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それってパクリじゃないですか?第4話

それってパクリじゃないですか?』の第4話が放送されましたので、このnoteでも取り上げたいと思います。

今回は、北脇に親会社から送り込まれたスパイである疑惑がかけられる中、亜季は、ムーンナイトプロジェクトで使用する「ツキヨン」に関する商標出願を任されることになりました。
この「ツキヨン」とは、縄文土器に描かれている模様をベースに描かれたキャラクターで、縄文土器マニアのインフルエンサーである「ドキドキ土器子」によって、一種のブーム(?)にもなっているようです。

商標法においては、自分で創作した名称やデザインでなくても商標法3条や4条等の規定に反しない限り、商標として出願して原則としては差し支えありません。ただし、特に、デザインについては実際の使用の場面で著作権侵害となる可能性もあります。そのため、外部のデザイナーにロゴ・デザイン等の制作を委託する場合には、きちんと権利関係を移転しておくことは勿論、第三者の著作権等の知的財産権を侵害しないように配慮しておくことが重要です。
なお、国旗や赤十字だったり、他人の氏名であったり、必ずしも登録することができない標章も存在しているので注意が必要です(商標法4条1項各号参照)。

今回のストーリーでは特に取り上げられていなかったように思いますが、商標出願をする前にも、第3話で取り上げられていた特許調査のような商標調査を行う必要があります。
すなわち、商標権侵害となる場合は、他人の登録商標と類似する標章を、当該商標の指定商品または指定役務と類似する商品・役務に使用するケースなので、当該商標調査では、出願人が商標を使用しようとする商品、あるいはサービスについて、類似する商品役務を指定する類似する商標がないか確認していくことになります。
この類否の問題については、第2話の記事の中で説明しておりますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。

亜季は、せっかく商標出願のための願書を完成させたものの、親会社が「ツキヨン」を使用したビジネスを展開するということで、ストップがかかってしまいました。
亜季は、取り扱う商品が異なるので棲み分けは可能であるとして、親会社の広報担当者の説得を試みていました。なお、作中で、商標の区分が異なるので、抵触は回避できるとの話があったかと思いますが、前にも触れたとおり、厳密には指定商品(役務)の抵触がないかを検討することが重要です。すなわち、異なる区分でも、同じ類似群コードが用いられる例がありますので、注意が必要となります。
例えば、アクセサリーや貴金属等の商品が中心となっている第14類の「宝石箱」という商品の類似群コードとしては「20A01」が振られていますが、家具等の商品が中心になっている第20類の「机」という商品にも、「20A01」の類似群コードが振られており、これらの商品は類似する商品であると推定されます。

結局は、北脇からのアシストもあり、月夜野ドリンクとその親会社はコラボレーションをするなどして、両者にとってwin-winな方向で展開していくという方針に決定しました。
親会社が、茶等の商品についてもツキヨンの商標登録を得て、月夜野ドリンクにライセンスするということも考えられますが、今回は亜季が出願を行っており、少なくとも月夜野ドリンクが欲する商品・役務については、月夜野ドリンクが出願人=商標権者となりそうです。
この日の夜までには出願の準備が完了していたようなので、共存契約などの「調整」も行ったのだと思います。そして、北脇が作成した出願書類を亜季が確認し、いよいよオンラインでの出願を行うというところまできていました。

この頃、「ツキヨン」を流行らせたインフルエンサーのドキドキ土器子は、このツキヨンの商標登録について、多数の問合せを受けて、ドキドキ土器子(あるいは一般の方々)が今後「ツキヨン」を使用することができなくなってしまうのではないか、という懸念を抱いておりました。そして、ライバル会社である、ハッピースマイルビバレッジも、「ツキヨン」の商標登録を狙っていました。
仮に、無事にお茶について、「ツキヨン」の商標登録が完了した場合、ドキドキ土器子が、動画の中で「ツキヨン」の商標を使用することについては、基本的に問題は無いというのはその通りなのですが、たとえば、ドキドキ土器子が「ツキヨン」を使用したオリジナルグッズ(例えば、ツキヨンティーといったお茶など)を発売したいということになった場合には、ドキドキ土器子は、月夜野ドリンクの商標権を侵害すること可能性が高いことになります。その意味で、月夜野ドリンクは、一定の範囲でツキヨンという名称を独占できることになります。
亜季は、ドキドキ土器子の話を聞いて、このまま出願をすることを躊躇し、この日に出願をしない意思を固めていました。そして、北脇にも、出願を待つよう強く訴えたところ、結局北脇も折れ、月夜野ドリンクはこの日に出願をしないことになりました。

商標出願は、オンラインで行うことが可能なので、深夜に行うことも可能です。北脇は、ドキドキ土器子から商標についての問合せが多く来ていると来ていたので、出願を当日中に行いたいと考えていたのだと思います。何度か出てきている「先願主義」の下、他社の出願の可能性も高いことから、一日でも早く出願するべきとの考えです。
実際に、ハッピースマイルビバレッジの出願が、この日に行われていたので、月夜野が翌日に商標出願をしても、ハッピースマイルビバレッジの出願があることにより、登録は拒絶されていたことになります。なお、余談ですが、万が一、同日に出願していた場合に、協議等を経ても一人の出願に決定できない場合には、くじにより出願人が決定されます。くじの詳細について気になる方は、こちらの商標審査便覧の該当箇所もご覧ください。くじは2人以上の立会人が必要であり、公開の場で、くじ引き器(厳密には、回転型抽選機、いわゆるガラガラポン)を使って行われることとされています。

(先願)
第八条 
 同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について同日に二以上の商標登録出願があつたときは、商標登録出願人の協議により定めた一の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。
 第二項の協議が成立せず、又は前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは、特許庁長官が行う公正な方法によるくじにより定めた一の商標登録出願人のみが商標登録を受けることができる。

商標法

この「同日出願」や「先願主義」について若干補足したいと思います。
ドラマ中で、先願主義に関する説明として「早い者勝ちの陣取り合戦」というような説明が何度かありましたね。
ここでいう出願同士の先後を判断するのは「時」や「分」単位などではなく、「日」単位です。同じ「日」に2以上の出願があったときは、「同日出願」ということで、同じタイミングでしたよ、という扱いになります。「この商標を出願したのは私の方が10分早かったはずだ」というような争いにはならないわけです。
この場合、上記のとおり、出願人間での協議をまず行って、協議が整えば、協議に基づいて1人のみが権利を得ることができます。協議が整わない場合ですが、商標登録出願の場合は、上記のとおり、くじ引きで決めることになっているものの、特許出願や意匠登録出願の場合は、残念ながら誰も権利を得られないことになります。

ところで、第1話で特許の「新規性」という話も出ていましたが、この新規性の判断における「出願前」という文脈では、先後関係は、「日」ではなく「時・分・秒」まで考慮します。
たとえば、特許を出願した日と、刊行物の発行日とが同じ日であった場合、刊行物の発行の時間が具体的に特定できるようであれば、その刊行物が先行技術文献に該当し得ることになります。他方で、発行の具体的な時間が明らかではない場合には、先行技術文献とは扱われないことになります(詳細が気になる方は、こちらの審査基準の4ページも参考になると思います。)

さて、本第4話では、結果として、ハッピースマイルによるツキヨンの商標出願は、世間からの批判により、炎上してしまい、亜季が出願を止めたのはファインプレーとなりました(社運をかけたプロジェクトのキーとなる要素を、独断でやめてしまうのは問題かとは思いますが。)。

当事務所のnoteでも、こうした騒動について解説しておりますので是非ご覧ください。例外的なケースにはなりますが、実際に出願を行う際には、商標出願を契機として、炎上やトラブルが起きてしまう可能性があることには留意することが必要です。

ハッピースマイルの社長が火消しのための会見で「誰かに独占されないために出願した」という内容の説明を行っていましたね。私はこれを見て、昔、大分県が「おんせん県」を商標登録出願して群馬県と揉めた際に、大分県の担当者が、「営利目的の第三者に取得されてしまうのを防ぐために行ったものだ」という旨を説明していたことを思い出しました。また、アマビエの騒動でも、電通が同様の説明をしていたように記憶しています。

今回亜季は、このような騒動になることを見越しているわけではないものとは思いますが、SNSなどが普及する中で、どういったことが問題になりうるかについて多角的な視点で検討すべきかもしれません。

なお、商標出願はいうまでもなく、商標権を取得するために行う行為ですが、ハッピースマイルの社長が言うように、結果として「ツキヨン」はみんなのもの(炎上の恐れがあるため、だれも権利化を望まないもの)となりました。
これと似たケースで前述のゆっくり茶番劇に関するドワンゴの対応が注目に値するので紹介いたします。ドワンゴは、「ゆっくり実況」(商標願2022-058347号)や「ゆっくり解説」(商願2022-058347号)等について、第41類の「インターネットを利用した映像又は動画の提供」等を指定役務として商標出願を行い、「特許庁が商標登録を拒絶すれば、誰も商標登録を取得できないことが明らかになります」とリリースしています。また、仮に登録されても、ドワンゴが権利行使することはないとも明言しています。
こちらは結果として、特許庁に識別力を欠くことを理由に拒絶されており、何人も自由に使用することができる商標であることが確認されています(識別力がないことが明らかになっているので、該当の商品役務との関係で権利化することができません)。
こういった炎上事例に限らず、企業が、識別力があるか判断に迷った際には、拒絶前提で出願してしまうことで、取得できればそれはそれでよいし、もし、取得できなくても他の第三者が商標権を取得してしまうことを防止できるというメリットがあり、これも一つの有効な商標戦略となります。
なお、名称の使用可能性を検討する際、識別力があるかどうか判断に迷ったときには、当該名称、あるいは類似の名称が識別力が無いとして拒絶された例がないか調査することも有用ということになります。
少しでも参考になりますと幸いです。

文責:鈴木佑一郎山田康太


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