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僕が日本を代表する大企業と仕事をした話(1)

一個人のマンガ家が日本を代表する
企業の仕事をしたら、どんなことになるのか


はじめに

漫画家が出版社からの依頼があってマンガを描く。かつて、それは漫画家の仕事としては普通のことだった、というか、ほぼそれしかなかった。出版社から仕事の依頼。内容の打ち合わせ。ネームの制作、担当のチェック。OKが出たらペンを入れて仕上げる。原稿を渡して、出版。いたってシンプルだった。

それが、今や(ネットの普及に伴い)多様化。世間のマンガ需要も変化し、かつてのように雑誌や書籍でマンガの仕事をしている作家だけが「プロの漫画家」と言われていた時代は終わったようだ。自称プロも乱立していることについては、いろいろと思うことも無くはないけど、それは置いておく。ともかく漫画家も対応相手が出版社だけじゃなくなったことで臨機応変、仕事スタイルも変えて行かなきゃいけない時代で、皆さん上手にやっているんだと思う。

例えば広告漫画という分野は昔からあるけど、スポンサーは会社や企業であって、それに対応するのは、やはり会社組織(フリーの作家を集めたプロダクション)だったりするのが普通だったと思う。そういった場合は、漫画家が直接、企業の担当者と打ち合わせることはなく、具体的な仕事となってからのマンガ制作作業になるので、ある意味、楽なんだと思う。逆に言うと、一個人の漫画家が企業と仕事をするのって、なかなか簡単ではないということだ。


* * *


日本を代表する企業『TOYOTA』の仕事

今から20年近くも前のことだ。雑誌でしかマンガの仕事をしたことのない漫画家のボクに日本を代表する企業からマンガの依頼があった。その企業とは、愛知県に本社を構える日本を代表する大企業『 TOYOTA 』である。その仕事を引きう受けたボクは、それをきっかけに10年以上にも渡ってトヨタの社内冊子で4コママンガの連載を続けることになる。

そして、その4コママンガの制作過程は、
非常に独特なスタイルだった(と思う)
それを紹介しようと思ったのが、
この記事を書こうと思ったきっかけだった。

そもそも、トヨタの社内冊子に4コママンガを10年以上も連載するなんてことを経験したマンガ家は他にいないと思うので、そいういう意味でも記事を書く意味があるのかなって(笑)


* * *


始まりは、やっぱりボクの4コマ漫画からだった

当時、ボクは学研の学習雑誌『5年の学習』でギャル小学生の4コママンガ『ギャル系 小学生ミカ』の連載をしていた(人気もあって連載は数年続いた)その連載中だったか(連載終了直後だったかな?)学研編集部からトヨタがスポンサーとなる連載マンガ企画の依頼があった。

なんでも『ギャル系 小学生ミカ』が、トヨタ本社の広報部の女子社員に人気があったそうで、それが理由でボクに名指しで依頼が来たらしい。(当時『5年の学習』にはトヨタの広告が入っていて、その関係でトヨタ広報部内でボクのマンガが読まれていたそうだ)

IMG_2499 のコピー

↑これが『ギャル系小学生ミカ』を連載していた「5年の学習」
ご覧のように雑誌の表紙も飾ってます


そして、ボクは軽い気持ちで、その依頼を引き受けたんだけど…


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かつてない強烈なダメ出しを喰らう!

TOYOTAがマンガ企画のスポンサーといっても、仕事としてはボクがそれまでやってきたマンガの仕事と大きな違いはなかった。なぜって、その仕事自体は『出版社から依頼された雑誌のマンガ連載』であり、打ち合わせをする相手は雑誌の編集者さんだったから。

ただ一つ違うところといえば、従来ならばマンガ内容は編集部の確認のみで決定できるが、その仕事に関してはスポンサーであるTOYOTAサイドの確認も必要だったこと。そして、その確認は広告代理店を通して行うということだった。

依頼されたのは当然「クルマに因んだマンガ」

クルマの最新情報をマンガの中に入れ込むことで、未来のお客様になるであろう子供達に「クルマの楽しさ」をマンガで面白く伝えるというもの。特に設定やキャラクターに縛りは無く、連載終了後、作品はクルマに関する冊子にまとめられて(「クルマまるわかりブック」という冊子)全国の小学校に配布等されたりする、というものだった。

ボクは、この仕事が自作の『ギャル系 小学生ミカ』のマンガ(かなり好き勝手に自由に描いてる)を気に入っての依頼だということを聞いていたので(『ギャル系 小学生ミカ』は結構なクセのあるインパクトのあるマンガだった)自分らしさを全開にして大丈夫だと判断。

そして「はいはい・ハイウェイ」なる
赤ちゃんのドライバー(笑)を
主人公にしたマンガの企画を考えた。

ボクは設定をまとめた企画案を連載する5G(5年の学習)の担当編集者さんに見せ、内容的にOKをもらった後、第一回目のネーム(下書きラフ)も描き上げた。(漫画のスタイルはストーリーギャグ)多少、試行錯誤はしたものの自分なりに満足のいくネームは問題なく編集部からもOKをもらった。

あとは広告代理店を通してのトヨタサイドの確認だけ。
そう、問題なく確認をもらってから
ペン入れ作業に入る予定…であったのだが…


* * *


「とんでもない!これは トヨタさんに
見せることすら出来ません!!!」

それが広告代理店の担当さんからの編集部への返事だったそうだ。当時は『企業のコンプライアンス』について、その企業に直接、関わっていない限りは、それほど意識していなかったような気がする。少なくとも僕の周りは、そうだったと思う。現に学研の編集部の方でも、油断してチェックが甘くなってしまったのだと思う。正直に言うと、そのときは僕自身も(なんでだよ〜?!)って思ってたし(笑)

その見せることすら出来なかったネーム(下書きラフ)は今も持っているはずだけど、どこにいったかな。とりあえず企画案は出てきた。企画案を見るだけで、そのマンガの内容がわかるので、お見せしましょう。


↓ これが その企画案です
(実際の下書きラフは見つかったら
別の記事として公開する…かも、しれない。笑)

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主役は、はいはいしてる赤ちゃんの「ハヤト」

案の説明文によると
「ハヤトはフライデーナイトになると、
こっそり家を抜け出し愛車『ハヤトスペシャル』で
ハイウェイをぶっ飛ばす走り屋なのだ」
だそうだ(笑)


* * *


この企画案の通り、下書きラフでは
『 赤ちゃんが深夜の高速を爆走します(笑)』

確かに、今ならわかる。代理店の担当さんは、そんな下書きラフはトヨタサイドには見せられないでしょう(笑)でも、当時は分からなかった。いくら普通のマンガだったら問題ないレベルでも、TOYOTAがスポンサーの企画マンガとしては <問題アリアリ> だってことを。

その後、ボツになった この『はいはい・ハイウェイ』の案は、赤ちゃんのドライバーという設定だけを残し、新たな内容で描いた4コマスタイルのストーリーマンガ『赤ちゃんドライバー ハヤト』として焼き直し。そちらは問題なくトヨタサイドのOKも出て、数ヶ月の雑誌連載。その後、連載は まとめられて冊子になり全国の小学校に配られた。


↓ こちらが、そのマンガ『赤ちゃんドライバー ハヤト』新連載時の表紙から

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↓ 中のマンガも、ちょい見せ(第3話より)

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* * *


『赤ちやんドライバー ハヤト』はトヨタ本社 広報部内でも非常に好評だったそうだ。冊子完成後に都内で行われた打ち上げの際にもトヨタ本社 広報部の担当Nさん(実際にトヨタの担当Nさんと対面したのは、この時が初めてだった)から「部内の女子社員みんな、くぼさんのファンで、くぼさんのマンガ大好きなんですよ〜!」「みんなに頼まれてるんで写真撮らせてくださ〜い!」って写真をバシバシ撮られまくった、そのテンションには、正直、口あんぐりだったんだけど(笑)、ボクの描いたマンガをそんなふうに思ってくれことは、とても嬉しいことであり、漫画家としては大変ありがたいことだった。

それにしても、このときのボクはまだ、
この後「TOYOTA」の社内冊子に
4コママンガを十数年も描き続けることになる
とは思ってもいなかったのだった…。


「2」へ続く____


僕が日本を代表する大企業と仕事をした話(1)/終わり


* * *


続きはこちら ↓ (2021.3.19. UPしました)


漫画家 くぼ やすひと(久保マシン(Y)くぽりん)


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