見出し画像

客席から見える景色③ さらば青春の光

いちお笑いファンが、客席から芸人さんを見たときに覚えた感覚をエッセイ調で1000文字程度で書いていきます。
第三弾はまたまた大好きなさらば青春の光さん。


客席から見える景色③ さらば青春の光


小さい頃は弱きを救けるヒーローに憧れた。彼らはお決まりのライダースーツを羽織って、どんな困難も苦悩も容易く解決してしまう。その努力と友情によって。喝采や羨望を受けるのはどれだけ心地よいだろうと思った。だけどいつの日か、自分の器を知った。矮小で狡猾で独善的な、どこまでも嫌な奴。そういう人間性に気付いた。中野の路地裏で煙草を喫って、世間に毒を吐くくらいがお似合いだって。そのくせ芯からの悪人にもなれない、変なおべんちゃらが得意な人間になってしまった。何事も極端が格好いいのに、私はまごうことなくダサい人間だった。気づいてしまったが最後、私は更に卑屈になって、分かる人だけ分かればいいよ、なんて誤魔化しを宣うようになった。私の中途半端な悪意は煙の線になって夜空へ伸びて、一つの星も見えない夜空は真っ黒い緞帳で覆われているかのようだ。たとえ幕が開いてショーが始まれど、私の出番なんて無いと知っている。世の中には私じゃない人間が多すぎる。その多すぎる人たちを思うと、いつも苦くて憂鬱だった。
やるせない。やるせないね。ホントはあるべきはずの螺子が外れてて、変な方向にねじ曲がっちまってる。右向け右の合図で右を向く、そんな常識感を持ってる自分が嫌いだ。ありふれた悲劇の映画で泣いちゃうような、どっちつかずの自分が嫌いだ。そうこうしているうちに時間だけが山手線に飛び乗って、グルグル。馬鹿らしいよな、こんな一本道は。進んだら戻れない、ゴールテープが「死」だなんて。やってられるかよ。
昨日降った雨の名残りが陽炎を揺らしている。これ幸いと煙草の火を消して、でもやっぱりもう一本喫おう。生臭いはきだめの臭いを嗅いで、そこそこ嫌な気持になりながら。忘れられない夏なんて無えよ。去年も来年も同じだろうよ。女だって男だって皆んな同じさ。私だけが省かれている。私だけが青信号で立ち止まって、寂しく点滅するのを立ち往生しながら黙りこくっている。誰か分かってくれよ。この私の、裡なる弱さ。決して声には出さないけれど。本当はすごく寂しがり屋みたい。
私は煙草を喫うのは、肺を汚してくれるから。ヤニでしゃがれた声なら、大切な人に大切なことを伝えずに済むから。愛を語らずに終われるから。真に深い部分、暗いへどろの牢獄。仕方がないから、私は好んでそこへ入ったふりをする。そして私に課せられた罪科が少しでも重いとなお良い。たった一人、自ら望んだ孤高。どうせ私の高尚な内側なんて誰も理解できないんだから。なんてね、嘘だよ。これからも一緒に居てよ。悲しいかな、こういうことも言えちゃうよ。歪んじゃってるの。

もし本当に余裕があれば、良いな〜と思って頂ければ、サポートして頂けるととても陳謝です…