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なぜ社会人だと学び直せるのか

私は今、社会人大学院生として神戸外大院に在籍しています。長期履修という便利な制度を使って、通常2年で修了するところを3年かけて論文の執筆までさせていただきました。この制度は今や日本の大学・大学院で広く利用されている制度のようです。

こういう社会人の学び直しというのはここ20年ほどでよく聞く言葉になったかと思います。一つには1990年代に政府が大学院重点化を進めたことが背景にあるかと思います。より多くの社会人が大学院に行く土壌ができてきたのもこの頃からという感じがします。

社会人大学院をやってみて思ったことを『社会人大学院生 入学前にしておきたいこと3選』というタイトルの動画にしてみましたので、もし良ければご覧ください。

一方で私はフリーランスとして通訳をしているので、色々な分野の通訳案件に触れる機会があります。今まで慣れ親しんできたビジネス通訳(社内通訳)のみならず、大学によるシンポジウムや公開イベントの通訳などもお声をかけていただけるようになり、非常に学びの多い毎日を過ごせています。

例えば今週は以下のようなイベントで同時通訳をさせていただく予定です。

ここではスタートアップ企業の話が出てくると思われますが、分野は少し理系寄りで、高校化学の基礎知識を持っていた方がより深く通訳できるだろうなと思います。こんな時、「ああ、学び直したいな」となるのです。

では社会人の学び直しと、いわゆる学生時代の学びは何が違うのでしょうか。

1. 入試が無い

一つには、入試が無いことが挙げられると思います。高校であれば大学入試を見据えた勉強をするはずなので、自ずと点を取るための学びとなり、知識が増えること自体に喜びを感じる余裕はあまりないのではないかと思います。新しい言葉や数式を学んだこと自体が素晴らしいのに、それをテストでどれだけ正確に再現できたかで競わされるとなると、学びの素晴らしさも半減してしまうというものではないでしょうか。

私は今でも大学入試の問題を解くことがあります。例えば今年の共通テスト倫理を解きました。解くと点数を出したくなるのが人間ですから、採点する。そして69/100点でした。こうなると「本を読んでこんな学びがあった」という学びの喜びは、69点という数字に掻き消されてしまうのです。

まだまだ足りないと思って勉強するのは良いことかもしれませんが、学問に最初に出会う時の出会い方が競争なので、学問の面白さを競争抜きで楽しめる環境というのは、やはり社会人になってからじゃないと本当の意味では味わえないのではないかと思ってしまいます。だから社会人は学び直せるのだと思います。

2. 仕事に直結する

社会人の学び直しは、仕事に直結することが多いのではないでしょうか。例えば化学の知識が仕事でいると思ったら、YouTubeでも見たり本でも読んだりして、基礎知識をつけたりできますが、そこには「この内容を理解していればよりよく通訳できる」という確信があります。この学びと仕事の相関が非常に強いのが、社会人の学び直しで見逃せない点だと思います。

一方、学校の学びでは「これはいつ役に立つの?」と思いながら勉強していた記憶があります。例えば世界史で産業革命について学んでも、それが人生のいつどうやって出てくるのか分かりません。

しかし今、気候変動関係の通訳をしていると「産業革命前と比べて○度気温が上昇したら・・・」という話が出てきます。産業革命が18世紀後半、イギリスで始まったという世界史の基礎知識を持っていれば、この通訳により深みが増しますし、自分でも訳していて「これだけ長いスパンで気候変動を考えているのだ」ということが実感できます。

このような理由から、社会人からの学び直しは多くの人が思っているよりハードルは低く、メリットも多いと感じています。大学院に入ろうと思っているけど悩んでいる方の背中を、少しでも押せるような文章になっていれば嬉しいです。


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