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くちびるの会のココロミとトリクミ その4 〜執筆サポート編〜 実際、執筆サポートってどんなことしてるの?


はじめに

2024年2月22日 (木)〜2月27日(火)
下北沢OFF・OFFシアターにて
くちびるの会の第8弾『猛獣のくちづけ』を上演します。

本記事は、本公演の開幕に向けて、くちびるの会が行なっている、「試み」と「取り組み」について、紹介を行うものです。

記事の末尾に公演詳細と、助成金についての説明、サポートについての記述がございます。ぜひご一読下さい。

実際、執筆サポートってどんなことしてるの?


前回記事
「くちびるの会のココロミとトリクミ その3 〜執筆サポート編〜  新体制、執筆サポートについて」

では、「執筆サポートをお願いするに至った経緯」、また「執筆サポートをお願いしたことで得られた効果」について主に触れました。

今回の
「くちびるの会のココロミとトリクミ その4 〜執筆サポート編〜  実際、執筆サポートってどんなことしてるの?」
では、打ち合わせの中で、実際どの様に、プロット及び脚本ができているかについて、簡単な議事録形式でご覧いただこうと思います。

※本記事は、作品に関してのネタバレも含みますので、その点をご留意の上、ご覧になって下さいませ。

また、記事の後半では、執筆サポートを担う須貝 英さんからコメントも頂戴しております。どうぞ、ご覧ください。

第0回 〜で、何に困ってる?〜

須貝さんとの初打ち合わせ。都内のカフェで行いました。
「執筆サポート」という役割を依頼する側も、依頼される側も初めてでしたので、お互いの認識のすり合わせを行いました。

山本からは、「とにかく「書けない」状態を脱したいとこと。」そして、「一回限りの相談ではなく、脚本完成までのアシストをお願いしたいこと」を改めてごお話しました。

須貝さんとしても、「作家の孤独を救いたい」という思いを、かねてよりお持ちでしたので、とても前向きに話を聞いて下さいました。

また、須貝さんからは「まず、僕が入ったことで、タカくんの創造性が壊れることは絶対に防ぎたい。むしろタカくんの創造性を発揮する手伝いをすることを心がけたい」とのお話もいただきました。

執筆サポートと聞くと、劇作家をはじめ、この記事をご覧になっている方々の中には、「共同執筆的なことになるの?」「それって作家独自の個性が失われない?」とご心配なさる方もいらっしゃるかもしれません。

僕の創造性が壊れることは、僕はもちろんのこと、須貝さんにとっても本意ではありません。それに関しては、丁寧に認識をすり合わせました。

そして「で?何に困っている?」という話題の本題に移りました。

前回記事でも触れましたが、山本は

「良いアイデアは思いつきはするものの、それを実際的に脚本上で成立させるまでのプロセスを想定した際に、いくつもの困難や障害、整合性のとれなさが目について、当初思いついていた良いアイデアに自信をなくし、書き進めることができない状態」

でした。
上記の様な状態であることも、須貝さんと話す中で次第に整理されていき、言葉としてまとまりました。

また、これについても前回記事で触れましたが、山本の中には、
・楽観的な「これ面白いよ!」とアイデアを推進する思考 
・悲観的な「本当にそれで良いのか!?」とアイデアを批判をする思考
が常に同居している状態です。
この時点では、やはり悲観的で批判をする思考があまりに強く出過ぎている状態でした。

これらのことを踏まえ、「一度、やりたいと思っていることを箇条書きしよう!」という話に。
須貝さんは「アイデアを繋げ合わせるのは得意」とのことで、山本はアイデアを出し、須貝さんはアイデアを繋ぐ役割を、一度分担して担うことにしました。
こうして、次の打ち合わせ日程を決め、第0回目の打ち合わせは終わりました。

第1回 〜アイデア出しからプロットの方向性を決める〜

第0回の打ち合わせから約10日後、正式な第1回目の打ち合わせとなりました。

「人がワニになってしまったら、自分ならどうするか?」
「そのワニが増えていったとしたとしたら、世界はどうなるか?」
という観点から、山本は、玉石混淆のアイデアを出しました。

アイデアの中には、
「クロックスやラコステなど、ワニがロゴになっている会社の株価が暴落する」
などがありました。

これは実際に採用されなかったアイデアですが、どんな些末なアイデアでも書き留めて須貝さんと共有しました。

打ち合わせの焦点は、初演稿のその後、「ワニ化が進んだ世界」に絞られました。
これを便宜上、我々の間では【二幕】と呼ぶことにしました。
(そして、初演稿を【一幕】と呼ぶことにしました。)
アイデア出しのリストを交えて須貝さんと話す中で、

山本が
「二幕は、主人公である大貫が、家に帰れる様な展開にはしたくない」
「どんなに近距離でもいいので、旅をする様な内容にしたい」
「登場人物の、初稿とは違う側面を描きたい」

ということが、思考としてまとまってきました。
二幕の雰囲気が、ざっくりと「旅」に定まったことで、須貝さんから「ロードムービー」の大まかな鉄則を教えていただきました。

その鉄則に沿ったり、あえて裏切ったりするストーリー展開の例を、いくつか二人で出し合いました。

山本の頭の中で、2幕の前半部分がある程度形になったところで、1回目の打ち合わせ終了。
打ち合わせで有力になっているアイデアを、2幕前半のストーリーとしてつなげる作業に入りました。

第2回 〜概ねの方向性の決定と、テーマの掘り下げ〜

再び約10日後。2幕のストーリーをつなげてみたのは良いものの、2幕の後半(クライマックスに向かう流れ)で行き詰まりが起こりました。

物語は、クライマックスに向かうにしたがい、決定的なショーダウンを行うべく、出来事が積み重なっていかなければなりません。

第一回目の打ち合わせでアイデア出しからストーリーに繋げられる経験を経たことで、この第二回目の打ち合わせでは「どんなアイデアも、きちんと書けば成立させられる!」という自信が、山本の中で回復してきた時期でもありました。

この段階で、ひるがえって本作のテーマを改めて掘り下げる作業になりました。
主人公に付き纏う「孤独」の想念と、人々の「ワニ化」との関連。
「孤独」のみが、人が「ワニ」になる原因なのか。
「孤独」だけでは、人が「ワニ」になる理由には、ならないのではないか?

山本が当初描こうとしていたテーマを須貝さんと話し合う中で、付随して本作で描ける様々なサブテーマが作品の中に見出せてきました。
特に山本が気になった、もう一つのテーマ「生産性」を、サブテーマとして物語上で機能させることにし、第2回の打ち合わせは終了。

第3回 〜テーマのさらなる掘り下げと、人物の役割分担〜

再び約10日後。プロット自体は、大きく進行してはいないものの、前後の文脈から多岐にわたるストーリーを考えられるようになりました。
だいぶ作家としての思考、楽観性と悲観性がバランスをとれてきたことを感じます。

また、当初打ち合わせで出ていた「登場人物の、初稿とは違う側面を描きたい」ということについても、掘り下げました。

初演稿(長編の【一幕】に相当する箇所)では、各登場人物は、どの様なイメージを纏っているか、また新たな登場人物は、現在稿でどの様な印象を纏っているかを分析します。

そして、人物が再登場するとき、どの様な見た目、状態、目的を持っていると意外性があるか、説得力が増すか等、再びアイデア出しを行いながらストーリーに紐づけていきます。

また、各人物の動機の強さ、動機の種類などについても、細かく分析していきます。

この打ち合わせでは、前回時点で掘り下げた、もう一つのテーマ「生産性」をサブプロットとして走らせるだけでは、作品としては物足りないものになることに悩んでいました。

僕や須貝さんが、人生で悩んでいること、現在の社会に対して思っていること……

特に目的地を定めることなく話し、この作品の「さらなるテーマ」の可能性を模索することにし、次回の打ち合わせに持ち越すことにしました。

第4回 〜気になる点を相談し、初稿へ〜

再び約10日後。
だいぶプロットとして方向性が定まってきて、大きなストーリーラインは完成しつつありました。
プロットを整える際に、悩んでいる細かな点を、とにかく潰していきながら、初稿へ入る準備を行います。

また、前回打ち合わせ時点で出た、「さらなるテーマ」に関して、改めて須貝さんと話し合いました。

抽象的な議論を交わすうちに、山本の中で「さらなるテーマ」に対し「答えらしきもの」が出かかった時点で、打ち合わせは、あえて山本から打ち切りました。

これは、山本の感覚なのですが……
打ち合わせで、作品の「答えらしきもの」を喋ってしまうと、書いている時の新鮮味が薄れる、と言いますか、
作家として「書きながら見つけたい答え」であると、何かしらの直感が働きました。
また作家として、「初稿を最初に読む須貝さんを、びっくりさせたい」という思いもあったのです。

次回は初稿上がってからの打ち合わせをお願いしました。
ついに初稿に動き出します。

第5回 〜初稿完成、リライトの打ち合わせ〜

1月後。初稿を交えてリライト会議です。当初は2週間ほどで初稿をあげる予定だったのですが、一度山本がラフ稿というプロセスを踏んだために初稿脱稿が遅れました。

ラフ稿とは、初稿を書く前の、プロットよりさらに詰まったラフな初稿の様な状態の原稿です。
このラフ稿で、全体の流れや、初稿を書きながら解消していくべき問題をあぶり出します。
そしてラフ稿を元に、初稿を書いていきます。

初稿段階でも、微妙に辻褄が合っていないところ、また、言葉としてヒットしていないところ、あまり機能していない要素等……
書いていくうちに、気になる部分や、新たな問題点が出てきます。

山本は、初稿において、想定のページ数のほぼ1.5倍の量の原稿を書くようにしています。
90分の尺を目指すのだったら、約120分の原稿量を、初稿では書きます。

これは、無駄に長くしているわけではなく、丁寧なストーリーラインを心がけると、どうしても長く書いてしまう癖が、山本にはあるのです。
これは、山本自身の「心配性」な性格からくるものです。

言葉が過剰に説明的であったり、観客が想像力で補えるはずの部分を、必要以上に言葉で担保しようとしてしまいます。

この「1.5倍量初稿」は、非常に遠回りですが、必要なプロセスだと感じており、どんな脚本仕事においても山本は行っております。

原稿をどんどんカットし、台本をシェイプアップさせることで、密度の濃い、エキサイティングな物語になると信じています。
また、リライトを行う際に、焦点が「台本のカット」に集中することで、ストーリーの根幹を意識し直すことにもつながります。

そして、初稿を交えて、須貝さんとのリライト会議を重ねます。
大きな問題点を共有し、その解決方法を共有したのち、最初のシーンから細かくチェックしていきます。

・お互いが気になっていること
・山本の理想的通りには描けていないところ
・初稿を読んだ須貝さんから見て、観客に誤解やミスリードが起こりそうなところ
・俳優も行っている須貝さんから見て、現場で俳優と創作する上で、あらかじめ詰めておいた方が良い、状況のディテール

等々。
ひとつひとつトラブルシューティングしていきます。

稽古での読み合わせも参加

リライト作業を進めるうちに、須貝さんと「稽古場で、俳優が読んでいる感触も共有したい」という話になりました。

須貝さんとは、顔合わせ・読み合わせの稽古場にもいらっしゃっていただき、必要であれば随時、脚本の問題点を相談する体制を取らせていただくことにしました。

実須貝さんと打ち合わせる前に、書けない書けないとうんうん唸りながら、山本がひとりで捻り出し続けていたアイデアも、現在稿では反映されています。

書けない時間も、決して無駄ではありませんでした。
しかしやはり執筆サポートとしての須貝さんの存在が、「書き進めるぞ!」という精神的な推進力になったことは確かです。

また、須貝さんとの共同作業が、執筆を迅速に進める助けになったことは、特に強調しておきたい点でございます。

山本は、現場での俳優からの提案により、セリフを変えることも多いタイプの作・演出です。

さて、間も無く『猛獣のくちづけ』稽古開始です。

本番には、一体どんな物語になっているのでしょうか。
ぜひ、劇場にご覧にいらして下さい。

執筆サポート 須貝 英さんからのコメント

皆さま、はじめまして。須貝英と申します。脚本家・演出家・俳優・ワークショップ講師として活動させていただいております。

まず、この一連のnoteのように創作の過程や取り組みのコンセプトをここまで突っ込んで紹介してくれる試みが本当に稀で、かつ今の演劇界に必要なことだと思っているので、是非観劇のお供に読み続けていただきたいなと個人的には思っています。

「執筆サポート」という発想に至った経緯は山本さんとほぼ同じで、僕の場合は新国立劇場が主催して行った脚本家ワークショップでの経験が非常に大きいです。
詳細↓
https://www.nntt.jac.go.jp/play/playwrights_project/

その時に小川絵梨子さんが、「同世代・全国各地の劇作家が知遇を得たことで、このワークショップの目的のほとんどが達成されている」とおっしゃっていました。
その言葉通り、日本の劇作家は孤独な作業を強いられている側面があります(もちろん好んでその境遇に身を置く方もいらっしゃいます)。事実、参加者たちは「他の作家がどう書いているか知らない」、「困った時に相談できる相手がいない」、「どう書き直せばいいか分からない」、といった悩みを挙げていました。
その状況を目の当たりにした時に、劇作家をサポートする劇作家がいてもいいのではないか、劇作家と俳優(または演出家や他のスタッフ)の間に立って橋渡しをする人がいてもいいのではないか、と考えました。
以前自分が俳優として参加した現場で、書けなくなってしまった作家の方を実際にサポートした経験があったのも大きいと思います。

一番強く言いたいのは、たとえ誰かがサポートしたとしても、その劇作家の芸術性や作家性、価値や努力は否定されないということです(サポートの範囲に因りますが)。

追い詰められざるを得ない局面も当然訪れますが、不要に不当に追い詰められる必要はないと考えています。

須貝 英


おわりに

以上で、
「くちびるの会のココロミとトリクミ その4 〜執筆サポート編〜  実際、執筆サポートってどんなことしてるの?」
を終わります。

次回は、

「くちびるの会のココロミとトリクミ その5 〜観劇サポート編〜 各種観劇サポートと、チケット料金について」

です。
本番まで時間のある限り、noteを更新しつづけようと思いますので、よろしければご覧ください。

文)山本タカ

【🐊猛獣のくちづけ 公演情報🐊】


最新の情報は、公式HPをご覧ください!


第34回下北沢演劇祭参加作品

『猛獣のくちづけ』
2024年2月22日(木)〜2月27日(火)OFF・OFFシアター

あの『猛獣のくちづけ』が長編になってかえってきた!!
きっと誰かが待望の長編化!とりあえず、寂しがりやは全員集合!

作・演出|山本タカ

執筆サポート|須貝 英

出演|薄平広樹 菅宮我玖 倉島 聡 喜田裕也 近藤利紘 北澤小枝子

「猛獣のくちづけ」とは、2018年にくちびるの会が、仙台・東京の二都市で上演した、とっても変な40分の短編演劇。倉庫で働く派遣労働者の男の腰は悲鳴をあげるし、町では人がワニになる怪異が頻発する物語。

この変な演劇、初演上演後の反響は凄まじいものだった。「好きでしたよ、あのワニの芝居」と、作・演出の山本タカに、みんなが "こそっと” 伝えてくれた、くちびるの会の代表作品。

【くちびるの会第8弾『猛獣のくちづけ』が受けている助成について】

本公演は、以下から助成を受けております。

・日本芸術文化振興基会 日本芸術文化振興基金 令和5年度 現代舞台芸術創造普及活動 演劇分野
・公益財団法人 東京都歴史文化財団(アーツカウンシル東京) 令和5年度(2023)年度 第1期 東京芸術文化創造発信助成 カテゴリーⅠ 演劇分野
助成金の性質としての多少の違いはありますが、上記の2つはいずれも「公的助成」に位置付けられるものです。
もちろん、事業終了後は、各機関に報告書を提出し、様々な(助成金の使途や、助成金によって実現したこと、今後の課題など)を報告します。

しかし、公的機関から「公的助成」を受けている以上、助成金によって可能になった事は、公的機関のみへの報告にとどまらず、多くの方々にお知らせする必要があるのでは、と思い、noteの筆をとった次第です。

助成金に採択されることで、事前に収入として見込める金額が確保でき、それにより事業における様々な取り組みを行うことができます。
「くちびるの会のココロミとトリクミ」に記載されている内容は、これらの助成金によって実現されていることも多々ありますので、その点をご留意いただき、ご覧になっていただけましたら幸いです。

【⭐️サポートについて⭐️】

くちびるの会では、大人向けの劇場公演と共に、子ども向け演劇「紙おしばい」を創作しております。
「紙おしばい」は、コンパクトな道具料でどこへでも出張し、本格的な舞台芸術を体験できる演劇表現です。
子どもが舞台芸術に触れる機会格差の解消のために活動を行なっております。

紙お芝居については、公式HPをご覧ください↓

このnoteにお寄せいただいたサポートは、主にくちびるの会の

  • 大人向け公演のための試み、取り組み、創作資金

  • 子ども向け演劇「紙おしばい」のための試み、取り組み、創作資金

に充当させていただきます。
みなさまのサポートによって、公演単位の助成や、自己資本のみでは難しい試み、取り組みを行っていこうと考えております。

※サポートのためには、ノートへの会員登録が必要です。
※簡単な入力事項の入力とクレジットカードの登録をしていただければサポートが可能です。
※5分ほどのお時間で入力可能です。

舞台芸術界活性化のため、子どもの舞台芸術に触れる機会格差解消のため、未来の舞台芸術の担い手・観客の創出のため。

よろしければ、サポートのほど、よろしくお願いいたします。

◯noteへのサポートの仕方は、note公式ペルプページをご覧ください↓https://www.help-note.com/hc/ja/articles/360009035473-%E8%A8%98%E4%BA%8B%E3%82%92%E3%82%B5%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%99%E3%82%8B

◯noteへのサポートの仕方 動画説明(note公式ペルプページより)


いただいたサポートは、くちびるの会の活動(試み、取り組み、創作費用)に充当させていただきます。