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くちびるの会のココロミとトリクミ その3 〜執筆サポート編〜  新体制、執筆サポートについて


はじめに


2024年2月22日 (木)〜2月27日(火)
下北沢OFF・OFFシアターにて
くちびるの会の第8弾『猛獣のくちづけ』を上演します。

本記事は、本公演の開幕に向けて、くちびるの会が行なっている、「試み」と「取り組み」について、紹介を行うものです。
記事の末尾に公演詳細と、助成金についての説明、サポートについての記述がございます。ぜひご一読下さい。

新体制、執筆サポートについて

今回の『猛獣のくちづけ』、情報公開がされてお気づきの方も多いかと思いますが、
「作・演出 山本タカ」
と共に
「執筆サポート:須貝 英」
というクレジットがございます。

もともと40分程度の短編であった『猛獣のくちづけ』をリライト長編化するにあたり、演劇ユニット「Mo’xtra」主宰であり、俳優・脚本家・演出家・ワークショップ講師の須貝英さんに執筆サポートという役割で参戦していただくことになりました。

須貝英さんのプロフィールは、演劇ユニット「Mo’xtra」のHPよりご覧になれます↓※外部リンク
https://moxtra-stage.com/sugaiei/

「執筆サポートってどういうこと?」と疑問に思う方もいらっしゃるかと思います。
端的に言ってしまえば、
「脚本家としての山本タカの相談役を担っていただいている」役割
だとご理解いただければ幸いです。

この記事では、前半は「執筆サポートをお願いするに至った経緯」、また「執筆サポートをお願いしたことで得られた効果」について、記述します。
後半は、「執筆サポートの体制を紹介しようと思いnoteの筆をとった意図」についても書いております。

僕としても、また須貝さんとしても、「執筆サポート」は初めての試みでして、手探りで進めている状態です。
ですが、現時点でこの体制は、非常に良い効果をもたらしていると僕自身、感じています。

次回の記事で、実際にどんなことをしていたか? それがどの様に、脚本・作劇に影響しているのか?等の細かいことを記事にしようと思います。
くちびるの会のココロミとトリクミ その4 〜執筆サポート編〜  実際、執筆サポートってどんなことしてるの?
の更新ををお待ちください。

前談

以前、ある海外劇作家による「日本人劇作家のためのオンラインワークショップ」を受けた際に、こんなことがありました。
海外劇作家は、ワークショップ冒頭に
「せっかく、こうして劇作家が集まったんだ、みんなが持っている悩みを話し合う時間を設けたい。友達になるといい。ちょっと僕は席を外すよ」
と言って、一時席を外したのです。
(オンラインワークショップでしたので、実際は、画面をオフして離席する行為です)

突如訪れた、劇作家同士で、悩みを相談し合う時間。
そこで出た悩みで一番多かったのは、
「書けないとき、どうするか?」
というものでした。

劇作家には往々にして「書けない」という状態に陥ることがあります。
(もちろん、多くの例外的な劇作家さんもいらっしゃいます。)

劇作家それぞれが独自の解決方法を話しました。
「散歩する」「寝る」「本を読む」「考えない時間を作る」など……。

「知り合いの劇作家に相談する」という方もいましたが、「実際的な脚本の相談というよりも、悩み相談程度」と仰っていたと記憶しています。

僕も多分に漏れず「書けない」ことの多い作家です。
僕の場合は、劇団でのオリジナル新作を描く場合は、半年から1年以上の時間をかけ、構想・執筆を行いますが、そのほとんど7~8割ぐらいが「書けない」時間です。

この「書けない」時間というのは、僕にとって非常に苦しい時間で、精神的にも疲弊し、ストレスがたまります。
もちろん、この「書けない」時間を楽しめる方もいらっしゃいます。
(執筆サポートをお願いしてから判明したことですが、なんと須貝さんは、「書けない時間」を楽しめる方でした。すごい。)

執筆サポートをお願いするに至った経緯

今回の「猛獣のくちづけ」は、2018年に初演を行ない、ある種「完成した」短編とも言えます。
もちろん、山本も意欲的な長編化プランを持って企画をしたのですが、どうしても筆が止まってしまうのです。

いま振り返ると、書けない時の僕の状態は、
「良いアイデアは思いつきはするものの、それを実際的に脚本上で成立させるまでのプロセスを想定した際に、いくつもの困難や障害、整合性のとれなさが目について、当初思いついていた良いアイデアに自信をなくし、書き進めることができない状態」
と言うのが、語弊の少ない言葉だと思います。

山本はこの「書けない」時間を一刻も早く解消したいと思い、須貝さんに連絡をいたしました。

もともと須貝さんとは、時折お茶をする仲でしたので、須貝さんが「脚本家をサポートする編集者的な役割に興味がある」ということは伺っていました。

実際に須貝さんとお会いし、1回相談して終わり、という様な関係ではなく、新たな執筆体制として「依頼時点から、脚本の完成までを伴走する形でサポートする役割」として公演に参加していただくことになりました。

こうして、新体制「執筆サポート」がスタートしました。

「執筆サポートをお願いしたことで得られた効果」

最も大きな効能は、
「執筆スピードの向上」です。
劇作上の困難、問題点、悩みを定期的に相談できる体制をとることで
まずは書き進め、打ち合わせで軌道修正を行う、ということが行いやすくなりました。
これにより執筆スピードが格段に向上したのは、最も大きな効能だったと思います。

加えて、「執筆サポートをお願いすることで得られた効果」を以下に3つほど挙げさせていただきます。

その①コミュニケーションによる多角的な気づき

僕は、舞台以外でも、映画・テレビドラマ・ラジオドラマなどの脚本も書いております。
その際は、脚本を依頼されている立場なので、プロデューサーと話し合い、打ち合わせながら、執筆を進めます。
A4一枚のラフプロット段階から話し合いを行い、アイデアや方向性を見定めながら、長編の脚本に仕上げていきます。
これらの仕事は、非常にサクサクと、楽しみながら書き上げることができるのです。

これらの経験から、特に僕は「誰かと話すことによって、気づきを得られる」ことの多いタイプの作家なのだと思います。

自分の構想しているアイデアを人に話すことで、自分のアイデアの「確かさ」を得ているのだと思います。
自分のアイデアを話す中で
「あれ、これ思ったほど自分の中で言語化できてないぞ」とか
「ん?話してみると、この展開や設定、すごくありきたりでつまらないぞ」など
気付くことが多いのです。

もちろん、相手の話した内容からヒントを得て、閃くことも多々あります。
今回、須貝さんと話すことで、様々な気づきを定期的に得られているのは、非常に大きな効能です。

また、須貝さんという「他者」が常に相談役にいてくれることで、多角的な視点から物語を捉えることができています。

自分が面白がっていることが、他人も面白いと思えるか
自分の描こうとしていることは、偏見や加害性を孕んではいないか

これらを逐次、修正しながら進めることができるのは、とても助かります。
ひとりで悩んでも答えの出ない問題を悶々と悩みつづけるより、他者に話すことで、はっきりと素早く結論を出すことができます。

コミュニケーションを重ねる執筆方法によって、より迅速に、正確な判断が可能になっていると思っています。

その②専門的なアドヴァイス

きっと多くの劇作家は、「脚本を書くには、思想が必要である」という言葉と同じくらい「脚本を書くには、技術が必要である」という言葉に賛同してくれると思います。

脚本を書くという行為は、技術(スキル)を必要とするものです。
それらは、経験によって独自に培われることもありますし、劇作のための本やワークショップ、講座など、外部から学ぶこともあります。

僕は、完全オリジナル作品を描き始めたのは、実は2017年、28歳のころでした。
(それまでは、原作を据えた作品を執筆したり、既製の文学作品のコラージュすることをメインに行う作家でした。)
2017年を期に、オリジナルを描き始め、同時に様々な本や映画、演劇で脚本の技術を学びました。

そのため、僕は脚本において、技術というものを非常に重要視しています。
しかし、深刻な「書けない」状態に陥ると、その技術を駆使することさえできなくなります。

須貝さんは、舞台芸術界で活躍されているプロの作家で、僕以上に脚本技術や、物語構造の様々な例、テクニックに精通されている方です。
専門的な見地からアドヴァイスをもらえることで、建設的な打ち合わせを行えております。

その③心理的な安心感

実は、最も大きな効果は、やはり劇作家としての心理的な安心感を得られたことです。
劇作家は、セリフを書き始める以前に様々なことを考えなければなりません。
時代設定から、状況設定、作品テーマの設定から、各人物のバックグラウンド、シーン構成……挙げ始めたらキリがありません。
これらを、すべてひとりで考えだし、かつ、その中で整合性を取りながら、面白い物語にする。
劇作家自身が言うのも憚られますが、やはり並大抵の所行じゃありません。

「それらを全て独りでこなさなければ」と気負いすぎると、精神的にも負のスパイラルに陥ってきます。

脚本を書く上で、僕の中では常に2つの思考が同居しています。
 楽観的な「これ面白いよ!」とアイデアを推進する思考
 悲観的な「本当にそれで良いのか!?」とアイデアを批判をする思考
です。
書けない状態は、後者(悲観的な批判をする)思考が強くなり、どんなアイデアも面白く感じなくなってしまいます。

まずは精神を整え、この楽観的と悲観的、2つのバランスをとることが重要でした。
孤独じゃない、相談できる相手がいる、ということは、僕の中の楽観性の回復につながりました。

「執筆サポート」を劇作体制のいち事例として

このnoteで、わざわざ声を大にしなくても、世の中には、既に「ドラマトゥルク」や「スクリプトドクター」、「ドラマドクター」という職能の方が存在します。
また、独自に「作家部」を有する劇団もありますし、劇作家の中にも「常に相談役がいる」という方も多いでしょう。
日本劇作家協会では、「改稿サポートするの輪(わ)」という、取り組みもされています。
そして「脚本を書く上で、他人に相談したくない」という方もいらっしゃると思います。

本記事は、脚本を書く上で「困っていない方」にとっては、一笑に付される記事かと思います。

ですが、もし脚本を書く上で「困っている方」、「もっと良い方法が欲しいと思っている方」は、この「執筆サポート」を、劇作体制のいち事例として、参考までに記事をご覧になっていただけましたら幸いです。

もし、孤独に悩む劇作家がいるのなら、この記事が、劇作家にとって新しい執筆体制をとるヒントになればと思います。

おわりに

さて以上で、
「くちびるの会のココロミとトリクミ その3 〜執筆サポート編〜  新体制、執筆サポートについて」
を終わります。

次回は、

「くちびるの会のココロミとトリクミ その4 〜執筆サポート編〜  実際、執筆サポートってどんなことしてるの?」

です。
本番まで時間のある限り、noteを更新しつづけようと思いますので、よろしければご覧ください。

文)山本タカ

※以下の文章は、毎記事末尾に記載させていただきます。

【🐊猛獣のくちづけ 公演情報🐊】


最新の情報は、公式HPをご覧ください!


第34回下北沢演劇祭参加作品

『猛獣のくちづけ』
2024年2月22日(木)〜2月27日(火)OFF・OFFシアター

あの『猛獣のくちづけ』が長編になってかえってきた!!
きっと誰かが待望の長編化!とりあえず、寂しがりやは全員集合!

作・演出|山本タカ

執筆サポート|須貝 英

出演|薄平広樹 菅宮我玖 倉島 聡 喜田裕也 近藤利紘 北澤小枝子

「猛獣のくちづけ」とは、2018年にくちびるの会が、仙台・東京の二都市で上演した、とっても変な40分の短編演劇。倉庫で働く派遣労働者の男の腰は悲鳴をあげるし、町では人がワニになる怪異が頻発する物語。

この変な演劇、初演上演後の反響は凄まじいものだった。「好きでしたよ、あのワニの芝居」と、作・演出の山本タカに、みんなが "こそっと” 伝えてくれた、くちびるの会の代表作品。

【くちびるの会第8弾『猛獣のくちづけ』が受けている助成について】

本公演は、以下から助成を受けております。

・日本芸術文化振興基会 日本芸術文化振興基金 令和5年度 現代舞台芸術創造普及活動 演劇分野
・公益財団法人 東京都歴史文化財団(アーツカウンシル東京) 令和5年度(2023)年度 第1期 東京芸術文化創造発信助成 カテゴリーⅠ 演劇分野
助成金の性質としての多少の違いはありますが、上記の2つはいずれも「公的助成」に位置付けられるものです。
もちろん、事業終了後は、各機関に報告書を提出し、様々な(助成金の使途や、助成金によって実現したこと、今後の課題など)を報告します。

しかし、公的機関から「公的助成」を受けている以上、助成金によって可能になった事は、公的機関のみへの報告にとどまらず、多くの方々にお知らせする必要があるのでは、と思い、noteの筆をとった次第です。

助成金に採択されることで、事前に収入として見込める金額が確保でき、それにより事業における様々な取り組みを行うことができます。
「くちびるの会のココロミとトリクミ」に記載されている内容は、これらの助成金によって実現されていることも多々ありますので、その点をご留意いただき、ご覧になっていただけましたら幸いです。

サポートのお願い

くちびるの会では、大人向けの劇場公演と共に、子ども向け演劇「紙おしばい」を創作しております。
「紙おしばい」は、コンパクトな道具料でどこへでも出張し、本格的な舞台芸術を体験できる演劇表現です。
子どもが舞台芸術に触れる機会格差の解消のために活動を行なっております。

紙お芝居については、公式HPをご覧ください↓

このnoteにお寄せいただいたサポートは、主にくちびるの会の

  • 大人向け公演のための試み、取り組み、創作資金

  • 子ども向け演劇「紙おしばい」のための試み、取り組み、創作資金

に充当させていただきます。
みなさまのサポートによって、公演単位の助成や、自己資本のみでは難しい試み、取り組みを行っていこうと考えております。

※サポートのためには、ノートへの会員登録が必要です。
※簡単な入力事項の入力とクレジットカードの登録をしていただければサポートが可能です。
※5分ほどのお時間で入力可能です。

舞台芸術界活性化のため、子どもの舞台芸術に触れる機会格差解消のため、未来の舞台芸術の担い手・観客の創出のため。

よろしければ、サポートのほど、よろしくお願いいたします。

◯noteへのサポートの仕方は、note公式ペルプページをご覧ください↓https://www.help-note.com/hc/ja/articles/360009035473-%E8%A8%98%E4%BA%8B%E3%82%92%E3%82%B5%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%99%E3%82%8B

◯noteへのサポートの仕方 動画説明(note公式ペルプページより)


いただいたサポートは、くちびるの会の活動(試み、取り組み、創作費用)に充当させていただきます。