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商標見本における「白色」は何色か?(商標法第5条6項について)

商標権に関する裁判例(知財高裁令和3年4月21日判決)で、面白い事案がありましたのでご紹介いたします。
この事件(判決全文はこちら)では、控訴人(原審被告)は、両当事者の商標が非類似である一つの根拠として、色彩の違いは類否判断に大きく影響するのだ、と主張していました(両当事者の商標はページ下部にてご確認ください)。
具体的には、被控訴人(原審原告)の登録商標の十字の部分と外周の部分は、「白」であるのに対して、控訴人の標章の対応する部分は銀と黒であることを基に非類似であると主張しました。
この点について、知財高裁は、色彩の違いは類否判断において大きく影響しないことを前提として類否判断を行い両商標は類似であると判断しました。
ところで、本当に控訴人の登録商標の十字部分や外周部分は「白色」だったのでしょうか。

実は、少しマイナーな条文ですが、出願に関して商標法には5条6項という規定が存在します。この条文は、願書の商標記載欄(白色)と同じ色彩の部分は、その商標の一部ではないとみなされるということを規定しています。ただし、出願人は商標記載欄と同じ色(白色)であると指定することもでき、この場合には白色という色彩も商標を構成することになります(詳細はこちら)。

本件被控訴人の登録商標の公報を見ても、色彩に関する記載はありません(マドプロの国際公報上も白色であるとはされていません)。
そうすると、本件被控訴人の登録商標の白色で表示されている部分は、何色でもないということになります(色彩が商標を構成しないだけで、十字部分や外周部分自体は商標を構成する要素になってはいます)。
以上を前提にすると、控訴人標章の外周部分や十字部分が何色であったとしても、この部分の色彩は類似性の判断に影響してこないため、事案として色彩から非類似ということがかなり難しい事案であったといえます。

ポカリスエットやコカ・コーラなどの商品の商標や、フェイスブックや楽天といった企業のロゴ商標などのように、白抜き部分のある商標の出願をする際には、当該部分を願書の商標記載欄と同色(白色)として、当該部分の色彩も商標に含めるかも検討したほうが良いでしょう(何も記載しないと、公報での表示上は白色であっても、商標としては、白色は構成要素でないことになってしまいます)。

一般論として、モノクロでの出願をしていても、カラーでの出願をしていても、色違いの商標を自社で使用することは差し支えないので(商標法70条1項、25条)、あまり問題となることありません。これと同様に白抜き部分を、願書商標記載欄と同色(白色)と指定していない場合で、当該部分を着色したロゴを使用しても同様に問題になることはあまりないと考えられます(商標法70条1項類推適用)。

もっとも、本判決の事案のように、白色部分を商標として構成しないことで、類似の範囲を広くし得る場合もあれば、逆に、白色と指定しておくことで、ロゴの文字や図柄からは類似とまではいえなくても、色彩の配色も考慮すると類似であるといえる場合もありうるように思われます。
以上のような観点からも商標出願を検討してみると、より適切な商標の取得の一助になるように思われます。

(文責:山田康太)


各当事者の標章(前記裁判所webページより引用)

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