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客席から見える景色⑦ ジェラードン

いちお笑いファンが、客席から芸人さんを見たときに覚えた感覚をエッセイ調で1000文字程度で書いていきます。

第七弾はジェラードンさん。


客席から見える景色⑦


まるいぐにゃぐにゃを手のひらで押して三角形を作る。不平不満とエゴと欺瞞、慢心が反発してくるけどできるだけ、できるだけやさしく三角形。時には殴ったり蹴ったりして、慌てて拾い上げたりする。軽く水分を馴染ませて、大胆なようで繊細に。私は薄手のカシミヤを腕まくりして、その工作に余念がない。きっと最初は何か大層な大義名分があったんだろうけど、いつの間にか私はこの作業に熱中しすぎていて目的と手段がごちゃまぜになってしまった。とにかく如何に集中できるか、如何に楽しめるか、畢竟どんなかたちの産物に為ろうとも関係がないのかもしれなかった。むしろ不格好であることすら、美しく面白く感じる。なにも知らない凡人は私を哀れむかもしれないが、それこそわたしにはまるきりどうでもいい話だ。私は工程を深く愛していて、誰も見たことのない三角形を作り上げたかった。両手の指を折り曲げて、三角形。道路標識の先っぽ、三角形。とんがり帽子、三角形。私たちは三角形を認識する、無意識に。理由や思考を介さず、私たちはあれもこれもそれも三角形。月は丸だけど、星は三角。誰にも教わっていないのに魂の共通認識なんだって。私たちは生まれる前に本当の三角形を見たことがあるから、今生の歪な三角形たちを見てもキチンと分類できるんだって。それならば、その本物を作り上げるのが、私だって良いはずだ。過去現在未来をつなぐ完全無欠の三角形。それはきっとあたたかく穏やかで、誰もを包み込んでくれるだろう。皆んながそれを真実の光として選び、貴び、まあ附随する栄誉や称賛も悪くはないかもしれない。

才能はバックビートにして、気が狂ってしまったかのように、捏ねる。最初神さまが人間を造った時もこんな気分だっただろう。丁寧に丁寧に、されどそれを決して気取られないよう。運命を練り込んだ偶然を。どうしようもなく高揚して、火が出るほど緊張している。震える手に血液は適量でいいんだ。ひとかけら、嘘みたいな本当の心があれば。拡げたキャンバスに散らばったピースは元のかたちを思い出す。不貞寝していた根性を叩き起こし、気に入らなかったら、もう一度。私には、私たちには、その時間が赦されている。

ほらとおく窓の向こうから夜汽車の笛が聞こえるね。最後にマフラーを巻いてあげる。

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