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【書評】『公務員犯罪比較研究上における「三つの官僚制モデル」 ―「私」的中国官僚制、「公私衝突」的米国官僚制、「公私融和」的日本官僚制―』

文献:『公務員犯罪比較研究上における「三つの官僚制モデル」―「私」的 
中国官僚制、「公私衝突」的米国官僚制、「公私融和」的日本官僚制―』(日本評論社/一橋論叢/1996年)
著者:王雲海

1.本書選択理由

 官僚の働き方ということについて、海外における官僚制と日本の官僚制を比較し、その違いを検討しようと考えたため。

2.内容

 本論文では、中米日の3か国における官僚制組織について、「公・私・組織体としてのもの(立場、視点、意識等)」という3つの視点からそれぞれの比較を行っている。 その結果、それぞれ中国では「私」、米国では「公私衝突」、日本では「公私融和」が各国の官僚制の特質であるとしている。

2-1.「私」的中国官僚制 

 これまで中国においては、政治家も官僚もすべて「任命制」であり、両者は未分離の常態であった。1990年代にはそれらを是正するための条例も制定されたが、実質的には機能しておらず、官僚は組織内部でも私的原理によって行動しているといえる。また、法律等で定めた上下・左右関係がそのまま浸透しておらず逆転現象が起こることもしばしばである。任用についても「任人唯親(親しいものだけを幹部に任用)」という現象が起こっており、このような状況下で任用されるためにも、中国の官僚たちは私的・人間関係を基準として行動している。全体として官僚は「組織的な」というよりも「個人的、人格的な」存在であるといえる。

2-2.「公私衝突」的米国官僚制

 米国の官僚制の歴史は、スポイル・システム(政治的要素)とメリット・システム(官僚的要素)の争いであるともいえるほど、政治的要素と官僚的要素の性格の相対する2側面の間で揺れ動いている。そのため米国の公務員自体も政治職とメリット・システムによって任用された終身職の2種類で構成されている。ここでの終身職の公務員は政治的要素と無縁であるかというとそうではなく、大統領による公務員の政治化(政治的忠誠度審査等)などで政治的要素とのかかわりを余儀なくされており、現在でもこれが一つの問題とみなされている。 また、米国では民尊官卑の風潮が強く、「官僚」というものに対してマイナス的なイメージがついて回ることが多い。そのため、優秀な人材の獲得がしばしば困難になる。そして組織の上級ポスト任用には政治的要素が大きく影響するため、官僚たちは自らの地位向上のため大統領や利益団体などへの従属を示す必要がある。

2-3.「公私融和」的日本官僚制

 日本官僚制での職務執行の基準・根拠とされるものには合法的に制定された公的・公開的法規が主となっているが、それに加えて官僚組織体あるいは、その上層部だけが分かる「官僚なり」の非公開的慣例・慣習 (ハク付け人事や新人採用時の東大卒偏重的慣例)が多く含まれている。このように行動基準・根拠として公的なものがあるだけでなく、個々の官僚の私的利益も充分取り入れられ組織もそれを認めているということができる。 また、日本官僚制における階級的秩序・序列的関係も、公的な上下関係のみではなく非公式(私的)な上下関係も存在していることから、公的な側面に不文的な「御決まり」を含めた「公私融和」的にものになっているといえる。公私の融和に見られるように、組織が官僚個人の利益を組織体の中に取り入れているが、それらの利益を全ての官僚が享受できるわけではない。そのため、官僚たちは個々の利益のために組織への忠誠・服従を示すようになり組織としても高度な内部的な一体性が生まれているといえる。

3.批判・感想など

 今回の論文は公務員の犯罪研究の立場からのものであったが、日本と他国の公務員の行動様式の違いを知ることができたと感じた。日本の官僚制の行動基準として組織(公)の中に個人の利益(私)が含まれているというのが、日本の官僚制に弊害をもたらしているようにも読み取れるので、どうしたらそのようなことを解消できるのかという視点で、他の国の官僚制構造もみていきたい。

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