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それってパクリじゃないですか?第3話

それってパクリじゃないですか?』の第3話が放送されましたので、引き続きこのnoteでも取り上げたいと思います。

今回は、月夜野ドリンクが製品化を目指している、空気に触れていくうちに、色彩と味が変わる「カメレオンティー」、そして、有機野菜と果物に牛乳を掛け合わせた新作スムージー飲料について他社特許と抵触しないかが問題となっていました。亜季は、北脇から、「カメレオンティー」の特許出願にあたり、特許権に関する侵害予防調査を任されることになりました。一方、新作スムージー飲料については、事前に特許権侵害の問題が無いことが確認されていましたが、亜季が、開発者である柚木から、スムージーの製造方法に改良(低温スチームでの下処理で甘みが増すようになる)を施したと聞いたことを思い出し、新製法について「J-PlatPat」で検索をかけたところ、他者の特許権(以下「本件特許権」といいます)と抵触してしまう可能性が出てきました・・・。
特許権が保護する対象は、「発明」ですが、発明は目で見ることができません。このように特許権を含む知的財産権は、無体財産権ともいわれるように形のないものについての権利です。例えば、土地や建物であれば、どこからどこまで権利の対象である所有権の対象となるのかがわかりやすいです。しかしながら、特許権の対象となる発明については、目で見ることはできず、言葉のみで表現するしかありません。
特許法においては、特許権の対象となる権利の範囲(特許発明の技術的範囲といいます)は、「願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」とされています(特許法70条1項)。この特許請求の範囲は、「クレーム」と呼ばれることも多く、特許の技術的範囲を明らかにすることクレーム解釈と呼んだりもします。
そして、クレーム解釈にあたっては、「・・・明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈する」とされています(同条2項)。明細書には、発明の詳細な説明が書かれており、発明の技術分野、その発明が解決しようとする課題、および発明が課題をどのように解決するかといった事項が記載されています。
そのため、自社の発明や技術等が他社特許権に抵触するかを調査するためには、他社特許権の特許請求の範囲及び明細書を読み込んで自社の発明・技術が、他社特許権の範囲に含まれないか検討していくことになります。
本件特許権のクレームは以下のような内容となっていました。
低温スチームによる保存をした野菜と果実、および乳成分を混合したものである請求項7記載のスムージーの製造方法。

特許権の対象となる発明には、「物」の発明、「方法」の発明、及び「物を生産する方法」の発明の3つの分類があります。
本件特許権は、クレームに「・・・製造方法」という記載があり、これによりスムージーを製造することが可能ですので「物を生産する方法」の発明であることが分かります。
そして、「物を生産する方法」の発明については、当該方法を使用するほか、当該方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為が実施行為となる(特許法2条3項3号)ので、月夜野ドリンクが、当該方法を使用することも権利侵害になりますし、これにより製造した製品を販売することもまた権利侵害となります。
当該特許発明の技術的範囲に含まれるか判断するにあたっては、分説をしながら構成要件を明確にしたうえで対照するとわかりやすいです。すなわち、構成要件をすべて充足すれば、特許権を侵害することになりますし、一つでも充足しなければ、原則として非侵害ということになります。
例えば今回では、
A:低温スチームによる保存をした野菜と
B:果実、
C:および乳成分
D:を混合したものである請求項7記載のスムージーの製造方法
と分けることができます。
最終的には、野菜を生産している農家の方から「ライスミルク」を出してもらった柚木は、牛乳の代わりに、ライスミルクを使用することを思いつきました。これにより、Cの構成要件、すなわち乳成分を含まないこととなり、本件特許権との抵触を回避することができたといえます。
それでは、特許権侵害を回避するためには、構成要件の一部を同等の機能を有する別のものに入れ替えてしまえば良いと思うかもしれません。確かに特許権者以外の人は、特許権を侵害しないように調査を行い、当該特許権を文言上侵害しない態様で製造販売等の実施行為を行っている以上、そのような行為は許容されるべきかもしれません。
とはいえ、権利者としては、せっかく発明を行い、出願までして特許権を取得しているので、ちょっとした変更を施しただけで、自社と同じような効用を発揮する製品が販売されては、わざわざ発明の内容を世の中に公表してまで特許権を取得する意味がありません。また、第1話でもあったようには、特許権は早い者勝ち(先願主義)ということもあり、特許権者が出願時点で、ありとあらゆる構成をクレームに記載することは困難ということもあります。一方で、特許権者以外の者については、発明の本質的でない部分を入れ替えているにすぎない場合、他者の特許の効用にただ乗りしているに過ぎないとみることもでき、必ずしも保護されるべきとはいえないとも考えられます。
そこで、判例は、文言上侵害しない場合であっても、侵害が成立する「均等論」という理論により、(均等)侵害とすることを認めています。均等論が成立する要件は、以下のとおりです。
(1)侵害訴訟の相手方の製造する製品等(以下「対象製品」といいます)と異なる部分が特許発明の本質的部分ではなく
(2)対象製品と異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
(3)このように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」といいます)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
(4)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、
(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない

詳細については、本件特許権にかかる明細書の記載等を読み込む必要があるものの、発明の本質的部分が、「低温スチーム保存」をすること(これによりおいしさが向上すること)にあり、そのような置換をすることが製造時点で容易であったとすると、仮に柚木が開発したスムージーが採用されて製品化されても、均等侵害の主張がなされていたかもしれません。
今回は特許権侵害の可能性について取り扱ったストーリーで、実務的にも難しく面白い部分ですので、非常に興味深く視聴できました。次回は、商標出願の場面に関するお話のようなので、こちらもとても楽しみです。

文責:山田康太
 

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