学でMBA (経営学修士) も取得している。どういう経歴だよというツッコミはさておき、少なくとも心理学の専門家ではない。

 ここで、精神科医なら専門家なのでは? と思う人がいるかもしれない。が、私としては、精神科医は心理学の専門家ではないと評価している。心理学と精神医学は似て非なるものだということもあるが、医者はそもそも科学者ではない。車の部品を作るエンジニアが物理学者ではないのと同じようなもので、職業における目的が違うために重視する側面も訓練する技能も違う、というだけの話だ。

 とはいえ、本書が非専門家によって書かれた適当な書籍である、という評価はフェアではない。そもそも、本書は心理学の書籍を名乗っているわけではなく、タイトルからもうかがえる通り脳科学を中心に論じた本である。一応、著者の専門性と内容は合致している。

 ちなみに、訳者の久山葉子によれば、著者は2000本もの論文を発表しているそうだ (p253)。やっぱりだめかもしれない。分野によって慣行は異なるし、医学には症例報告を論文として出版する文化があるらしいとはいえ、2000本はいくら何でもやりすぎである。著者は1974年生まれであり、本書が出版された2020年当時は46歳である。仮に論文を精力的に出版できるようになるのが25歳頃だとしても (日本なら博士課程の1年目くらいだ)、約20年で2000本、つまり1年に100本近く出版していることになる。4日に1本以上のペースだ。共著者として名前が入っているだけだとしても無理がある。著者が桁を間違えたか、スウェーデン医学界の研究倫理が崩壊しているかのどちらかとしか思えない。200本だったとしても多いが、ギリ不可能ではない。

②「○○大学の研究」って言いがち

 今回の「それ出典を記載したことになってないです」のコーナーだ。本書から見つかった用例はあまりにも多いので、ある程度抜粋して以下に示す。

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