病んでる女にまとわりつかれる夫の話(実は私も??)その8
本当によくわからない状況だったけれど、翼の手前感情的になるわけにはいかない。
家に戻る前に知りえた情報は、この日家を出る時から探偵会社の女性2人に尾行をされていたと言う。
先方も家族団らんの時間を邪魔しては悪い、と駐車場でずっと待っていたところ、広大が一人で戻ってきたので声をかけたと言う。
先日のインターフォンを鳴らしたのも同じ人で、友人の夏子(仮名)の話を聞いて、あまりにもかわいそうなので、話し合おうとした、と言う。
それは。
広大が、その夏子という女性を弄び妊娠させ堕胎させた。広大は、堕胎の後急に冷たくなり、連絡が取れなくなってしまった。携帯電話はもう発売されていたけれど、スマホではなくまだガラケーの時代。インターネットにはつながらず、電話とメール機能くらいしかなかったように思う。
断片的に話を聞いても、まったく全容はつかめないし、その夏子という女は何者なのかもわからなかった。
家に着いて眠ってしまった湊を布団に寝かせ、おもちゃで遊び始めた翼に聞こえないように、もっと詳しい説明を求める。
夏子というのは、仕事がらみのイベントで知り合ったミュージシャン仲間のひとりで、何度かグループで飲んだことがあるとのこと。しかも、夏子は結婚していて、その夫もいつも同席していたので、決して怪しい関係ではなかったという。
その後、夏子夫婦は別居した。一人暮らしを始めた夏子のマンションの向いに広大が引っ越してきて、ずっと彼女を監視している、と夏子が言うらしい。
夏子の夫はその話を本気にして、ものすごく歪んだ考えだけれど、
「そんなにその男(広大のこと)が好きなら」
と全面的に応援を始めたらしい。
本当のところは、この狂った女を持て余していて、できることなら広大に押しつけようと思っていたのかもしれない。
酔っ払って電話をかけてきたのは、この夫だった。
自分の妻にひどいことをした、と思いこんでいたために言葉が荒くなった様子。