ダブルバインドに疲れ果て。(毒母と友達の間で揺れる私)その2
それなのに。
ある日、父母会から帰って来た母は、
「原島さんのうち、離婚してんでしょ?」
と聞いてきた。厚顔。そんなことを娘に聞いてどうするのだ? 多分妙子ちゃんのお母さんは、大人しかいない父母会の席で腹を割って状況を説明したのだろう。
口止めはせずとも、暗黙の了解で、
「ここだけの話にしておいてくださいね」
という気持ちだったに違いない。
私は、母の問いかけに、
「やっぱりそうだったのか」
と思ったのと同時に、妙子ちゃんの名誉のために、
「知らないよー、そんなことー」
とすっとぼけた。
「あら、原島さんのお母さんそう言ってたわよ」
そんなことを言ってはいけないということに、なぜ気づかないのか、気をまわすことができないのか、本当に理解できない。
そういう境遇の子供たちを守るべき立場にいる「教師」なのに、大人同士の会話をいとも簡単に暴露してくる母には、いつも辟易させられた。
こんなひどいこともあった。小5になってからの父母会で仕入れた話。3,4年担任だった新卒の女の先生から、突如30歳くらいの男性の担任に変わったものだから、ある女子が毎日、
「前の先生の方が良かったー」
と泣いてる、と言う。あまりにふさぎこんでいるので相談したら、前の先生と交換日記ができるようになり、今は大分落ちついてきた、という話。
こんな話を私にする目的は、何? その女子がかわいそうということ? 今の男の先生のフォローが足りないということ? 全くわからない。
ただ私も、初めての異性の先生ということで、緊張はしていた。だから、前の気さくな性格の先生と交換日記ができるなんて、羨ましいなとは思った。
でも。
誰にも言わなかった。だって、その女子の気持ちを考えたら、毎日泣くほど辛いのに、とても口外なんてできないだろう。
もし私が、
「えー、ずるい! 私も交換日記やりたいー」
などと駄々をこねたら、どうするつもりだったのか。
本当に子育てが下手くそすぎて、失笑するしかない。
どちらにせよ、それらの話は父母会の最中の懇談の時間に聞いてきただけで、母は誰かと直接会話をしたわけではないと思う。
子供を育てる時は、年齢に応じたちょっとした日々の悩みを共有できるママ友の存在は大きい。大したことではなくても、気になることを相談して、
「大丈夫だよー」
と上に子供のいる先輩ママから笑顔で言ってもらうと、それだけですーっと安心したものだけれど、母は同じクラスの他の母親とそのような関係が築けなかった。だって、自分は偉い教師、他のお母さんたちは無職で主婦なだけ、というオーラを出していたら、誰も仲良くしようとは思わないだろう。逆にお高くとまっているから皆に敬遠されていた可能性は、じゅうぶんあり得る。
だから、妙子ちゃんの話もただ聞いてきたことを私に言っただけ。その裏にある妙子ちゃん母娘の辛い気持ちになど、全く思いが至らないのだった。
もしかしたら、ただ興味本位だけで私に聞いてきたのかもしれない。
その日以来、一体何度聞いてきたことか。しつこいったら、ありゃしない。
「原島さんち、離婚してんでしょ?」
そのうち私も妙子ちゃんから告白を受け、真相を知ったけれど、決して首を縦にふらず、
「知らないよー、そんなことー」
と卒業まで白を切り通した。
母にとって両親が離婚しているイコールちゃんとしていない家庭、という見立て。その頃から、妙子ちゃんへの風当たりが強くなり、電話の取次ぎはもちろん、日曜日など約束なしで遊びに来てしまう時など、本当に嫌そうに私を呼びに来た。
きわめつけは、小学6年生の2学期。
何を思ったか、それまでやってくれたことなどなかった私の誕生日パーティを開催しようと思いついたらしい。
けれども、すべては母主導。招く友達も母が決め、招待状も母が書いた。クラスの女子は、全員招待していた。ただ一人、妙子ちゃんを除いては。
そのことに気づいた私は愕然とし、どうしたらよいかわからなかった。妙子ちゃんは招ばないくせに、1,2年の時に仲の良かった友達には声をかけているこの矛盾。その友達は、新設校には来なかったので、もうずいぶんと遊んでいないし、疎遠になっていた。利発そうな子だったので、母のお気に入りだったから選ばれたのだろう。それと、保育ママの息子。また他の機会に詳しく書くつもりだけれど、この男は、本当に性根が腐っていて、私と弟のことを陰でいじめていた。向かって行こうとすると、
「あ、そんなこと言ったら、ママに言ってもう預かってもらえなくしてやるぞー」
と人の足元を見てくる。殺意を抱くほど、嫌いだった。
妙子ちゃんをどうして招かないのか、怖くて聞けない。
この辺りの感情は、毒親持ちでないと理解してもらえないかもしれないけれど、
「どうして、招待してくれないの?」
と聞いた後に起こるであろうことに思いを馳せると、静かに従うしかないのだった。
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