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セントルシアに思いを馳せた日曜日

一文字も書けなかった日。そんな日のことも覚えていたい。
これは、私の私のための日記です。

娘の「保育園お休みだから、パン屋さんいこうね」で目覚め、パン屋からの公園という朝活をまっとう。以降、室内での砂遊びやおままごとの付き添い、その他家事に勤しんだ。そして、友人家族が自宅へ遊びにきてくれた、そんな土曜日。

夫が料理長とはいえ、2歳3歳5歳の様子を見守りながら調理の補助や片付けをしていたことで、夜身体が動かなくなった。疲労は、突然やってくる。これはいかんと、最低限のレスポンスを返し泥のように眠った。

起きたら8時前。家はしんとしていて、夫も娘も疲れていたと実感する。3人で「昨日は楽しかったね」と振り返りながら、ゆっくりと朝ごはんを食べた。私たちはいつも同じ朝食を摂る。白ごはんに納豆、卵焼き、味噌汁。ときどき、ピエトロドレッシングをかけた葉野菜。

娘はしきりに「また遊びに来てくれるからね」と私たちを励ます。お友だちと、また遊びたいから。可愛い子。食事を終え、洗濯など衣類周りをしているうちに、夫がキッチンを片付けてくれていた。平日ひとりでやっている家事が半分になること、とてもありがたい。

そして、夫と娘はそそくさと着替え出かけていった。「ママも行こうよ」と言っていた娘も、気分を切り替えて「いってきまーす」。私が、美容院に行く日だから。夫が目をつけていた大きな公園の大きな滑り台は、娘にとっては大きすぎて怖くて、結局滑らなかったみたいだけど。

顔を整えた私も、少し遅れて家を出た。低血圧で、朝から動くだけでめまいがする。「これはやばいかも」と思いながら、駅まで歩く。そこまで暑くないけど、じめっとしていて息苦しい。でも、今日はひとり。休憩しても大丈夫。

駅のベンチで休んだ。30代でこんな調子じゃ、40代にはどうなっているのだろう。恐ろしい。落ち着いたころに来た電車に乗り込み、目的地へ向かう。会社を辞め乗らなくなると、不思議と電車が恋しくなった。移動中が読書時間だったから、本を読む量も自ずと減った。

ファン・ボルム『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』を、パラパラと読む。カフェや居酒屋で働きたいと思ったことはないけれど、本屋で働きたい願望はある。そんな私は、この物語にときめく。カフェや居酒屋と違って、本屋では誰もが自分と対話しているように思える。

没頭していると、目的地に着いた。美容院に着くころには少し雨が降っていて、道中の風景も店がまえも変わらないのに、髪型の変わった美容師さんが待ってくれていた。何年もお世話になっている方。とにかくドライヤーですぐ乾く髪型にしてほしいと注文した。私の合理主義を理解してくれていて、テキパキと髪をすいていく。

近況報告や、いまの仕事の話など他愛のない話をした。このあとお気に入りの古着屋のポップアップを見にいって、ついでに美味しいものを食べると言うと、全力で「いいね」と言ってくれる。迷ったけどパソコンは持ってこなかったと言うと、全力で「そうしてください」とも。

私をよく知る人たちは、私の「加減のなさ」に引いている節がある。「頑張れよ」じゃなくて「ほどほどに」と言われることの方が多いから、周りから見た私は猪みたいなものなんだろう。以前「鬼滅の刃キャラ診断」をしたときは、猪突猛進がキーワードの「嘴平伊之助」だったし。自分をセーブする術を身につけなければならないな。

「いかにもおしゃれとしてのショートカット」私は、ここのところ抱えていたネガティブな気分を髪の毛と一緒に美容院に落とせたようだ。次来るときは、どんな気分だろう。きっとまたすっきりしたくなるだろうなと思いながら、百貨店で開催中のポップアップに向かう。

かつて阪急神戸線沿いに住んでいたとき、何度か訪れたお店。購入した古着は、いまも大事にしているものばかり。久しぶりに見たラインナップも、すごく良かった。ただ、今の自分に何が似合うのかてんでわからないというのが正直なところで、見るだけで終わった。

百貨店の中のカフェで炭水化物・タンパク質・食物繊維がバランス良く摂れるプレートランチを食べて、帰省用のお土産を買う。お土産は、相手の好みや珍しさなどを考慮して選ぶ、気遣いの総合力が試されるテスト。東京の店だけど、美味しそうでバラエティ豊かな焼菓子を購入。Sポイントの残高を見て、何に使おうかと想像するのも楽しい。

そして、自由になった。まだ時間はある。駅ビルの地下で、渋い喫茶店に入るか。はたまた、流行りの洗練されたカフェか。「いまの自分にどんな服が似合うのか」がわからない私には「いまの自分がドンピシャで食べたいスイーツ」もよくわからない。

とにかく彷徨った。まずは3番街でフルーツパーラーのパフェの値段を確認。今月頑張ったら食べようと思っている桃パフェは2000円もする。牛乳感を押し出しているソフトクリーム屋は、それなりに並んでいる。台湾スイーツにも心惹かれるが、そこまでではない。和食屋のわらび餅パフェ…?誰か背中を押してくれ。

結局地上に出る。古びた喫茶店は煙草が気になる。おしゃれな喫茶店には、食べたいものがない。今日納得のいくスイーツに辿り着くなんて無理では。茶屋町のクレープ屋の前を通り過ぎたときに諦めがよぎる。良い運動にはなっていると自分に言い聞かせ、本屋に足を向けた。

途端、その店が視界に入ってきた。チョコレート専門店「ホテルショコラ」。メニューを見てみると、パフェがある。セントルシア島のパフェ?セントルシアを検索すると、大阪から30時間以上かかるカリブ海の小国らしい。「私、ここから30時間以上かかる場所にトリップできるの?」モチベーションが高まり入店。

席が空いていたことも、私の背中を強烈に押してくれた。あれよあれよとセントルシア島のパフェを片手に落ち着く。一方の手で本の続きを読みながら、パフェをつついた。美味しい。チョコレートとマンゴーソースがからみあって、甘さの中にしっかり爽やかさを感じる。ところどころにバナナも潜んでいて、ここは南国だ。

ありがとうセントルシア

自分勝手に貪欲に、糖分を追いかけ本だけに向き合う時間。食べ終えたころには「そろそろ娘の顔が見たいな」「夫にパフェを自慢しよう」。気持ちが自宅に向き始めていた。帰ったら、夫と娘が駅前でソフトクリームを食べていた。やっぱり、私たちは寝食をともにする家族なんだ。

3人でうちに帰り、夫は飲み会へ。娘とふたりでシャワー、夜ご飯、遊びのルーティン。自分のペースで過ごせる時間があれば、誰かのペースにとことん付き合えるようになる。彼女が目をこすりはじめたのを合図に、一緒に布団でゴロゴロした。「ママだいしゅきだよ」私が喜ぶから言ってくれてるのかな?意味わかってるのかな?どっちだっていいよ嬉しい。

そして、珍しく22時に帰宅した夫。「早いね」と言うと「みんな、自分の奥さんに気を遣って早く帰った」と。周りが独身のときは、独身と歩幅を合わせていた夫。そのまま、家族を大事にする仲間と歩幅を合わせていてくれと願う。どうしても、人は付き合う人間に影響されるものだから。

いくら時間が経っても、思いやりや信頼関係を築き続ける努力は必要。過去は変えられないから、今できることをやるしかない。ここ最近のモヤモヤに蓋をして、蓋をしたこと自体忘れられたらいいなと思いはじめた。夢を見ずに、ぐっすり寝られるといい。本を閉じて電気を消す。

ふと、セントルシアの夢だったら見たいと思った。もちろん、見れなかったけど。

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